聖女は清く正しく美しく誰が為に尽くすなんて誰が決めたの?
数多くの作品から目に留めていただき、ありがとうございます。
「よろしいですか? 全ての国民があなたに期待しているのですよ、百年ぶりに召喚に成功した聖女様なのですからね」
神官長のアルディスは言う。
「聖女とは清く正しく美しく誰が為に尽くす存在なのです。あなたの力で多くの人々が救われる、あなたは感謝され、敬われる存在となるでしょう。ですからそれに相応しい人物でなければならないのです」
そんなことを言われてもピンとこなかった。
聖女?
ついこの間までは普通の女子高生だったのに、本人の意思に関係なく、強引にこの異世界へ連れて来られたのだ。それなのに、なんでこの人たちの言うことを聞かなければならないの? 誘拐されたようなものなのに、この人たちには犯罪意識がない。あたしはこれからどうなるの? 不安で胸が張り裂けそうだ。
あたし、こと増田美鈴は、高校一年の十六歳。あの夜、自室で日課の日記を書いている時、突然、足元に光る魔法陣が出現した。なにコレ? と驚いた次の瞬間、魔法陣に吸い込まれた。
なにが起きたのかわからないまま、気が付くと大理石の大広間にいた。そこは神殿のような場所だった。周囲には見たことのない人々があたしに驚きの目を向けていた。……って、驚いたのはあたしの方よ!
ここはどこ?
みんな茶髪や金髪、銀髪、青や碧や赤の瞳、どう見ても日本人じゃないし、服装も変だった。女性はマリー・アントワネットみたいなドレスを身に纏い、男性も準ずる服装、そして、騎士や神官、修道女らしき人もいた。
「おおっ! 成功だ!」
「聖女様が召喚された!」
「百年ぶりだ!」
「これで我が国は救われる!」
などと言葉が聞こえる。
召喚? 聖女? それって、異世界転移?
ここは異世界なの? そんな夢みたいなことって……。
残念ながら夢ではなかった。あたしは間違いなくこの異世界に召喚されたのだった。
「ようこそ我が国へ」
白いローブ姿の初老の男、後で聞いたんだけど、この召喚儀式を指揮したアルディス神官長が、へたり込んでいるあたしを見下ろした。
その横にはひと際豪華な衣装を引き摺る王国の国王陛下、そして、王太子のジョセフがいた。
ジョセフは金色に輝くサラサラの髪と宝石の如く煌めく碧の瞳、整った顔立ちの、今までお目にかかったことのないイケメン、眩しすぎて目が潰れる! と思ったほどだ。
彼は一歩前に出て、優しく微笑みながら、ポーっと見惚れているあたしに手を差し伸べた。
「私はこの国ランドルフ王国の王太子ジョセフです、あなたの名前を教えていただけますか?」
「み、美鈴、増田美鈴です」
「ミスズ、詳しい説明は別室で致しましょう、ご案内します」
「これで我が国は救われる、よく成功させてくれた、褒美を遣わすぞ」
「有難きお言葉」
国王と神官長は勝手なことを抜かしていた。
案内されたのは、まるで、ベルサイユ宮殿の一室みたいに豪華絢爛な部屋だった。と言っても実際見たことないんだけどね。窓から見える城下町も、中世のヨーロッパ風だった。
近年、このランドルフ王国は魔物の出現が頻発し、多くの被害、犠牲者が出ているらしい。王国の騎士団が討伐に当たっているが、魔物退治は難航し、騎士団も疲弊していた。このままでは王国存亡の危機、そこで神官たちの進言により、聖女召喚の儀式が執り行われたらしい。
聖女が持つ神聖力は、魔物を滅殺し、瘴気を浄化できる。しかし、この世界に聖女は稀にしか生まれない。国を挙げて捜したものの見つからなかった。そこで異世界から召喚することにしたそうだ。
そうして召喚された、いいえ拉致されたのがあたしだった。なんでも、強い力を持っていたから選ばれたらしいが、あたしは普通の女子高生、神聖力? そんな力は持ち合わせていないと思うのだが……。
しかし、あたしに口を挟む余地は与えられなかった。この国のために働く前提になっていて、あたしの意思は存在しない。拉致しておいて、勝手なことを言う奴らだ! とムカついたけど、ここで、嫌だ! と言ったらどうなるのだろう?
