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図書塔の賢者さま  作者: 空色レンズ
第一章『入学に至るまで』
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(10) ~ 貴族ではないよ

 ティストン、の名を借りた校長からの出資で、入学試験に必要なものをそろえたオズは、リリカやアルフ、ルリカたちに見送られて、ティストンとともに魔法学校へと向かった。

 試験に必要なものといっても、駆け出し魔術師用に生産された木製の杖、最低限の筆記用具のみで、服装規定はない。よってオズは、この町に来たときと同じ服を着ていた。リリカによって少しは繕ってもらったものの、他の新入生と比べてボロっちいのは否めない。その上でそこらの貴族の子息なんかよりも整った顔をしているので、試験のために集まった子供達の中で、オズは注目を集めていた。


「それじゃあ、あとは試験官の指示に従うように。無事を祈っているよ」

「はい、ありがとうございました。入学できたら、またお世話になりますね」

「ふふ、君に限って駄目ということはないだろうからねえ。じゃあ頑張って」


 和やかな会話の後でティストンと別れたオズは、ホールに集まる少年少女達を見渡す。

 事前にティストンから聞いた話では、最近の魔法学校は貴族学校のように血統重視での入学ではなく、才能重視の入学方針に変わったため平民出身のものも多いという。ただし、平民出身の中でも最低限読み書きができること、公的な書物にも書かれているこの国の歴史をある程度把握しているなど条件があるため、町に暮らし学のある親の子供が多くなる。農村や漁村出身のものはほぼいない。

 貴族の子供との割合でみると、貴族が六で平民が四、さらにこれを上流貴族、下流貴族と分けているので、実質三つの派閥があるわけだ。基本的に、上流貴族と平民はほぼ面識ないまま卒業となるが、あまり才能がない貴族や、逆に才能にあふれる平民など例外もある。


(で、僕はどちらかというと平民側なんだけど、すっごい遠巻きにされてるなあ。顔のせいだけど)


 貴族は美形。この鉄則も、ほぼ八割方当たっていると言える。

 なので、服は平民よりもボロいのに顔は貴族以上というオズは、ホールのどのあたりに立っていればいいのか、結構本気で悩んでいた。結局面倒だったので、平民よりの下級貴族あたりにいたが。


「……お前、平民?」


 試験官が試験場へ案内するまでの間、試験内容を復習していたり友人と問題を出し合ったりしている子供達が多い中、一人突っ立ってぼーっとしていたオズに、いぶかしげな視線を送る少女が声をかけた。


「ん? いや、どうだろう。まあでも、貴族じゃないかな」


 半分眠りかけていたオズは、相手の顔を見ることもせずにいい加減な口調で返す。すると、周囲の空気がざわめいた。

 何事、と思い声をかけてきた少女を見ると。


(あ、いい線いってる美少女。将来が楽しみな感じ。着てるものも一級品だよねーこれ)


 緩やかにウェーブしている金髪に、少々つり気味な空色の瞳。着ているドレスは装飾の少ない動きやすそうなデザインではあったが、そこここに見える細工や刺繍などに気品がある。なにより、彼女が首にかけている小さなペンダントに刻まれた家紋は、どこかで見覚えがあった。


「……ウェストラード家御令嬢のシャーリーン様に、よくあんな口聞けるな。あいつ」


 ひそりと聞こえてきた、おそらく下級貴族の少年のものであろうつぶやきを難なく拾い上げて、オズはああと納得する。ウェストラードはティストンが試験前に教えてくれた、今年試験を受けるであろう子息や令嬢がいる上流貴族のうちの一つだった。


「……まあ、いいわ。平民の言葉遣いがなってないのは、今更のことだもの」

「はあ」


 じゃあなんでまた声をかけてきたんだろう、というかここ上流貴族がたむろしてる場所じゃないよねと思ったオズだったが、声に出すことを避けるだけの常識はさすがにあった。


「シャーリーン様、いかがなさって?」

「お話の途中で、急に歩いていかれるから、どうしたのかと思いましたわ」


 そこへ、彼女の取り巻きと思われる二人の令嬢がやってきた。彼女らは一瞬オズの方を見て目を見張るも、彼の着ている服を見て無視することに決めたらしい。


「いいえ、ただ、この間会ったフォシウス様ぐらい、妙に綺麗な顔があったから、近くで見てみたくなっただけよ。もう少しましな格好をすれば、楽しめたかもしれないわね」


 言いながら、シャーリーンはオズになにも言うことなく、取り巻きとともにその場を離れていく。なんだい見世物かい、と思いつつ頬をかいたオズは、彼女たちが離れていったとたんに大きくなったざわめきに思わず頭を抱えたくなる。


(いや、別に目をかけてもらったわけでもないし、彼女別に俺に対して好印象もなにも抱いてないから、下級のぼんぼんども俺をにらむなよ……)


 そのちょっとした騒ぎからしばらくして、ホールの壁に取り付けられた巨大な振り子時計が低い音をたてる。ホールの入り口が閉じられ、試験官がぐるりと周囲を見回した。


「それでは現時点でもって、ホール内にいる者を入学試験受験者とする。不正禁止のため、こちらで用意した試験服に着替えて貰う。貴族のご子息方は左手の扉へ、平民の者は右手の扉へ向かってくれ。その後、筆記試験、適正試験、最後に教師陣が評価を行う実技の順に執り行う。以上」


 そう言って、試験官は左側の扉を開けに向かう。右側の扉はもうすでに開かれていて、平民達はのんびりとそちらへ向かっていく。オズも、扱いとしては平民であるので、さっさと平民用の扉へと向かおうとした。

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