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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
最終章『Brave side』
102/104

(101) ~ 奇才アーヴァンス?

 始めこそ怒りのあまり震える口調だったが、最後には怒鳴りつけるような調子となり、その勢いによってフードが背中側へと滑り落ちた。濃い桃色の癖が強い髪を襟足でくくり、黒目の小さなつり目が印象的な青年は、こう叫んだ。


「僕こそが将来の魔術師団長となる、奇才アーヴァンス・ロイドなのだからな! 図書塔は、賢者の住まう場所は、お上りさんの観光場所などでは決してない!!!」


 言い切り、ぜいぜいと肩を揺らしながら息を吐く姿に思わずぽかんとしてしまった美鳥だが、彼女の両腕を掴んでいるレイヴンの手に、じわりと圧力がかかったのを感じて(まずい)と直感する。


「レイヴンだめ。怒り返したらだめ。さっきの言い方はレイヴンが乱暴だったもの」

「やつは、ミドリ様に背を向け続けたあげく、お言葉を無視されたのです。あれぐらい言って当然ですよ」

「なんだ、使用人に向かって恭しい態度など、お前一兵などではなく新人小姓か何かか」

「こしょう?」

「きっさま……!!!」

「はいはーい、レイヴン様待って下さいねー。そしてえーと、ロイド様? 現魔術師団長から才覚ある魔術師とお聞きしてはおりましたが、さすがにちょっと短慮では」

「なにい?」


 とうとう美鳥の腕から手を離し、抜剣の構えを取ったレイヴンを羽交い締めにしたハロードが苦笑しながら言うと、アーヴァンスは顔を真っ赤にさせた。


「短慮など……! いや待て、お前たち師団長にお目にかかっただと。何者だ?」

「今更それを尋ねますか」

「はっはっは! ミドリ様は呆然としておられるし、レイヴン様とハロード様はじゃれるのにお忙しいようですので、シャナ様どうぞお願い致します」

「……そうですね、私が代わりに名乗りましょう。こちらにいらっしゃるはミドリ様、リンブルーリアにて異形のものに対抗する為、三柱とその巫女がお呼びしました最高の召喚術師。そしてそちらにいるのがカルトア大神殿にて神殿第一騎士を務めるコルナ・レイヴン様、第二騎士ハロード様、私は治癒術師のシャナ=リーストン。そして」

「僕はしがない道化、名をカップルと言います。我らは皆、三柱のご神託により救世の巫女であるミドリ様を支え、お守りする役目を負っております」


 ぺこりとシャナの隣でカップルが頭を下げ、名乗り終わる。その頃には、落ち着いた様子のレイヴンからハロードも離れることが出来ていた。そしてなにより、名乗り始めから終わりまでずっと、アーヴァンスは美鳥のことを凝視し、唇をわななかせていた。


「……みはしらの、およびした、きゅうせいのみこ……?」

「あ、はい。すごく偉そうに言われていますが、一応そう見たいです。美鳥・高橋と言います」


 そう言って美鳥が軽くお辞儀をすると、ひっと小さな悲鳴をあげてアーヴァンスは後ずさった。


「あ、え、えーっと……」

「あの、こちらもいきなり乱暴な声かけをしてすみませんでした。私たち、リンブルーリアからこのオーデントで、図書塔の賢者様に会う為に来たんです。それで、そっちに行きたかったんですけど……」


 美鳥は言いながら、アーヴァンスがべったりと背中を貼り付けている扉を指さす。アーヴァンスは油の切れた歯車のように、ぎこちなく首を動かして美鳥の指し示す先を確認すると、またしても飛び退いた。


「ひっ、あっ、あーっとそうだ僕は急用があったので失礼致します申し訳ありま」

「おっとお待ち下さいロイド様?」

「ひょわっ!?」


 飛び退きつつ小部屋の端を通って外へ出ようとしたアーヴァンスだったが、その胴体をがっちりとカップルに捕まえられてしまい変な声をあげた。


「多分後からこちらの魔術師団長様から伝えられると思いますが、先程三柱からご神託の追加がありまして。僕たちの仲間に、あなたも選ばれたそうですよ」

「…………はいいいいい!?!?!?」


 カップルのあっさりとした爆弾発言に、アーヴァンスは彼に捕まったまま絶叫をあげた。


「この!!! 僕が!? えっ救世の巫女って、カルトア大神殿がお呼びした勇者って、あの異形のものに対抗しうるお力を持った、え!? 僕が、共に!?」

「わー、大混乱してる。まあ気持ちは分かるけどねえ僕」

「……また、厄介なのが増えた……」

「なんだか新メンバーとはことごとくレイヴン様は衝突されますねえ。そんなに気を張らなくてもいいのでは?」

「やかましい!! お前の存在も頭痛の種だ!!」


 とたん、わいわいぎゃいぎゃいと騒ぎ始めた男達を見て、美鳥はすすすと頭を抱えるシャナの側に寄っていく。そして、彼女の頭を一撫ですると、わざとらしく「おっほん!」と咳払いをしてみせた。とたん、水を打ったような静けさが訪れる。


「えっと、すごく突然のことでアーヴァンス、さんも驚くしかないと思うんですけど」

「巫女様!!!」

「え、あ、はい?」

「僕のような魔術師風情に敬語など使わずとも結構ですともはい!!! 確かに才覚に関して自信はありますが僕自身は平民の出です!!! どうか!!!」

「あ、そう……かな。じゃあアーヴァンスもびっくりしてると思うけど、えっと、みんなで賢者様に会いに行こう? すっごく賢者様に会いたがってたみたいだし」

「あ、あえ、会えるのですか……図書塔の賢者と、貴方様とともに!?」

「うーんまるで態度が百八十度変わりましたねえ。面白い面白い、青い青い」

「黙れお前は道化だなんだと名乗っていたな!? 道化に面白がられるほど僕は落ちぶれちゃいないぞ!」

「アーヴァンス、カップルさんは多分この中で一番近接戦闘強いから、変に強気に出ない方が……」


 そう美鳥が警告するも遅く、にこにこ笑ったままカップルはアーヴァンスの胴を締め上げ、アーヴァンスは青い顔をしながら「やめっやめっ……!?」と壁をばしばし叩くのだった。

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