幸せな日々~始まる前~
「わー!遊園地だ!!!」
それは5歳になった遊、小学2年生になった晶一の夏休み。めずらしくあった両親の休みを利用して2人は遊園地に連れてきてもらっていた。
「お兄ちゃん!コーヒーカップ乗ろう!!!」
元気いっぱいの遊に振り回されるように、しかしちゃんと楽しんで晶一も遊園地を満喫していた。
近くで見守る滋乃も寿貴もニコニコしていた。
この遊園地のアトラクションは子供向けが多く、アトラクションのほかにも子供が遊べる遊具などが揃っていた。
「ねぇ、お兄ちゃんは何か行きたいのある?」
さっきまで自分の行きたいものばかり乗っているとふと気づいた遊がそう問いかけた。
「そうだなぁ、暑いから少し涼しそうなのがいいな。」
ニコニコと言う晶一の言葉に遊はぐるりとあたりを見渡した。そして1つの建物に目を向けると一目散に走り出した。晶一が慌てて追いかけると遊はすでにスタッフにフリーパスを見せていた。
「お兄ちゃん、次はこれにしよ!」
と、晶一の手を引いた。晶一は大丈夫?と聞いたが遊は何もわかっていなかったようで大丈夫!と元気に返事をした。
「2名さま入りまーす。」
カフェとかで休憩しようって意味だったんだけどなぁ、なんて考えながら晶一は遊に手を引かれお化け屋敷に入っていった。
「うぅ...」
入ってからお化け屋敷がどういうものかと知った遊は少し怖がりつつも晶一の手をつかんで歩いていった。人並みよりはお化けを怖がらない性格らしい。
少しだけ力の入る遊の手を見て晶一は笑をこぼした。
「ねぇ、お姉さん。」
そこにいたのは小さな女の子。
「ママ知らない?ママいないの。わたしのこと殺してどっか行っちゃったの...」
演技とは思えないその雰囲気と声、そして霊気に2人一瞬にして背筋を凍らせた。
「お兄...」
「遊、逃げるぞ!!!」
「はぁはぁ、疲れた...」
お化け屋敷の出口で晶一と遊は息を切らせていた。
「あの、すみません。ここのお化け屋敷って小さい女の子の幽霊って...」
晶一が出口のスタッフの人に聞くとスタッフは首をかしげた。
「そんな子いませんよ?」
...。それ以来、2人が小さい女の子の幽霊とお母さんと呼ぶ幽霊が苦手になったのは言うまでもない。
「わー、綺麗!!!」
夕方も終わりに近づき遊園地もライトアップされたころ家族みんなで観覧車に乗っていた。
「また、来たいな。」
普段あまり願いなどを言わない晶一がそう呟いた。
「そうね、またみんなで来ましょう。」
滋乃もにっこり微笑んだ。
「あぁ、お父さんもがんばって休みとらなきゃな。」
寿貴が冗談めかしていう。
その約束が叶えられることはなく、次第に家族はバラバラになり悲しい結末を迎えるのだが...
間違えなく幸せな時はあったのだ。