引き戻され
憬都によって自室のベットに運ばれた遊の部屋には悠、憬都、澪の3人の姿があった。
あらかたの事情を聞き終えた2人の顔にはなんとも言えない苦い表情がにじんでいた。
「ここは...、あたしの部屋?」
「遊っ!!!」
悠が弾かれたように遊へと駆け寄った。
「よかった...。」
澪もほっとしたようにつぶやいた。
「ねぇ、ママはいるの?」
遊は真っ直ぐに悠を見て聞いた。
「リビングに、母さんといっしょにいる。それと...」
ちょっと待ってろ、といって悠は自分の部屋にいくと1通の手紙を持って戻ってきた。
「これ、渡しそびれててごめん。晶一兄さんから遊への手紙...」
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「遊、今日は本持ってきたよ。」
入院中の遊の部屋にいつものように学校帰りであろう悠がきた。悠が陽明中に進学してからあまり会うこともなっかったがもともと息があうので男女のいとこにしては仲が良かった。
まぁ、実際は血のつながった双子なのだったのだが...。
悠と遊は趣味があう。そのため悠の持ってくる小説にはずれはなく2週間におよぶ入院生活のあいだ、退屈か思いをしなくてすんでいた。
「ありがとう、悠。一昨日持ってきてくれたシリーズもおもしろったよ。」
遊も悠の前ではもともと親戚で集まるときには兄妹のように育ったためか力をいれることもなく自然体になるまでに時間はかからなかった。
「もうそろそろ、クリスマスだね。」
しばらく小説や悠の学校の話をしたあと不意に遊がつぶやいた。
「あぁ。そういえば、遊の体調とか気持ちにもよるけどもし退院したいならクリスマスあたりには退院してもいいって。」
したくないならしなくていいと言われるのは、遊の入院理由が精神的なものであるから。
遊は少し考え、そして口を開いた。
「退院したら、新しい人生って考えていいかな?」
その言葉の真意は遊にしかわからない。けれど悠はその言葉を'1度いままでのことをわすれてリセットしていいのか?'と聞いているように思えた。
「いいんじゃないか?遊がそれでいいなら俺はそれでいいと思う。違うと思ったらそのときまたその考えを変えればいい。」
遊は1度目を見開いたがそのあと口元を緩めてひさしぶりに本当の笑顔を見せて笑った。
そして、3ヶ月の月日が過ぎ。
悠の誘い、柊麻と紅葉の勧め、そしてちゃんと自分のために笑えるように...。
陽明中への転校を決めたのだった。