待つものではなく〜1年前〜
憬都の勧誘から3日後の放課後。
「できた。こんな感じかな?」
悠の書いた創部のための書類は完璧なものだった。ただし、顧問欄以外。
「まだ、部活も少ないから第二グラウンドは確保できたし部室も大丈夫。人数も足りる。なんで顧問が見つからないのよ?」
悠と憬都とともになぜか教室に残っている澪が言った。
「それより、俺の副部長って決定なんだな…。」
憬都のつぶやきを綺麗にスルーした2人は話を続けた。
「ある程度、サッカーわかるやつがいいんだけどいないんだよね。全く知らないのも困るし。」
淡々と悠は答えた。できることなら中学や高校の部活でサッカーをやっていた人がいい。その経歴を見つけるのは悠でも簡単でなかった。
「仮に見つけたらその顧問に指導してもらうのか?」
「いや、母さんの従兄弟に頼むつもり。」
なんでも、悠の母の従兄弟というのは今大学の教育学部に通っていて高校までプロチームのユースにいたらしい。
「あー、だからあんまりプライドの高いやつダメ。」
さらに条件が難しくなっただけの気がする。
「あら?まだ残ってたの。」
声がした教室の入口のほうを見るとそこにいたのは憬都のクラスの担任である西条飛鳥だった。
「すみません、もう施錠ですか?」
憬都が尋ねるとまだ大丈夫よ、といいながら飛鳥はこちらに近づいてきた。
「サッカー部創ってるんだってね。職員室で話題になってたわよ。」
そういった飛鳥の顔はおもしろそうに笑っていた。
「部員は集まったし部室の確保も大丈夫、で練習場所もコーチもいるんですけど、誰に顧問をたのもうか迷ってて…。」
澪が言った。すると、飛鳥はちょっと驚いた顔をして悠の持っていた創部用の書類を見た。
「本当に…。顧問欄以外、完璧ね。顧問が決まらないってことは顧問は誰でもいい訳じゃなくて条件があるってことかしら?」
書類を見てぱっとまわる頭の早さに感心しつつも渋々といったように悠は口を開いた。
「顧問の条件は3つ。サッカー経験があること、コーチの意見を尊重しつつ自分でもアドバイスできること、馬鹿じゃないこと。」
悠がそういうとさすがに先生の前で、と固まる憬都と澪に反して飛鳥は声を出して笑いだした。
「いいわねー、それ。たしかに頭の硬い馬鹿は使えないからね。…てことで私なんかどうかしら?」
突然の申し出にえっと驚く3人をおもしろそうに気が済むまで眺めたあと飛鳥はいった。
「私、これでも女子サッカーの名門っていわれてる高校でレギュラーのボランチだったのよ?」
やられた、とでもいうような表情の悠は飛鳥に手を差し出した。
「よろしく頼みます、先生。」
この翌日。
陽明中等学校に正式にサッカー部が誕生した。