酷い目に遭わされないとも限らないので、しばらくは大人しく彼らの言う通りにするしかないと諦めた。あたしはキラキラの聖女服に着替えさせられて、翌日、早速騎士団と共に魔物退治に派遣された。
酷くない?
昨日の今日で、魔物とはどういうモノなのか? どうやって聖女の力を使えばいいのか? そんな説明は無しで、いきなり戦場に送り込むなんて!
あたしは騎士団と共に魔物の発生地域に連れていかれた。
初めて魔物とやらを見た時は、漏らしそうになった。グロテスクな生物が牙をむいているのを目の当たりにし、あたしは足が震えて動けなくなった。
こんなの無理ぃぃ!!!
しかし、神官長が言った通り、あたしは選ばれた聖女だった。確かに神聖力が宿っていた、元の世界にいた時はなかったのに不思議な力を使えたのだ。
手を翳すと金色の光が広がり、包まれた魔物は弱体化した。そのすきに騎士たちが首を切り落とす。そして同じように手を翳して瘴気で汚された土地を浄化した。
あたしの手から発する不思議な光は怪我を治すことも出来る、治癒魔法と言うそうだ。特に、魔物と戦い負傷した騎士は魔物の毒に蝕まれている。それを癒せるのは聖女のあたしだけだった。
治療した騎士たちは涙を流して感謝してくれた。
平凡な女子高生だったあたしは自分の力に驚き、特別な存在になれたことが嬉しく、誇らしかった。みんなから傅かれて、チヤホヤされて、大切に扱われ、単純なあたしは有頂天になった。
初陣を恙なくこなしたあたしは、歓喜する国民に迎えられて王都に凱旋した。
まるでアイドルになった気分。
あたしは特別な人間なのだ。唯一無二の存在、この世界に君臨する聖女様なのだ。
* * *
召喚されてからアッと言う間に一か月、あたしはここへ来たことを感謝するようになっていた。最初は怖かったわよ、なにが起きたか、これからどうなるのか、不安で眠れぬ夜を過ごしたわ。でも今は美味しいものをいっぱい食べて、グッスリ眠れる。
魔物討伐の任務は過酷だった。でも、あたしの力がみんなの役に立つ、あたし自身にも危険はあるけど、専属の護衛についてくれている凄腕剣士のライナスが身を挺して護ってくれる。
彼は黒髪に群青の瞳、黒髪のあたしが馴染みやすいだろうと選ばれたそうだ。元々は伯爵令息だったが、伯爵領が魔物に襲われて壊滅し、家族も領土も失い、一人残されたライナスは騎士として身を立てたらしい。寡黙だが常にあたしを気遣ってくれる優しい人だ。
「俺の故郷、シャリフ伯爵領は魔物のスタンピードで壊滅しました。俺はたまたま王都に来ており助かりましたが、家族全員を亡くしました。伯爵領は今も瘴気に汚染されて人が住めなくなったままです。だから、聖女様が来て下さり、俺みたいに悲しい思いをする者がいなくなることを願っています」
「あたしがシャリフ伯爵領へ行って瘴気を浄化すれば、また、人が住めるようになるのよね、今の仕事が一段落したら行きましょう」
「ありがとうございます」
あたしはライナスと約束したが、そう簡単には動けない身分になってしまった。
* * *
「私の妻になってください」
ジョセフは跪いてあたしの手を取り、甲に口づけを落とす。キラキラしたエメラルドの瞳で見上げられて、心臓が破裂しそうな程ドキドキした。
まるでお伽噺のようなシチュエーション、あまりに現実離れしていて、どう答えたらいいのかわからない。
「私では嫌ですか?」
「そ、そうじゃなくて、あたしの世界では十六歳はまだ未成年で結婚でき年じゃないし、考えたこともなかったのよ」
この国では十六歳になれば成人として認められて、爵位も継げるし、結婚もできるそうだ。
