過去という現実に
「はぁはぁ...」
澪に電話したあと憬都は休むことなく悠に言われた公園へと走っていた。
そこは小さな公園で遊具は砂場に滑り台、それにブランコだけ。その奥のひっそりとたたずむ四阿に1人の人影があった。
「遊っ!!!」
駆け寄ると遊の身体は冷えきっていて意識も朦朧としていた。
「ママ...。」
その一言をつぶやいてそっと意識を手放した。
__________________......
「率直に言うと遊の本当の両親は寿貴と滋乃姉さんじゃない。僕と紅葉なんだ。」
その一言に頭が真っ白になった。
嘘でしょ?といいたいけどあれだけ前置きして、こんなに真剣な目で嘘をついているとは到底思えなかった。それに、紅葉と悠を見れば事実だということくらいわかる。
「なんで...?」
「亡くなったおばあさまを覚えているかい?」
遊は静かにうなずいた。
ー茅ヶ崎には昔から言い伝えがあったんだ。
古いしきたりっていうのかな...。
悠と遊は双子だったんだ。でも"双子"の存在は禁忌とされていてね、跡継ぎではない遊を養子にすること、それが双子だとわかったときにおばあさまが言い渡したことだったんだ。
今でも後悔してる。どうして逆らえなかったんだろう、ってね。ごめんな?遊にばかり辛い思いさせて...。
それで、おばあさまの命令で遊のことは滋乃姉さんのところに預けることになったんだ。言ってなかったけれど戸籍上は養子にはなってなくて僕たちの娘のまま。
「ごめんなさい、おばあちゃんに逆らえなくて。大事な娘を守れない母親で...。」
ー少し、話が変わるんだけどね。滋乃姉さんはあまり茅ヶ崎の血がでなかったことに昔から劣等感を持っていたんだ。それは目の色や茅ヶ崎の圧倒的なまでの頭脳。僕は僕でそれでも努力家な姉さんのこと尊敬してたんだけどね...。
確かに、滋乃は茅ヶ崎の血が薄かったかもしれない。そして、その息子である晶一はさらにその血が薄かった。劣等感は壁をつくりきっと柊麻の尊敬の心は届かなかったのだろう。そしてその劣等感は晶一への異様なまでの教育、そして遊への憎しみへと変わってしまった。
「遊には申し訳ないけど、これからは正しい形に...。遊には僕と紅葉の娘として悠の双子の妹として生きて欲しい。」
遊はその言葉に驚きを隠せずにいた。
「寿貴とも、相談した。けど、姉さんの精神を考えるとそれがみんなにとって最善の選択肢だと思う。」
柊麻は辛そうに、でもきっぱりと言い放った。
「わかったよ、お父さん。」
しばらくうつむいたあと、遊はそう言ってにっこりと笑った。その表情に柊麻と紅葉は何か言いたそうになったが何も言わなかった。
「父さん、母さん。今日は帰ろう。」
悠がそう言うと2人は名残惜しそうにしたが扉を開きまた来るといって出ていった。
「あのさ、俺も聞かされたばかりで混乱してて多分、遊は俺より混乱してると思う。けど、焦らなくていいから。ゆっくりで...」
そう言って悠が出ていったあと、病室に小さな嗚咽が響いた。