残酷な結末の~始まる前~
「え、双子ですか?」
1組の若い夫婦が笑顔の産婦人科医に言われたのは予想外の一言だった。
そして、望まない一言でもあった。
「わかりました。双子として産むことは認めましょう。」
その日の夜、茅ヶ崎本家の1番奥の和室には柊麻と夕妃の姿があった。
柊麻は夕妃の言葉に喜ぶがすぐに言葉にある引っかかりに気づいた。
「は...とは?」
嫌な予感をぬぐいきれないまま柊麻がたずねた。
「生まれた子の跡継ぎでないほうは滋乃たちに育てさせなさい。」
それは残酷な一言だった。
「かわいいー、こんにちは赤ちゃん!」
とある5月の昼下がり。3歳の晶一には妹ができた。そう、血のつながりのない妹が。
「晶一、この子は遊ちゃんっていうのよ。今日から晶一の妹になるの。優しいお兄ちゃんになってね?」
うん、と嬉しそうにうなずくと晶一はもう遊に夢中だった。
「お義姉さん、遊のことお願いします。」
手に悠を抱いた紅葉が今にも泣きそうな表情で頭をさげた。それに対して滋乃は少し困ったように笑いながらも任せて、と優しく力強く言ったのだった。
「晶一、お母さんと約束してくれる?」
「約束...?」
紅葉が帰り、遊が眠ると滋乃は真剣な顔で晶一に向き合った。初めて向けられる真剣な顔に少し驚きつつも晶一はうなずいた。
「遊ちゃんは間違えなく晶一の妹でお母さんとお父さんの子供よ。晶一と同じね。だけど周りの人に遊ちゃんを産んだ人が紅葉さんだって絶対に言っちゃダメ。もちろん遊ちゃんにも悠くんにも...。」
まだ幼い晶一に全てを理解することはできなかった。でも、遊の出生について話してはいけない、ということだけはわかった。
「大丈夫!約束するし遊のことは僕が守るよ!だってお兄ちゃんだもん。」
「よろしくね、お兄ちゃん。」
「おにぃちゃ」
「どうしたの?遊」
「晶一くんと遊ちゃんは仲のいい兄妹なのねー」
晶一と遊が兄妹になって2年。2人は近所に仲のいい兄妹として知られていた。
どこに行くにも遊は晶一のあとをついて歩く。それは2歳くらいの下の子ならよくある光景だろう。しかし注目すべきはそれを晶一が拒まないことだろう。
「晶一!遊!!あんまり遠くに行っちゃ駄目よ?」
そんな2人を後ろから見守る優しそうな母。
そんな幸せが永遠に続くと誰もが信じてならなかった。