「では、考えてみてください。すぐにとは言いません。私たちは知り合って間もない、私のことをもっと良く知ってもらいたいし、少しずつ距離を縮めていきましょう」
異世界から召喚した聖女が王妃となった国は、その後、栄えたと文献に残されているらしい。この国も百年前に召喚された聖女が王妃となり繫栄したと記されている。
今、この国が度重なる魔物の被害で衰退しているのは、先の聖女が遷化して三十年余り、浄化能力が失われてしまったからではないかと推察されている。昔のような隆盛を取り戻すためにも、先人に倣って聖女を娶るようにと、ジョセフは国王陛下と神官長に勧められたらしい。
「もちろん、聖女と結婚するのは王太子としての役目、でも、ミスズでなければ断っていました。私は聖女として誰が為に尽くすあなたの姿に心打たれたのです。住み慣れた世界から、こちらの都合で連れて来られたにも拘わらす、真摯に取り組むあなたを見ているうちに好きになっていました。これからも魔物討伐と言う危険な任務を引き受けてもらわなければなりません、だから夫として少しでもあなたの支えになれればと思っています」
そう言ったくれたジョセフの瞳は真剣だった。
あたしってチョロい奴だわ。イケメンにこの距離で言い寄られたら、首を横に振れない。こんなキラキラした王子様、普通はあたしなんかじゃ手の届かない存在よ。それに、とても紳士的で優しくて、顔だけじゃなくて中身も最高。こんな素敵な人と結婚できるなんて、こんなシンデレラストーリーを自分が体験するなんて、夢のようだわ。
この世界に召喚されてラッキーだったのかも……。人生が180度変わったんだもの、元の世界にいたら、あたしには平凡な人生しかなかっただろう。こんな綺麗なドレスを着ることも、高価な宝石を身に着けることも、イケメン王子にプロポーズされることもなかった。
そういう訳で、あたしは王太子の婚約者になった。
王太子妃教育も受けなければならなくなり、さらに忙しくなった。
王太子妃教育に協力してくれるは、バロウ公爵令嬢のマリーディアだ。彼女は元々ジョセフの婚約者で、既に王太子妃教育を修了している。あたしが現れなければ結婚する予定だった。
そんな人があたしに王太子妃教育をしてくれるの? 気まずくないのかしら、それより、あたしを恨んでないのかしら?
「聖女様はこの国になくてならない方です。私もこの国の公爵令嬢、国のためになるのなら協力は惜しみませんわ」
そう言ったマリーディアの毅然とした姿はとても美しく、あたしは圧倒された。プラチナブロンドにサファイアブルーの瞳、真珠の肌に整った顔立ちの気品ある美少女、あたしなんか足元にも及ばない淑女だ。そんな彼女よりもジョセフがあたしを選んでくれたことが誇らしく嬉しかった。
魔物の発生はまだ続いている。あたしはライアンや騎士団と共に魔物退治に赴く。数日間、昼夜を問わず戦って、やっと魔物を殲滅し、瘴気に汚染された土地を浄化する。立っていられないほど疲れるが、人々に感謝され、喜ぶ顔を見ると元気が出た。あたしは役に立っているのだと自信が持てた。
王都へ戻れば王太子妃教育、その合間にジョセフとの時間を作って……と言っても王宮内の庭園でお茶するくらいだけど、貴族のお付き合いとはそう言うものだとマリーディアに教えられた。
マリーディアに指導されて、あたしは貴族のマナーを身に付け、ダンスも出来るようになった。
会える時間は少なくても、あたしは幸せだった。ジョセフはとても優しく、そして愛を囁いてくれる。あたしも彼にどんどん惹かれていって夢中になった。
そんな忙しい日々はアッと言う間に過ぎ、半年が経った頃、ようやく魔物の発生は下火になってきた。
「そろそろ、結婚式の準備をしなくてはな」
国王陛下が満足そうに言った。
