願うのはただ一つ
『遊へ
弱い兄でごめんな。多分、僕が死んだせいで遊も知ってしまったと思うけど僕は遊の本当の兄ではありません。僕たちは本当はいとこ同士です。
でも遊は頭が良くて歌が上手で優しくて本当に自慢の妹でした。血がつながってなくても僕たちが兄妹であることは変わりません。
母さんが遊にキツく当たっているのに気づいていたのに自分のことばかりで助けてあげられなくてごめんな。たよりない兄で申し訳ない。
でも、僕と遊が兄妹であるよに血のつながりがなくても母さんと遊もちゃんと親娘だよ。だから大丈夫。きっと分かり合える。
だから、迷惑で身勝手なお願いだけど、母さんのこと助けてあげてください。
イチゴ色のネックレスは僕からのプレゼントです。きっと遊のことを助けてくれるはずです。
苺の花言葉は'家族愛'
ずっと見守っています。
晶一』
「お兄ちゃん... 」
手紙を持つ手は震え、涙がこぼれていた。
封筒からはイチゴ色の宝石のついたハートのネックレス。
それをつけると遊はリビングへと歩いていった。
「ママ。」
扉を開け静かにそう言うと、なかにいた滋乃は恐る恐る首をあげた。
その瞳には後悔。そして愛。
「ごめんね、遊。わたし遊に、本当にひどいことをしたわ。」
謝りながら滋乃の頬には涙が伝っていた。
「お兄ちゃんがね。お兄ちゃんとあたしが本当の兄妹であるようにママとあたしも本当の親娘だって...」
滋乃は突然でてきた晶一の名前に目を見開いた。
そしてその言葉を噛み締めるようにそっと目を閉じた。
「長い、親娘喧嘩だったのかしら...。」
「そうだね。本当に長かったね。」
やっと、やっと、晶一と遊の願いが届いた瞬間だった。
「ママ、あたし本当にこっちに戻らなくていいの?」
それからしばらくして滋乃と遊は滋乃の家、つまり遊が13年間住んでいた家で話していた。
「いいのよ。血のつながりも大切にしなくちゃ。それに悠くんのこと将来的に仕事面で支えるんだから。」
滋乃は優しく微笑んだ。
「それに、いいお友達もできたみたいだし大切になさい。」
「ありがとう。」
「それでね、ママたちはしばらく海外に住もうとおもうの。」
気持ちの整理をつけて、また前を向くために。
「そっか!いってらっしゃい」
数日後ー
「今頃飛行機乗ってるのかな?」
休日を悠と2人で過ごしていた遊がそういった。
「さみしいか?」
「さみしい。」
今までならそんなこと言わなかっただろう。さみしい、なんて自分のための言葉。それに対して悠は兄らしく微笑んだ。
「けど、ママと約束したから。」
自分のために...って。
「なら、憬都のことも考えなきゃな?」
「...っ!!!」
穏やかな昼下がりに2人の声が響いた。