(12) ~ 実技試験【前編】
とりあえず、筆記試験でおかしなところはなかった。オズはそう自己評価した。ティストンが言っていたよりも、さらに少し簡単だった気もする。
適性試験も、魔術師になる素質があるかどうか……つまるところ魔力がどの程度あるかを把握するための試験であるため、オズは余裕で合格だった。当然、魔力の量は多すぎると不審なので、ごく平均的な魔術師ぐらいの量と言うことで折り合いをつけた。
そうしてやってきた、最終試験。魔法の実技で、どんな魔法でもいいので使ってみる試験である。マッチ程度の火や、蛍火のような光であっても、出してしまえば合格。ここでは、知識を得やすく学ぶ時間も多い貴族の子達の実技を平民達に見せて、その後平民達が自分の力を最大限に使ってアピールするといった形の試験になる。つまり、教師や試験官、貴族、平民が一同に会するのだ。
「では、001から010まで、前へ」
一度に十人程度の受験者が呼ばれ、教師達の前に並んで一斉に魔法を使う。中には詠唱が必要なほど高度な魔法を使う者もおり、そういった者に対しては、教師達も手元の資料に何やらを書き付けていた。
オズは平民の中でも比較的後ろの方の番号なので、試験場の後ろの方で彼らの実技を見ていたのだが、やはり詠唱を使おうとするものは、成功したとしても少々危なっかしい様子の者が多かった。特に、詠唱をして炎の魂を六つ同時に出現させるといった技を見せた子息は、詠唱が終わり炎が現れた瞬間安心したのだろう、大きく炎がぶれ、教師陣が一瞬ざわめいた。まあ、すぐに魔力がそこをつきて炎も消えたため、大事には至らなかったが。
「……オズくん、さっきの人の炎魔法、すごかったねえ」
「え、なんで」
「あんなに大きな炎、一度に六つも出せるんだよ。先生達も反応してたし」
「出した瞬間に大きく炎が揺れて、今にもはじけそうになってたから、多分集中切れてたよ、あの子息。下手をすれば暴走して教室が火の海になるところだった。教師の反応も、感嘆というか危険を感じているようだったし。顔、恐かったよ?」
「うーん、そう、なの?」
威力が大きくて、派手な見た目の魔法は評価が高い。そう思っているらしいレイルに、オズはにやりと笑って指を振る。
「威力が高い魔法もいいけれど、見てる相手は熟達した魔術師なんだ。彼らが恐れるものはなんだと思う? 無知な魔術師の卵がやらかす暴走さ。しかも才能がある……魔力が多いほど、暴走の危険は高まる。そういう奴よりか、マッチぐらいの炎を丸一日灯せるぐらい、安定した魔法を使える方が印象いいよ」
「そ、そんな時間はないよ」
「まあ、それにこの試験、魔法が出せてしまえればいーんだから。あ、ちなみにどんな魔法にするか決めてる?」
「あ、うん、でも内緒だよ」
「オッケー」
そんな会話をしているうちに、聞き覚えのある声が詠唱していることに気づいて壇上を見ると、シャーリーンが静かに胸に手を当て集中しているところだった。
他の子息達は、風を起こしたり水を出したり光を出したりと、思い思いの魔法を繰り出し終わっている中、一人詠唱を続ける彼女に、オズは目を細める。
そうして、彼女が起こした魔法は。
ワッ
彼女を中心に緑があふれ、色とりどりの花が咲いていく。植物操作の魔法だった。
「へえ、規模は控えめ、種だけ事前に持ち込んだのかな。いいじゃん」
足下の花をひとなでした彼女がもう一度詠唱すると、草花は枯れ落ち、散っていく。終わり方も鮮やかで、見事な魔法だった。