「聖女様の活躍のお陰で、我が国は救われました。魔物の発生は減り、瘴気に汚染されていた土地も甦って、農民たちが戻っていると聞きます。聖女様に浄化していただいた土地は豊穣が期待されますからな」
アルディス神官長も賛成した。
そうして、半年後に結婚式を執り行うことに決まり、準備されることになった。
あたしはジョセフとの未来に胸を膨らませた。
しかし……。
* * *
「あんな黒髪黒目の地味な女は私の妻に相応しくないが、聖女だから仕方なく娶るのだ。私が愛しているのは君だけだ、ミスズは所詮お飾りの妻、君だけを愛すると誓おう」
どこからか届いたジョセフの声を聞き間違えるはずはない。
聖女の力にはいろいろな種類がある、魔物討伐に必要な攻撃や浄化、結解、治癒だけでなく、透視や透聴も備わっている。離れた部屋の会話もキャッチしてしまうのだ。特に大好きなジョセフの声は……。
「魔物が殲滅されれば彼女の役目は終わり必要なくなる。速やかに消えてもらえばいい。少し待ってもらうことにはなるが、未来の王妃は君だ」
「嬉しいですわ、ジョセフ様」
姿は見えなかったが、それはマリーディアの声に間違いなかった。
消えてもらうって何?
殺すってことかしら?
マリーディアが王宮に残っているのはこの為なのだ。いつかあたしを殺して後釜に座るつもりなのだ。あたしに王太子妃教育をしながら、心の中では『こんなの必要ないのに』と嘲笑っていたのだ。
その後に聞こえてきたのはマリーディアの喘ぎ声、二人がなにをしているのかは想像に難くない。
酷い!
全身が凍り付いた。
あたしを選んでくれたんじゃないの? 好きだと言ってくれたのに、あんなに優しくしてくれたのは全て演技だったのね!!
悲しかった。
悔しかった。
腹の中が煮えくり返る。
はて……この感情は、前にも味わったことがある。
この世界へきてから早一年近く経つ。その間、日々忙殺されていたので、すっかり忘れていたが、あたしはこんな風にコケにされたことが以前にもあったことを思い出した。
ああ、あたしってなんてバカなんだろう。学習能力がないんだろう。男なんて、二度と信じないと決めてたのに……聖女に祭り上げられて、チヤホヤされて、舞い上がって、すっかり忘れていた。
高校に入学して二カ月が過ぎたころ、突然、三年生に交際を申し込まれた。立浪勇人、サッカー部の人気者でかなり目立つイケメンだ。
なんであたしが?
驚いたものの、断る理由などなく、即OKしてしまった。
特に美人でもない普通のあたしが、キラキラした王子様と交際をはじめて注目を浴びた。それからの一カ月は夢のような日々だった。先輩は優しく、あたしを大切にしてくれた。あたしは彼に夢中になった。そして、あたしの初めてを全部ささげた。
でも、夏休みに入ると、受験を理由に距離を置きたいと言われた。三年生だから仕方ないことだ、寂しいけど我慢するしかない。
彼と過ごす夏休みの予定はなくなったが、有難いことに慰めてくれる女友達はいる。その日は映画を見た後、ファミレスへ行った。
そこで立浪先輩の声が聞こえた。懐かしく感じるくらい会っていなかったがすぐにわかった。今から思えば、あたしには特別な能力が既にあったのだ。あの喧騒の中で、遠くの席にいる彼の声を拾ったのだから。
しかし内容は、聞かなかった方が良かった。
あたしと付き合ったのは〝罰ゲーム〟だったのだ。
なんの罰かは知らないが、最初に通りかかった女子と交際すること、エッチをすれば終了、と言うことだった。だから終了された。
ショックのあまり一気に血の気が引いた。
胃がムカムカする。
目の前のパフェが食べられない。
あたしは急に気分が悪くなったと言って一人で店を出た。
酷い!
