波がこちらの意志に反し
その日、屋上には1人の人影。そして、屋上の真下の音楽室にもまた1人の人影があった。
ポーン
「はぁ…。」
ピアノの音とともにため息をこぼしたのは澪だった。そのまま何回か音を鳴らすと窓をあけた。
「あれ?」
風にのってかすかに聞こえてきたのは歌声。ソプラノの綺麗に響く声は澪が今まで出会ったことのない、そして理想の声。
「この声、誰…?」
澪がもとめる澪のアルトに負けないソプラノ。
この声と歌いたい、強くそう思った。
「じゃあ、先にタオル持ってくね!」
「よろしくー」
GWの2日目である今日はテスト週間前最後の部活の日、ということで近くにある中学と練習試合をしていた。相変わらず悠について行っている遊と自分の部活に行かずサッカーに来ている澪は2人でマネージャーの仕事をしていた。
タオルを持っていった遊を見送りつつドリンクの用意をする澪の表情はどことなく暗かった。
「あ、ちょうど休憩かな?」
遊がグラウンドに行くとちょうど選手たちがグラウンドから引き上げ始めたところだった。
遊はタオルを置くとドリンクを運ぶために澪のもとへと急いだ。
「大丈夫!もう休憩入ったみたいだよ?」
遊はそう言って澪の作ったドリンクが入ったカゴを持ち上げた。
「澪?」
反応のない澪に遊が呼びかけると澪は慌てて顔をあげた。
「了解!思ったより早かったね。」
違和感を感じた遊だったが何事もなかったかのように2人はドリンクを運び始めた。
ー部活後。
「じゃあ、お先!」
そう言っていつもは4人で残ってミーティングルームで喋ってから帰るのに澪は1人先に帰ってしまった。
「ねぇ、悠、憬都。澪、何かあったの?」
3人だけが残ったところで遊はそう切り出した。
悠と憬都も今日の澪に違和感は感じていたようで考え込んだ。
「あぁ、そういえば昨日、変なこと言ってたかも…。」
「変なこと?」
憬都の言葉に遊が食いついた。
「“どうすればいいんだろう”って。」
どうすればいいんだろう?その言葉に悠はなんとなく引っかかるものがあったようであいつも部活大変だしな、とつぶやいた。
「これからテスト週間だし気分転換っていってもなぁ…。」
憬都もそういった。
”テスト週間“?その言葉に遊はぱっと顔を明るくした。
「なら、みんなで勉強会しようよ!」
ニッコリとそう言った。