その波に
入学式も終わり、遊も少しずつ陽明にもなれ憬都と澪とも仲良くなったころだった。
遊は明日から新入生の部活が始まるのに備えてボトルやタオル、救急箱などを確認しているところだった。
「あれ…?」
救急箱を確認していると何度みても中身の入っているコールドスプレーが見当たらなかった。それだけでなく湿布も残りわずかしかなかった。
「なかったら困るよね…。」
本来ならばどうするべきか誰かに相談したいところだが悠や憬都はもちろん練習で忙しいし澪も今日は自分の部活のほうに行っている。
「確か、登下校の道の途中に薬局あったよね…。」
まだ、あまり慣れてはいないこの周辺の道を思い浮かべる。そして、ミーティングルームのテーブルの上に書き置きを残すと遊は財布だけを持って部室をあとにした。
「あれ?今日は遊来てねーの?」
休憩中、いつも見かける遊の姿が見えず憬都は悠に尋ねた。
「あぁ、明日から新入生も部活OKだろ?だから、備品の整理頼んだ。」
なるほど、と納得する。確かにボトルやタオルの数を数えておいた方がいいかもしれない。どちらにしろ新入生が入ったら追加で買わなくてはいけないだろうが。
「でも、少し遅いね。遊ならあれくらいすぐだと思ったんだけど…」
悠はそう言いつつも練習の再開を告げた。
結局、その日の練習に遊は1度も顔を見せなかった。
「遊、どうしたんだろ?」
他の部員たちが帰ったあとの自主練も終え、着替えもそこそこに遊がいるであろうミーティングルームへ急ぐ。…が、そこに遊の姿はなく代わりに置き手紙があった。
「救急箱の確認をしたらコールドスプレーと湿布がないみたいなので登下校の道の途中にある薬局まで行ってきます…」
「あぁ、あそこか。」
憬都が納得しているのを尻目に悠の顔は蒼白と化していた。
「悠…?」
さすがになにかを感じ取ったのか憬都が話しかけるが遥はうつむいて肩を震わせていた。
「あの馬鹿!!!方向音痴のくせに!!!!!」
ばっと顔をあげると携帯で急いで遊に電話した、が。着信音はミーティングルームの椅子の上にある遊の鞄から聞こえるだけだった。
「…憬都、行くよ!!!」
そう言って2人は携帯をジャージのポケットに入れて走り出した。
「さすがに並木道までは抜けられたはずだよね…。」
並木道を出るとそこからは右と左に別れている。薬局があるのは左。
「俺、一応右側見てくるから。」
「わかった。」
そして見つけたら連絡をいれる約束をして2人はまた走り出した。
別れてから10分ほどたったあと。
「ん…?」
住宅街のど真ん中にひとつの人影があった。
「遊っ!?」
遊だった。手にはこちら側にある薬局の袋を持っていた。
「遊!俺と悠がどれだけ心配したと思っ…大丈夫か?」
言いかけた言葉をやめたのは遊が泣きだしたから。
「ごめんなさい…っ」
それから、泣いている遊をなだめつつ悠に電話。学校で落ちあったあとの悠は本当に怒っていた。
「あのね!方向音痴なんだから道が完璧になるまではダメっていったよね?俺も憬都も練習で疲れてるのに。せめて、携帯くらい持っていきなよ!!!」
そのころに遊もすっかりうなだれていて見ている方がかわいそうなほど。
「まぁ、無事だったから今回は許してあげるよ。」
そして、悠はよかった、と小さくつぶやいてから今度は大きな声で帰るよ、といった。