あたしを好きだと言ってくれたのに、あんなに優しくしてくれたのは、すべて演技だったのね!!
悲しかった。
悔しかった。
腹の中が煮えくり返る。
同じだった。
また騙された。あたしってほんとチョロい女だ。それに男運が悪いのかしら。しかも今度は殺そうとしているなんて。
あの日の夜、あたしは鼻を啜りながら日記に先輩の事を書き殴っている時、召喚されたんだ。
突然の失踪に家族は驚いているだろうな。心配しているに違いない。
あの日記は読まれただろうか?
ここからは希望的観測。
失踪した訳を知るために日記を読んだ両親は、あたしが先輩に弄ばれて傷ついたことを知る。もしかしたらそれを苦に自殺、なんてことを心配して、学校に駆け込む。事情を把握するために先輩は呼ばれる。あたしたちが交際していたことは友達も知っているし誤魔化せないはずだ。先輩は失踪――どこかで自殺しているかも知れない――するまであたしを追い詰めた屑認定されて、白い目で見られる。受験も失敗する。
なーんて、そんな騒ぎになってるかしら?
今更ながら、突然、行方不明になったあたしを両親は心配しているだろうと思うと涙が零れた。
あたしは元気よ、でも、また男に騙されっちゃった。
でも、殺されるのは嫌だわ!!
* * *
「あたしは王太子と結婚することは出来ません」
結婚式の準備が着々と進む中、あたしは謁見の間で国王陛下に申し出た。
「なにを言ってるんだ? もう準備は進んでいるのだぞ、国を挙げて盛大に執り行う予定なのに」
国王陛下は椅子から腰を浮かした。
「そうだよミスズ、マリッジブルーと言うやつか? なにも心配はいらない、私が君を支えるから」
国王の後ろに控えていたジョセフは驚いてあたしに駆け寄った。
「資格が無いからです」
あたしは彼に見向きもせず、真っ直ぐ国王陛下に目を向けていた。
「資格とは?」
「王太子妃は乙女でなければいけないと聞きました。あたしは前の世界で恋人がいて、既に彼と結ばれています」
「なんと!」
「ふふっ、聖女は清く正しく美しくなければならないのですよね、あたしは清い体ではない、それを隠していたから正しい人間ではない、そしてなにより、美しくありません。聖女の条件を一つも満たしていないのですから聖女ではないのですよ」
「しかし、神聖力で魔物討伐に貢献しているではないか」
「だからそれも止めます、聖女じゃないんだから、誰が為に尽くす理由もないでしょ?」
「それは困る、其方は実績を上げているではないか」
「いいえ、先ほども言いましたが、条件を満たしていないあたしは特別な力を持っていても聖女ではありません。これ以上、利用されるだけなんてまっぴらです、たから王太子殿下と結婚出来ません。ジョセフ殿下は魔物が殲滅されればあたしは必要ない、速やかに消えてもらうって言ってたんですよ、だからもう魔物は討伐しないわ、魔物がいる限り、あたしは殺されないってことですもの」
「なにを言ったんだ! ジョセフ!」
「私はそんなこと言っていません!」
「嘘! ハッキリ聞いたもの、あたしを消してマリーディアを王妃に迎えると話していたわ」
「だから、そんな話は」
「あたしの力は魔物を倒すだけじゃないのよ、透聴もあるのよ」
知らなかった? 他にもまだ使っていない能力もあるのよ。
「不要になれば殺されるとわかっていて、なぜあなたたちの為に働かなきゃならないの? 元の世界に戻れないのなら、もうどうなってもいいし」
あたしは開き直った。
「愚息がすまない、こやつは廃嫡する」
国王はわざわざ玉座から降りて、あたしの前に屈んだ。
「廃嫡って?」
「王太子の地位から降ろすと言うことだ、そして北の塔へ幽閉しよう、二度とそなたの目に触れないようにしよう」
「父上!」
「王妃になろうなどと不埒な野心を抱いたマリーディアは辺境の地の修道院へ送ろう」
「そんな!あんまりです!」
控えていたマリーディアが悲鳴に近い声を上げた。
あんまりなのはどちらかしら? あたしを殺そうと計画していたくせに!
