夢の中は
「あたしの好きな人...」
後夜祭を1人で抜け出して家へとの道を呆然と歩いていた。11月の夜の風は少し冷たかったがそれが気にならないくらいに遊は混乱していた。
遊にとって'人の思い'は考えることを拒絶したものの象徴だった。鈍感なふりをして気づいていないふりをするのが普通で日常。
でも、啓良にあのように言われたら...
「目をそらすのもそろそろダメってことなのかな...?」
問に答えをくれる人はどこにもいない。
そうして歩いているうちに家が見えてきた。
「あれ?」
家のまえには1人の女性らしき人影があった。
それは遊や悠と同じ青く光る黒の髪をもつ平均より少し高そうな身長の...
「遊っ!!!」
遊の父、柊麻の姉で遊の最も会いたくない人である滋乃の姿にとっさに逃げ出した。
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「お兄ちゃん!!!」
小学校の入学式。
式が終わると遊は真新しいランドセルを背負って廊下まで迎に来てくれた4年生の兄の晶一のもとへとかけていった。黒髪に茶色の目をもつ優しげな晶一はそんな遊に笑った。
「転んだら大変だよ?お兄ちゃんはちゃんと待ってるから。」
そんな晶一に遊も笑い返す。
「さて、父さんが車で待ってるから行こうか。」
「うん!」
手をつないで仲良く昇降口を抜けていった。
「お久しぶりです、おばあさま。」
茅ヶ崎本家。
そこでは今日から小学生になった遊とそのいとこで次期当主である柊麻の息子の悠の入学祝いのために現当主の祖母、夕妃に柊麻、その妻の紅葉に悠、そして晶一と遊の母である滋乃が揃っていた。
「お久しぶりですね、寿貴さん。」
2人の父、寿貴もその輪に加わった。
「では、全員そろいましたね?始めましょうか。」
晶一と遊が悠の隣に座ると夕妃が声をかけた。
入学祝いといっても今日は内輪でのお食事で子供たちは3人仲良く楽しく笑っていた。
しかし、それも終盤に差し掛かると子供たち3人は夕妃の部屋へと呼ばれたのだった。
「悠さんに遊さん、入学おめでとうございます。2人ともしっかり勉強して立派な成績を修めるのですよ。」
はい、と2人はそろって返事をしそれに夕妃は優しい眼差しを返した。
「晶一さん、妹である遊さんのことをしっかりと面倒をみてあげなさい。そして、3人とも聚侑学苑高校の入学に向けて今から努力しなさい。」
そう言って、入学祝いと書かれた箱を2つ取り出し悠と遊に与えた。
「ありがとうございます。」
「がんばります。」
そのあと3人でお庭で遊んであのころは何も知らなくて楽しくて楽しくて...
滋乃からときどき向けられる目にも気づいていなかった。
1年後ー
「授業中失礼します。」
2年生に進級し授業を受けているとまだこの時間が終わるまで30分ほどあるにも関わらず教室に教務の先生が入ってきた。なんだろう、とざわつく教室でみんなと同じように不思議に思っていると突然名前を呼ばれた。
「茅ヶ崎さん、急いで早退の用意をして。」
それからなにがなんだかわからないまま晶一とともに車に乗せられ連れてこられたのは大きな大学病院。
そこにはたくさんの親戚、それに悠たちもいた。
「母さん、これって...」
「晶一。」
呆然としている滋乃に話しかけようとした晶一が寿貴にとめられた。
「おばあさまが倒れたんだよ。」
それから2ヶ月後におばあさまは亡くなって、柊麻さんが予定通り次の当主になって...
歯車はまた大きくズレた。