それぞれが
陽明中サッカー部は順調に市大会を勝ち抜いて地区大会へと駒を進めた。
市大会ではどの試合も見事なプレーでマネージャーとしてついていった遊と澪も大興奮だった。
「あー、地区大会からはさすがにコンクールの練習あるから行けないや...残念っ。」
地区大会を3日後に控えた放課後の部室で澪が言った。
「てか、遊もコーラス入ればいいのにー」
最近、澪はときどきふと思い出したように遊をコーラス部に勧誘するが遊は決して首を縦には振らなかった。
「あたしが澪の分もしっかりマネジメントしてくるから。」
ただ、そう笑うだけだった。
その日の帰り道。
「遊って絶対に歌うの好きだよね。」
悠と遊と別れたあと、2人での帰路についた澪が憬都に言った。
「コーラスに入る気はなさそうだけどな。まぁ、入りたそうには見えるけど...。なんかあるんじゃねーの?」
そうだよね、と澪も同意する。人にはいろいろある。それは自分も同じことだ。
「でも、やっぱりいつか一緒にステージに立てるといいな。」
そうだな、と静かに言った。
そして、澪がコンクール曲の練習に打ち込んでいるとき遊は悠や憬都とともに県大会のグラウンドに来ていた。
市大会で優勝、地区大会で準優勝を納めた陽明中サッカー部は県大会への出場を決めていたのだった。
試合前。そこで練習するサッカー部を眺めていた。
「いいな、打ち込めるって...」
そのつぶやきは風にかき消された。
「そっか、ベスト8で負けちゃったか。」
携帯越しに澪の声が響いた。
健闘したもののベスト8。学校では快挙だと垂れ幕の制作を始めたそうだが部員たちは悔しそうだったし先生やコーチも納得はしていなかった。そこで久しぶりの悠の泣き顔と初めての憬都の泣き顔を見た。
「大丈夫。悔しくて泣けるんだから...。次は、もっと上に行けるよ。」
頭にタオルをかけてうつむいていた2人が少しだけ反応を返した。
それを見て、遊は少し赤い目を細めた。