流されていったのは
迷子になった翌日。
いよいよ新入生がサッカー部に見学や体験入部に来た。
「遊ー!ドリンク切れたー」
「はーい!!!」
遊は慌しく走り回っていた。もちろん新入生の部活開始の日に澪が自分の部活をほおっておくわけにはいかないし、それでも人は増えていく。
「疲れた…。」
紅白戦になってようやく一段落ついたときにはもう遊は疲れきっていた。
「お疲れ、大丈夫か?」
遊のもとにやってきたのは今は休憩の番の憬都だった。手渡された遊用のドリンクを受け取るととなりに座った。
「んー、微妙?絶対、あたしのことマネージャーって1年生は思ってるよね。」
「確かに。」
憬都が言うと遊はまぁ、1人じゃ帰れないからね、と笑う。その言葉は昨日の迷子騒動で証明されている。
「けどやっぱり、あたしは2年生の悠が部長で憬都が副部長なのに驚いたよー」
「そうか?」
驚いたことにこの部には3年生が1人もいない。昨年、部を創ったときからずっと現2年生だけでの活動だったらしい。
「やる気のある子がいっぱい入ってくれるといいね。」
「あぁ。俺と悠の2人から始まった部だけど…やっとここまで来たか。」
憬都も嬉しそうに口角をあげた。
「あ、そろそろ終わるかな?ドリンクとタオル用意してくるね。頑張ってね!」
そう言った遊に憬都はうなずいて返したのだった。
「で、結局ところ入部したのは20人。2年生が13人だから、33人か。」
2週間の仮入部期間も無事に終わり悠、憬都、遊は珍しくミーティングルームに残っていた。
「注目は、やっぱり玲と雅幸と啓良か?」
憬都が悠に尋ねた。神原玲、市来雅幸、九重啓良の3人はもともと悠と憬都が所属していたJrユースの出身者らしい。悠と憬都は息のあった横並びのDFの要であるセンターバックだがこの3人は縦。つまりFWの玲、MFで司令塔の啓良、ボランチの雅幸と並んでいる。
「名前は聞いたことあるくらいだから期待できそうだね。」
「うん、あたしも少ししかみてないけどこの3人は上手だったよ。神原くんはとにかく反応が早いし、市来くんはものすごく人の裏をかいたプレーだし、九重くんは何手も先まで計算してるよね。」
悠と遊も絶賛の3人だった。
「それも大事だけどとりあえず新歓どうすんの?」
憬都の一言で目的を思い出す。今日の目的は新入部員歓迎会をどうするか、だった。
「サッカー部だろ?」
そこで悠は不敵に笑っていた。
ー新入生歓迎会当日。
「なぁ、悠…」
憬都は困り果てていた、不機嫌すぎる悠に。悠の計画で学校の近くのフットサルコートに来ていてこのあとは憬都が予約した店で焼肉。部員はみんな来ているし2人が呼んだ澪も来ている。でも…
「はぁ、遊…」
遊が来ることを拒み結局、来なかったことが相当気に入らなかったらしい。
「悠先輩!!先輩の番ですよー」
「行くっ!!!」
啓良に呼ばれて歩いていく悠の背中をみて再びため息をついた。
「憬都先輩。悠先輩ってやっぱり…」
「あぁ、雅幸の思っている通りだよ。」
雅幸は鋭いからわかっているのだろう。再びため息をついた。
「憬都ー、雅ー!」
走ってきたのは神原姉弟、澪と玲だった。相変わらず姉のわりに弟が小さい。
「ねぇねぇ、悠の機嫌悪いじゃない?それで、どうせ新歓なんて3時前には終わっちゃうし、茅ヶ崎さん家にお宅訪問とかどう???」
また面倒なことに…。憬都はこっそりとまたため息をついたのだった。