前にあった~始まる前~
「じゃあ、よろしくお願いします。遊?いい子にしてるのよ?」
「うん、ママもお兄ちゃんもいってらっしゃい。」
遊が4歳の春休み。小学校に入学する晶一がと滋乃がその関係で2泊3日で出かけなくては行けなくなった為遊はその日はじめていとこの家に泊まることになったのだった。
「お邪魔します。」
玄関先でしっかりお辞儀する遊に紅葉は少しさみしそうな顔をして3日間家だと思って過ごしていいのよ?といった。
「遊!!久しぶりー」
その後ろから出てきたのは遊が来るのを楽しみに待っていた悠だった。
2人は決して趣味があったり話があったりするわけではないのだが昔から仲が良い。それは双子だからなのだろうか?
「悠!久しぶり!!」
ニコニコと話す2人を嬉しそう紅葉は眺めていた。
「じゃあ、ゆうちゃん。お部屋に案内するわね。」
滋乃から預かった大きな荷物を持ってやると紅葉は部屋に歩き出した。
「はい!ここ。ゆうちゃんのお部屋よ!」
案内されたのは悠の部屋と一部屋はさんでつながった部屋。内装はピンクや白でかわいらしく統一されていた。
「かわいい!」
本来、息子しかいないこの家にこの内装は不自然なのだがさすがにまだ幼いうちからそれに慣れてしまった遊、悠は真実を知るまでそれに疑問を持つことはなかった。
お互いの部屋の間にある部屋で2人はそれぞれに遊んでいた。男の子らしくミニカーや人形で戦いごっこをする悠と女の子らしくお絵かきをする遊。全く違うことをしているのにふとしたときに同時に顔をあげてお互いに笑い合っていた。
紅葉は大人しい2人に大丈夫だと判断し、夕食を作るためにキッチンへと向かった。
「遊はいいなぁ、お兄ちゃんがいて」
不意に悠が遊に言った。
「うん、あたしお兄ちゃんのこと大好き!!でもね...悠のことも大好きだよ!!!」
的外れだが満面の笑の遊に悠もつられて笑って手をつないだ。
「じゃあ、僕も遊のお兄ちゃんになるね!」
「うん、悠はあたしの2人目のお兄ちゃんだね。」
「はるくん、ゆうちゃん。お夕飯にしましょう...あら?」
紅葉が扉をあけるとそこには手をつないで仲良く眠る悠と遊の姿だった。幸せそうに眠る2人をわずかばかりさみしさを交えた微笑みで見つめた。しかし、それも一瞬ですぐに思考を切り替えた。
「2人とも、起きてごはん食べましょう?」
紅葉は優しく語りかけた。
こうして2人がこの部屋で過ごしたのはあすはずのなかった本来の姿。
それが再び訪れるのはあってはならないことだった。
だってこれは...
本来の姿でありながらあってはいけない姿なのだから。