夏祭り〜夏の思い出〜
そう、それは林間学校から少しさかのぼり8月の頭。
その日はいつもよりも早く部活が終わり、部員たちも浮き足だった様子でそそくさと帰路を急いだ。
「遊ー!用意できた?」
夕方になり2人の共用の部屋から遊の部屋に声を掛ける悠は浴衣姿。そして、
「お待たせー。」
出てきた遊も綺麗な黒地に蝶の模様の浴衣に身を包んでいた。
「じゃ、行こっか。」
「おばさん、ありがとうございました!」
白と紫のグラデーションに桜の模様の入った浴衣を着た澪が大きな和風の家から出てきた。
「お待たせー」
外で待っていたのは憬都と弟の玲。憬都は浴衣、玲は甚平を着ていた。
「ん。行くか。」
「そうですね。」
神社の鳥居の前。
学校から少し離れたところにある少し大きめのその神社は人で賑わっていた。あちこちにあかりが灯りたくさんの出店。ー今日は夏祭りだった。
「待ち合わせまであと10分か...。少しはやすぎたか?」
そこには、私服の啓良と雅幸が時計を見ながら立っていた。
「そうでもないみたいだぜ?」
雅幸の言葉に顔を上げると、少し先のほうによく似た顔の2人がいた。
「遅くなりましたー!」
遊と悠がやってきてしばらくした後、待ち合わせの時間を5分ほど過ぎたところで残りの3人が来た。澪の手にはなぜか綿あめが握られていたが...。
「行こう。」
悠に言われて7人はぞろぞろと歩き出した。
ここの夏祭りの最後には花火が上がる。
とりあえず、と出店を物色し始めたもののその反応は様々。ある程度買ったことろで花火を見ることにしていた場所へと行った。
「どうします?まだ時間ありますけど...」
雅幸の言うとおり花火までにはまだ余裕がある。
「私、もう充分買ったし場所とりしてるよ!遊は出店行ってきたら?」
確かにそう言う澪の両手には焼きそばやたこ焼き、林檎飴、さらにはきらきら光るライトなどたくさんのものがあった。
「俺も待ってるから行ってきなよ、憬都でも連れて。」
悠もそう言って座る。
結局、澪と悠と雅幸が残ることになり遊、憬都、啓良、玲が買い出しに行くことになった。
「えっと、悠がお好み焼きとポテトフライで雅幸がから揚げと焼きうどん、澪がかき氷か...。」
「お好み焼きと焼きうどんは向こうのお店にありましたよ。」
啓良がそう言う。
「じゃあ、啓良にそっち頼んでいいか?」
「はい、玲はどうする?」
少し考えたあと玲はから揚げ食べたいからと反対方向に行くことを告げた。
「あたし、啓良くんと同じ方行っていい?」
なにか食べたいものでもあるのか遊はそちらを希望した。
「了解。じゃあ、買い終わったらまたここで。」
「ありがとうございました。」
お好み焼きや焼きうどんなど一通り買い終え、あとは自分の食べるものを買うだけだ。
「遊先輩はなに買いますか?」
「さっき通ってきたお店のハンバーガー食べたいかな。あとは...」
そうやって考えている遊を啓良は静かに見ていた。すると、ふと途中で遊の視線が止まった。
「なにか欲しいのあるんですか?」
そう、視線の先にあったのは射的だった。
「ううん、あの猫のキーホルダー可愛いなぁって思っただけ。行こう...」
「ちょっと持っててもらっていいですか?」
遊がいい終わるまえに啓良はお好み焼きや焼きうどんの入った袋を遊に渡すと射的のおじさんからコルクを受け取っていた。
そして、、、
「すごっ...」
1発でそれを命中させると遊の元に駆け寄ってきた。
「はい、先輩。」
「あ、ありがとう...」
あまりの早業に驚いたままキーホルダーを受け取った。その瞬間の啓良の笑顔はいつもの少し大人びた感じではなく子どものような満面の笑みだった。
「お待たせー。」
4人が花火を見るために戻ってくるとそこでは澪が1人黙々と食べていた。
「はい、これ。」
頼まれていたものを渡していく。
そして最後に遊は悠にチョコバナナを渡した。
「えっ?悠ってチョコバナナ好きなの?」
澪にそう言われて悠はバツが悪そうに目をそらした。
「悪いかよ!うちの家族は遊も含めてみんなチョコ好きなんだよ...」
その言葉にみんな一斉に笑い出した。
バーン
「あ、花火始まりましたね!!!」
玲勢い良く立ち上がって言った。
「綺麗...」
遊もポツリとつぶやいた。
ー来年もまたみんなで見られますように...。
心の中でそう願ったのは誰ったのだろうか。