求めるのは
遊と憬都は困惑していた。
憬都はなぜ遊の機嫌が悪くなったのかが全くわからなかった。別に怒らせるようなことを言った覚えもした覚えもない。ただただ、いつものように振舞っていただけ。普通に振舞って遊を怒らせたことなんて今までなかった。
遊も遊でなぜ自分がイライラしているのかがわからなかった。憬都の言ったことを自分の中で繰り返しても何も気に障るようなことはなかったはずだ。でも、繰り返す度にイライラは募っていった。
「「あのさ、」」
しばらくの沈黙のあと、それを破ろうとしたのは同時だった。
「憬都、先にどうぞ。」
「あ、あぁ。」
気まずい空気になんともいえないタイミングの良さ。思わず目をそらした。
「ごめん。」
憬都が言ったのはたった一言、それだけだった。遊は目を見開いていた。けれど、少ししてからクスクスと笑い出した。
「ううん、あたしこそごめんなさい。憬都はなにもしてないもん。」
遊の言いたかったこともごめんなさいの一言。そのことになんとなく嬉しさを感じそれまでのことがどうでもよくなる。
「遊!憬都!!!」
声のする方、上を向くとそこには悠と澪、それに担任の西条先生と保健医の先生、学年担当の若い男の先生の5人がいた。
「はい、終わり。骨には異常なさそうだけど、ひどくなるようなら言ってね?」
ちょっと用事があるから待っててね、というと保健医の先生は出ていってしまった。
崖から引き上げられ、手を借りながらレストランまで行きそこの1室で治療を受けた。憬都の左手首と遊の右足首は痛々しく腫れていたが冷やすとそれも引いてきたところだった。
「憬都、あのさ」
遊が不意に口を開いた。それに反応して憬都は遊のほうに目を向けた。
「ありがとう。」
それだけいうと、遊はまた何事もなかったように窓の外を目を向けていた。
「失礼します。」
入ってきたのは保健医の先生でも担任でもなく、悠だった。
「2人とも大丈夫?」
落ち着いた声が響いた。それでも悠も悠で心配してくれていたようでその額には汗が滲んでいた。
「あぁ。俺は利き手でもないし。」
「あたしも少し歩くのは大変だけど、あとはキャンプファイヤーと工作だけだから。」
それを聞き安心した悠はほんのりと笑みを浮かべた。
「なら、レストランのなか行こう。澪が4人分の席とって待ってるからさ。」
「遊!大丈夫?」
悠に手を借りながら歩いてきた遊に澪が駆け寄った。罪悪感もあるのかその目は沈んでいる。
「大丈夫だよ。それより、残り少しなんだから楽しまなきゃ。」
笑っていう遊に澪もつられて笑みを浮かべた。
「おーい、俺には何もなしかよ。」
先に席についた憬都が澪に言うが憬都はどうでもいいの、と澪は一蹴し再び笑顔が戻った。
ー林間学校も残りあと半分。