現すように
陽明祭1日目。
この日はどこのクラスも朝早くに登校し最後の準備に勤しんでいた。
遊たちの2年B組も例外ではなくキッチン班は下準備、ホール班は最後の接客の確認、装飾班は焼き菓子をラッピングして並べるなどの作業を行っていた。
「よしっ!じゃあ集合!!!」
集合がかかったのは文化祭開演の15分まえ。衣装をきたホール班、エプロン姿のキッチン班、スタッフTシャツに身を包む装飾班が割り振られた教室に集まった。
「じゃあ!今日はよろしくね。頑張ろう!!!」
その掛け声とともにそれぞれの持ち場に着いた。
「トッピングよろしくー」
「冷蔵庫のあれ取って!!!」
キッチンにはさまざまな声が行き交っていたが下準備がしっかりしていたためか忙しいながらもそこそこの余裕もあった。
「よかった、無事に進んでくれて...」
忙しなく動き回るなか遊がつぶやいた。
「じゃあ、行くか。」
ピークを乗り切り1時すぎ、遊と憬都は休憩に入り校内を周り始めた。
「1年AとC行こう!!!」
1年A組は玲と雅幸の、1年C組は啓良のクラスだ。パンフレットを2人でのぞくとA組はお化け屋敷、C組は劇のようだ。
「劇まで時間あるし先にA組か?
」
憬都の言葉にうなずくと楽しそうにお化け屋敷の会場へと足をむけた。
「いらっしゃいませー、黄泉の世界へようこそ。」
2人を迎えたのは顔の半分が溶けるという特殊メイクをしている女の子だった。
「...。」
さすがに言葉を失った。
「クオリティが...」
そのまま案内されるままに受付へと通された。
「いらっしゃいませ、お2人さまですか...。ん?あぁ、先輩方ですか。」
受付に居たのは狼男の特殊メイクの雅幸だった。
「お疲れ様。なんか、メイクのクオリティ高くて驚いちゃった...。」
遊が正直にそうもらすと雅幸は納得したようであぁ、とうなずいた。
「玲のつてですよ。親の仕事の関係で。」
そういえば、と思い返す。澪が前にそんなことを言っていた気がする。
「ま、楽しんでってください。2名さまご案内です。」
じゃ、と見送られなかに入った。
「うわ、なかもリアル...」
なかは寒いくらいに空気が冷たくよくここまでできたな、と思うほどに真っ暗。これはいつなにが来てもおかしくないな、と思っていたとき...。
「ねぇ、どうして...」
思わず振り向いた2人の前にいたのは女の幽霊ーの格好をした女子生徒。
「わたし、何も悪いことしてないのに...。頑張ったのに...。お母さん、どうして?」
その言葉を聞いた途端、遊の顔は真っ青になり耳を塞いだ。
「おいっ...」
ガタガタと震えだした遊に憬都が声をかけるが反応はない。
「えっ、あのすみません。」
泣きそうになりながら謝る幽霊役の子に憬都はリタイアさせて、というと遊の手を引いて歩いた。
「大丈夫か?」
お化け屋敷を出てしばらく、やっと顔色の戻ってきた遊に声をかけた。それに対してうなずくのを見るとほっとため息をついた。
「...苦手なら言えよな?」
「ごめんね。」
やんわりといった言葉に苦笑いをしながら遊が返した。
「先輩っ!!!」
走ってきたのは玲でどこぞの王様のような格好をしていた。
「雅幸から先輩たち来たって聞いたのにこなくて、そしたら出たって...。」
苦手なのに入ってくれてありがとうございます、と遊に缶ジュースを差し出した。
「心配かけちゃったみたいでごめんね?」
「いえ、全然!それより、そろそろ啓良のクラス始まりますよ?俺、一回目の公演みたんですけどめっちゃ面白かったです。」
「じゃあ、行こうかな?ありがとう。」
そうして笑うと体育館へと足をむけた。
ー行く前まであんなに普通にお化け屋敷を楽しみにしてたのに苦手なんて...。
憬都のなかに疑問を残して。