* * *
数日後、宣言通り、ジョセフは北の塔へ幽閉され、マリーディアは辺境の地の修道院へ送られたらしい。
国王の決断が早かったのは、ジョセフにスペアがいたからだったらしい。今や救世主として国民に崇められている聖女の機嫌を損ねては大変と、直ちに行動したのだ。
「なんと愚かなことを考えたのだ、ジョセフ殿下は……。魔物が殲滅された後でも、聖女はその存在だけで国が繫栄すると文献に残されていることを知っておられたはずなのに」
アルディス神官長は残念そうに言った。
「あたしが気に入らなかったんじゃないですか、ほら、マリーディアさんみたいに美人じゃないから。でも、正直にそう言ってくれればよかったのに、あたしは別に王太子妃になりたかったわけじゃないし。そりゃ、イケメンの彼に夢中になってしまったのは認めるわよ、素敵な王子様と結ばれるのを夢見たのも確かよ。でも、あの二人が愛し合っていたのなら引き裂くつもりはなかったし、無理に結婚してもらわなくてよかったのよ。それに、後で殺そうだなんて計画しなければ、こんなことにはならなかったのに」
二人の人間の未来を奪ってしまったことには胸が痛んだ。
「あのお二人は、あなたが来る前に政略で婚約された間柄、愛があったとは思えません。おそらく娘を王妃にしたいと望む、マリーディア嬢の実家の思惑だったのではないでしょうか。ジョセフ殿下は……うまく言い包められたんでしょうね」
女性の色香に惑わされた愚かな男だったという訳か? まあ、イケメンに目が眩んだあたしにはなにも言う権利はないけれど。
「第二王子殿下、今は王太子殿下ですが、彼との婚約を拒否されたそうですね、国王陛下はたいそう落胆されておられますよ」
「それであたしを説得しろと言われたの?」
「国の繁栄のためにはそれが望ましいのですが、無理でしょう、と言いました。一度失われた信頼を取り戻すには時間がかかります」
「神官長は本当にあたしに国を繫栄させる力があると思ってるんですか?」
「結果が証明しているでしょ、あなたが来てくれてこの国は救われたのですから」
「来てくれたんじゃなくて、無理やり拉致したんでしょ」
「それは厳しいお言葉ですね」
アルディス神官長は苦笑した。
「そもそもあたしなんかに王妃は務まりません」
それに当分男は懲り懲りだ、きっとあたしは男運が悪いのよ、それはどの世界でも同じなのだ。
「これから、どうなさるおつもりです?」
「魔物の出現は減りましたが、まだ油断は出来ないでしょ、それに、あたしが来る前に襲われて、瘴気にまみれた土地があるらしいし、そこを浄化しにいきます。護衛騎士のライナスと約束したんです。彼の故郷を浄化すると」
「覚えていてくれたんですか?」
今もあたしの護衛騎士を務めてくれているライナスがそれを聞いて嬉しそうに言った。
「当たり前よ、ずっと気になっていたのよ、やっと約束を果たせるわ」
その後すぐに、あたしたちはライナスの故郷、シャリフ伯爵領へ向かった。
望んでこの異世界に来たわけじゃないけど、ここで必要とされるなら、清く正しく美しい聖女じゃないけど、この力をこれからも人々の役に立っていくつもりだ。
おしまい
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