春になって
ー今日も空は誰の心に影響されるでもなく綺麗だった。
桜の咲く並木道を抜けた先には真新しい学校。私立陽明中等学校、それがこの学校の名前だった。今年、めでたく5周年を迎えたこの学校はまだ新しいながらもともとこの地区にあった私立中学を追いぬこうかという人気を誇っていた。その理由が新しい校舎なのかカリキュラムなのかはたまた自由すぎるほどの校風かはわからないが…。
とにかく、そんな陽明中等学校も5回目の年が始まろうとしていた。
ー職員室。
生徒たちが新年度のクラス割りに一喜一憂しているなか慌しい雰囲気のこの部屋の一角には入学式は明後日だというのに真新しい制服に身を包んだ少女がいた。緊張した面持ちの少女はそこで1人することのないまま目の前のテーブルに置かれていた紅茶に手をつけた。
「お待たせしちゃってごめんなさいね?」
現れたのはその少女の担任だといういかにもできる女、という空気をまとった女性だった。
「いえ、大丈夫です。」
そう答えると担任という女性は口元に笑みを浮かべて少女に言ったのだった。
「ようこそ、陽明中等学校へ。歓迎するわ、茅ヶ崎遊さん。」
その言葉に遊もふわりと笑ったのだった。
ー講堂。
生徒みんなが新たなクラスで盛り上がるなか2年B組のところにいる2人の少年は担任の発表に本日2度目の一喜一憂する他の生徒たちを面倒そうに眺めていた。
「では、最後に転校生を紹介したいと思います。」
司会者の言葉に一瞬にして会場が静かになった。それもそうだろう。この中学に転校するために必要な条件は厳しい。今、ここでYの文字を型どったエンブレムのついた紺のブレザーに蒼のチェックのネクタイやリボンとズボンやスカート。これを手にいれるために彼らは過酷な努力をしてきたものたちが多数だ。
そして生徒たちの好奇の視線の中で壇上にあがったのは光に青く反射する黒の長い髪と瞳のとても綺麗で小柄な少女。
「はじめまして。聖蘭学館女子中等部から転校してきました、茅ヶ崎遊です。よろしくお願いします。」
彼女をみて皆が一応に先程の少年の1人に視線を向けた。そう、少女と同じ色の髪と瞳の同じく綺麗で小柄な少年に。
その視線に少年は周りの視線に気がつかないふりをしてそっと遊と目を合わせたのだった。
「あの転校生、悠の親戚かなんかか?」
2年B組の教室。ちらちらとこちらを見ているクラスメイトの視線を無視して先程の少年、悠と式の際、悠と一緒にいた不自然でなく明るい茶髪の少年は教室の1番うしろの席にいた。
「ん、まぁそんな感じ?憬都、気になるの?」
憬都と呼ばれた少年は別に、というと目をそらした。そんな憬都に悠は意地の悪そうな笑みを浮かべていた。
「憬都にはあとで紹介するよ。」
悠がそういうと教室にチャイムが鳴り響いた。