飲み込もうとする
後夜祭。
それぞれが用意された衣装に身をつつむなかステージの上には先ほどグランプリに輝いた悠と遊、準グランプリに輝いた憬都と澪がいた。
「それではグランプリのお二人から挨拶をもらって四人に最初のダンスをお願いしパーティーを幕開けましょう!!!」
委員長の言葉にまずマイクを渡されたのは遊だった。薄く水色かがった白のドレスに先ほどのティアラをつけた姿はまさにグランプリ。少し時間があったためか表情も幾分和らいでいた。
「投票、ありがとうございました。転校してきて最初の文化祭でこんなに皆さんに見守ってもらえてることがわかって嬉しかったです。これからもよろしくお願いします。」
とにっこり笑った。
「妹ともどもありがとうございます。また1年間グランプリとして恥じなくがんばりますのでよろしくお願いします。」
悠の挨拶が終わるとおもむろにダンスの曲が流れ始めた。
「行くか...」
悠に手を引かれ会場の真ん中で踊り始めた。ちかくでは遊とは対照的にはっりきとしたオレンジ色のドレスを着た澪と憬都が踊りパーティーは幕を開けた。
「緊張したー!」
立食式のため四人で固まって食べているなかで遊が言った。
「俺は忠告したからね。」
ザッパりと悠がいう。
「今年も楽しかったねー」
「まぁ、予想はできてただろ。自意識過剰とかじゃなくて...。」
澪、憬都までがそういうと遊は何も言えず飲み物に手をつけた。
「せーんぱい!!!」
「ん?」
そんなグランプリと準グランプリのみの高嶺の花な四人のもとにやってきたのは玲、啓良、雅幸。
「遊先輩似合いますね!」
「ちょっと玲、私は?」
姉弟喧嘩の始まった二人を尻目に啓良が遊の前に膝をついた。
「俺と1曲おねがいできますか?」
「もちろん。」
そして啓良と遊は会場の中央へと歩いていった。
「いいのか?」
悠の問に憬都は
「あぁ」
と答えただけだった。
「ありがとうございました。先輩と踊れてよかったです。」
ダンスのあと休憩と中庭に出ると啓良はそう切り出した。
「こちらこそ。楽しかったよ、ありがとう!」
遊はふわりと笑って中に戻ろうとした。
「待ってくださいっ!!!」
大きな声に振り向くと真剣な顔をした啓良が遊を見つめていた。
「えっと...どうかした???」
いつもの空気とのあまりにも変わりように遊は身構えた。
「真剣に聞いてください。
俺、先輩が好きでした。けど...
先輩が俺じゃない人を好きだってわかってます。だってずっと先輩のこと見てましたもん。
だから返事はいりません。聞いて欲しかっただけなんて迷惑かもしれないですけど...。」
そう言って自嘲気味に笑った。でもすぐにスッキリとした顔になりありがとうございます、と深々と頭をさげた。そして遊が声を発するのを待つことなく中庭から会場とは逆方向に行ってしまった。
「どういうこと...?啓良くんがあたしのこと好き...???あたしに好きな人?」
啓良の言葉を理解することが出来ず困惑したまま立ち尽くした。
遠くに会場のざわめきが聞こえ、空はどこまでも澄んだ星空だった。