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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
第一章『入学に至るまで』
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(11) ~ レイルとの出会い

「あ、あのう」


 平民用の扉をくぐろうとした瞬間、服の裾を捕まれて立ち止まる。振り返ってみると、メガネをかけた気弱そうな少年が、おどおどとした様子でオズの服を掴んでいた。


「え、えっと、き、貴族位の、か、方は、あ、あちらの扉でございます、はい……」


 彼は震える声でそう言いながら、上流貴族からゆっくりと入場しているため、いまいち人のはけていない貴族用の扉を示す。オズは思わず苦笑いを浮かべて、顔の前で手をぱたぱたと振った。


「いや、あの悪いんだけど、俺ちゃんと平民だから。ていうか町の外から来たし」

「え、あ、そうなの?」


 少年はあからさまにほっとした様子でオズの服から手を離す。おそらく、先ほどの騒動を見て貴族関連の人間と思われたんだろうと思いつつ、彼とともに扉をくぐる。扉の向こうではさらに、女子と男子とで部屋が分けられていて、簡単な計測を受けて身体に合った大きさの試験服を着ることになるようだ。試験服はシンプルなワイシャツに黒いくるぶしまでの長さのローブ、男子はスラックスで、女子はローブと同じぐらいの丈のスカートだった。それぞれに、魔法の使用を制限する魔法陣が縫い込まれていて、透視や遠視などを使った不正を不可能にしている。


「……こういうの、平民はいいとして貴族の子供ってどうしてるんだろうね?」


 貴族と言えば、子供から大人まで使用人に世話をさせるものだと聞いていたオズは、ローブを頭からすっぽり被って着ながら首を傾げる。こういった着替えを手伝ったりするのも当たり前だよなあ、それ用の使用人とか連れてくるのかなあと思っていたオズだが、先ほどのメガネの少年が、隣で笑いながら解説をしてくれる。


「知らないの? ええとね、僕ら平民が、貴族なら知ってて当たり前の知識を最低限もっていなくちゃ入れないのと同じように、貴族も平民の子供ができる最低限のこと……使用人がいなくても、自分の世話ができるようになることが、入学条件なんだよ」

「へえー、入学したら自分のことは自分でやれってか」

「うん、だから、魔術師の家系の貴族なんかは、一人で立って歩けるようになったら、着替えとか湯浴みとか、食事とか、自分でさせるんだって。あと、歩いてちょっとのところに行くために、すぐ馬車を用意したりとかしちゃだめとか……」

「え、それは外聞が悪いんじゃない?」

「うん、だから馬車を出さないとか、外を歩かせるとかするのはすっごく厳しいおうちだよ。着替えや食事が一人でできれば、だいたい大丈夫かなあ。たまに入学年齢ぎりぎりくらいで、魔法学校に入りたいって言った貴族の子が、この制度を聞いて怒って大変だったって話もあるよ。無理矢理使用人を三人くらい連れてこようとしたら、校長先生自らその子のおうちの人を魔法学校にいれないって宣言しちゃったり……」


 その後、レイルと名乗った少年に魔法学校のちょっとした噂などを聞いたりしながら(レイルは兄がすでに魔法学校生なのだという)、準備を終えたオズは試験官が案内した教室へ向かった。


「各自、ローブの袖に縫い込まれた番号の書かれている席へ座ってください。机に置いてある問題用紙には触れないように」


 偶然にも隣同士の番号だったレイルと一緒に席を探していたオズだったが、なぜかレイルの席に座ってうたた寝をしている人間がいたので、顔を見合わせてしまう。


「……すごい自信満々な奴だなあ。寝る余裕見せるとは」

「えーっと、僕、すごく困るんだけど……」


 とりあえず邪魔なので揺さぶってみるが、ぴくりとも反応しない。それどころか、うみゃー、ひやー、といった寝言を繰り返すばかりで、起きる気配もない。


「そこ、何をしているんですか」


 案の定試験官から注意が飛んできたので、素直に事情を話してみる。確かにレイルの席は、そのうたた寝している少女のいる場所で、少女の席はそのさらに一つ後ろであった。


「眠いのならば強制退室して廊下で寝ていなさい、やる気のないものは要りません。魔法学校入学試験資格をはくだ」

「受けますですっ!!!」


 本当に魔法で強制退去させられる直前に、彼女は目を覚ました。実は狸寝入りで、話をすべて聞いていたのではと思うぐらい絶妙なタイミングだった。


「ふえっ、なんで私囲まれてるですか!?」

「そこ、君の席じゃないよ。こいつの席」

「はい、で、よけて貰いたいんですが……」

「えっ、ちゃんと確認しましたよ! 私この席だって!」

「あなたの席はその後ろです。早く準備なさい」


 苛立ちまぎれに言いながら立ち去る試験官を見つめつつ、えっええっ、とうろたえる少女を無理矢理立たせて、後ろの席に座らせたオズとレイルはため息をついた。しばらくして後ろから「あっ数字逆に見てました……」というつぶやきが聞こえてきたが、試験開始までもう秒読み段階だったので、無視するしかなかった。

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