裏側があるのは〜文化祭の裏側〜
「憬都。」
文化祭の熱で浮かれた学校とは少し離れた部室。文化祭が終わろうとしているなか、ここには静かな空気が流れていた。2人しかいないこの場所で悠は遠くに見える灯りを見つめたままの憬都に声をかけた。
「ホントによかったのか?」
「いいんだよ!」
いつもの穏やかさのない返事に口をつぐんだ。よくない、ということは本人が1番わかってるのだろう。
多分、啓良は遊に告白しただろう、と悠も憬都と同じ方向に目を向ける。自分の妹ながらに鈍感な遊のことだ。自分の気持ちになんて全く気づいていないだろう。
いや'鈍感なふりをしている'というほうが正しいのだろう。でも、そうさせた原因は自分にもある、と自嘲気味に笑う。
そして再度、憬都をみて兄として願う。遊には幸せになって欲しい、と。
「あ、そういえば遊ってお化け屋敷とか苦手なのな。楽しみにしてたわりに途中で本気でびびっちゃってさ...」
「そうなのか?」
遊がお化け屋敷が苦手なんて、双子なのになんも知らないのか...と思うと同時に違和感がわく。前に家族で遊園地に行ったときはそんなことなかったような...
人並みに苦手かもしれないがあくまでも文化祭。そんなに凝ったお化け屋敷だったのだろうか...。
「遊ってよくわかんねーや...」
憬都のつぶやきが響いた。
笑ってるけど笑ってない。
周りに優しいのに自分に優しくない。
気づいてるのに気づかないふりしてる。
「そうでもねぇよ...。複雑に見えて根本的なところはもっともっと単純だから。」
〜♪
「え?母さん。どうかした?」
母からの電話を受けた悠の顔色がみるみるうちに青ざめていった。
「悠...?」
「...やべぇ」
憬都に答えることなく携帯と財布だけを手に取り悠は部室から走り出した。
「おいっ!!!」
文化祭の余韻は欠片もなく、ただただ走り出した。