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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
最終章『Brave side』
101/104

(100) ~ いざ図書塔へ

 オーデント国王との謁見を済ませた美鳥たちは、そのまま案内の近衛兵に連れられて城内を歩いていた。目的地は、城の端の端に位置した古き時代を知る建造物、図書塔。


「現在、図書塔はほとんど利用されておりません。ときおり文官が古い資料を求めて向かうこともありますが、基本的には城内に新しく設置された図書室に利用頻度の高いもの、より重要なものが収蔵されておりますので」


 案内の途中で近衛兵が教えてくれた図書塔に関する情報に、美鳥はふんふんと頷く。その隣で、あたりをちらちらと伺っていたシャナが不安げに尋ねた。


「あの、図書塔へ向かっているのはわかるのですが、なぜこちらはこうも人が少ないのですか? 少し前に人が詰めている場所がありましたが、それっきりすれ違いもしませんし……」

「あ、そういえば」


 シャナの言葉を聞いて、ハロードも首をかしげる。彼女の問いかけに対して、近衛兵は振り返ると苦笑を浮かべた。


「この辺りには、もともと備品庫や城に常駐している職人達の工房が集められていたんです。しかし、先程も申し上げた新設の図書室の他に、十数年かけて城内の補強工事、部署の移動を行なうことで、この辺りにはほとんど人がいなくなりました。なによりの理由は、図書塔が近いから、なのですが」

「図書塔が近いと何か問題でもあるのかな?」


 カップルが不思議そうに呟いて、顎に指を添える仕草をする。近衛兵はうーんと小さく唸ると、やや声を潜めて続けた。


「賢者に関する、真偽の分からない噂がやたらと立ちまして……。彼の賢者に実力を認められた魔術師は生涯の栄光を約束されるとか、良いものもあるのですが、圧倒的に『会ったら最後』といったものの方が多くて。酷いものになると、くしゃみ一つで国を滅ぼせるとか。まあさすがにそのあたりを信じる者はおりませんが」


 ははは、と笑う近衛兵につられてくすりと笑みをこぼす美鳥だったが、ふと過去の情景を思い出す。あの町、フラトールで幻のようではあったけれど確かに言葉をかわした人。無数の本に囲まれた、彼の姿を。


(そんなに怖い人には、見えなかったんだけどなあ)


 そんな『図書塔の賢者の噂』について話ながら歩いていた一行は、太陽光が差し込む渡り廊下へとたどり着いた。壁は無く、石造りの簡素な柵と屋根が取り付けられており、まっすぐ伸びている。その先には木製の両開きの扉が見え、屋根から少し顔を出して見ると美鳥が今までこの世界で見たどの建造物よりも高い、のっぺりとした塔が見えた。


(あれが、図書塔? と、東京タワーほどじゃないにしても、すごく高くない!?)


 はあー、と口を開けて見上げていると、軽く肩を叩かれて我に返る。振り向くと、肩に手を添えたまま微笑むシャナとばっちり目が合った。


「やはり、賢者様が住むという場所だけありますねえ。ぱっと見窓が見当たらないのは書物を日光から守る為でしょうか? となれば、内部の照明はすべて魔法に頼っていると……なかなか面白そうです」

「そんなところにまで興味がわくのか、お前は」

「おやレイヴン様、好奇心は大切なものですよ。これを失っては人は発展の機会を永久に得られなくなりますから」

「ふん」


 そんな雑談をしながら、近衛兵を先頭に一行は渡り廊下を進んでいく。そして突き当たりの扉の前まで来ると、近衛兵は脇へ避けて、後ろを歩いていた美鳥に向けて扉を示してみせた。


「え?」

「自分はここまでの案内となります。この先にもう一つ扉があり、そこから先が図書塔内部となっております。あとは勇者様と皆様でお願い致します」


 そう言って、近衛兵はそのまま待機の態勢をとった。美鳥が後ろを振り返ると、仲間達は静かに頷き返してきた。それを見て、すうと大きく息を吸い込んだ美鳥は、目の前の扉に手をかける。


(この先に、賢者様がいる……!)


 そうして、勢いよく扉を開いた先には――――。


「……うっ、おお……うぐっ……」


 円形の小部屋と、ほとんど装飾の施されていない扉と、その目の前で膝と手を床についてうずくまり、嗚咽をもらしている黒いローブ姿の人間が見えた。


「…………えーと?」


 あれは賢者様ではない、と思いつつ、美鳥は小部屋の中へ入り、うずくまる人へ近づいていく。


「あのー、もしもし? 大丈夫ですか?」


 しかし、その人物は美鳥が声をかけたことにも気付かないようで、今度は嗚咽の代わりに何かをぶつぶつと呟き始めた。美鳥はそれにそっと聞き耳を立てる。


「くそ、一体これで何年目だ……僕ではまだ力不足……いいや、きっともうすぐ、もうすぐお目にかかれるはず……」


 藍色のローブをすっぽりとかぶっているその人物は、悔しそうにいいながら床についた手をぶるぶると震えさせている。ひょっとして、と思ってもう一度声をかけようとした美鳥だったが、少し強めの力で引き離されてしまう。そしてローブの人物から美鳥を引き離した本人、レイヴンがまなじりを吊り上げながら言い放った。


「おい、お前。この城の魔術師か。そこをどけろ」

「れ、レイヴン!?」


 あまりに威圧的な物言いに慌てた美鳥が他の同行者を振り返るも、ハロードとシャナは顔やら口元やらを手で隠してため息をつかんばかりの様子だし、カップルはそれはもう楽しそうにニヤニヤと笑っている。

 すると、やっと一行の存在に気付いた魔術師が勢いよく立ち上がり、振り向いた。美鳥の呼びかけは気付かなかったが、レイヴンの言葉は届いていたようで、その目には怒りの色が浮かんでいる。


「この僕に向かってそんな口がきけるとは、よほど命知らずな一兵らしいな。ここはお前らのような凡人が来るところではない、即刻立ち去れ!!!」

お久しぶりです。丸二年が経過していたんですね。

自分で「続き読みたいなあ」とか考えつつ「うまくまとまらんなあ」と悩んで、それでもレポート用紙の隅っこにシーンを書いていくうち、一話分は溜まっていました。


まだやつは出てこないのか……脳内で早く出せとうるさいんですけど……orz

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