(99) ~ 国王との謁見
「君が、三柱の呼び寄せたという救世の召喚術師、なのか」
一行は案内された玉座の間で、オーデント国王との謁見を行っていた。が、部屋は先ほどの応接室ほどの広さしかなく、その場で一行を出迎えてくれたのは国王その人と宰相、騎士団長、魔術師団長の四人のみだった。
シャナが美鳥のことを国王に紹介すると、彼はその目に戸惑いの色を浮かべた。宰相と騎士団長も似たような表情をしており、唯一魔術師団長のみが、興味深げに美鳥のことを見つめ返した。
「……いいや、大神殿の、三柱の言葉を疑うべくもないか。すまない、召喚術師殿。私はオーデント国王レヴィウス=エル・トラム=オーデント。我らが世界の危機を、どうか救っていただきたい」
ちょうど青年という歳を抜けだした頃に見える若き国王は、ゆっくりと息を整えると、しっかりと美鳥の目を見つめてそう願った。その真剣なまなざしに、美鳥はスカートの裾を思わずぎゅっと握りしめる。
「そのために、図書塔に住む賢者の力が必要だとも、大神殿から連絡を受けている。それと……」
レヴィウスはそこで言葉を切ると、魔術師団長の方を向いた。魔術師団長は一礼すると、一向に向けてこう告げる。
「水の巫女ファーネリア様より、新たな同行者の名が水の神より告げられたと知らせがありました。彼のものは魔法攻撃部隊に所属する魔術師で、アーヴァンス・ロイドというものです」
「え、仲間が増える、んですか?」
驚いた美鳥の言葉に、魔術師団長は軽く頷いた。
「ええ、水と炎、そして召喚術に秀でた才能ある魔術師です。少々クセのある性格をしておりますが……」
「その者は、今どこに?」
軽く部屋を見回して首をかしげたハロードが尋ねると、魔術師団長ははっきりと苦笑を浮かべた。
「申し訳ありません、通達は出したのですが……おそらくは図書塔にいるものと」
「え? そこって、賢者様がいるって……」
「ええ、ですが別に、塔は閉ざされているわけではありません。彼は、その……才ある者の前に賢者は姿を現す、という伝説を聞いてからというものの、図書塔へ通い詰めているようでして」
「はあ。賢者様って、やっぱりなかなか会えないんですか」
「現在この王宮内で、実際に彼の賢者と出会い、言葉を交わした者はおりません。ただ、あれをご覧下さい」
魔術師団長に促され、金属板がはめ込まれた水晶が並べられている壁を見た美鳥たちは、彼が指さした金属板に刻まれた文字を読んだ。
『建国暦五〇七年 ~ 年 図書塔管理者 オズ』
「……建国暦、五〇七年」
ぽつりとレイヴンが呟く。その様子から、美鳥はそれが今から二百年ほど前の暦なのだと理解した。
「その水晶は、それぞれこの王宮での要職を任されているものの名と、任期を記しております。これもまた魔法の品で、そこに刻まれた情報は決して偽ることができず、役職を示す品が次代の者へ受け継がれたとき、もしくは当代の者が亡くなったとき、その暦が記録されます」
「ということは、この空白の部分にこの役職を辞めた時期が、勝手に記録されるってことですか?」
「ええ。そしてそこは、私の先代の魔術師団長の頃から、変わらないそうです。図書塔管理者を示すメダルも返却されないままだそうですし」
そこまで話して、魔術師団長は美鳥たちに向き直った。どこか羨ましそうな、少し信じがたいようなそんな微妙な表情を浮かべて。
「賢者は図書塔にいるはずです。ですが私たちがあなた方を案内できるのは塔の入り口まで……あとはあなた方自身が、賢者を呼び出して下さい」
おめでとう! Braveサイドでようやく名前が出たよ賢者さま!
………………賢者というか仙人みたいな扱いされてるぞ、お前。