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【IOF_97.log】戸籍を作ろう

 お疲れさまです。

 駐オヤシーマ王国日本国臨時代理大使兼ねて臨時代理領事兼ねて警察庁長官官房付兼ねて警視庁異世界警察署長警視正福原珠梨です。

 勤務中異常なし。


 土田さんが特異行方不明者ご本人だと確認できてよかったです。

 DNA鑑定のおまけで、異世界転移による「チートスキル」というものがDNAの変異で説明できそうだということが分かりました。

 変異する領域によっては不老不死になったりするかもしれないと思うと、異世界転移ってすごいなと思います。もし、世界間移動が実現して、何度も行き来できるようになったら、DNA情報があちこち変異して大変なことになってしまうのでしょうか。それは困ります。

 それはさておき。

 報告書の意見に書いた「現地での異世界人の捜索及び保護活動」が承認されました。

 この活動に必要な費用は、日本から金のインゴットとして提供されます。それを、こちらの通貨と交換する流れです。

 活動資金は確保できました。次は、この活動に領主の了解をもらう必要があります。さすがに、領主に無断で領内の人について調査を行うわけにはいきません。

 私は、山奥係長の運転で領主邸を訪ねます。

「山奥ではなく奥山です」

 運転席の奥山係長が独り言ちます。

「独り言じゃないんですけどねえ……」

 どうやら誰かに言っていたみたいです。

 領主邸に着くと、ローレルさんとご挨拶をしてヘキチ閣下の執務室に通されます。

 領主邸が異世界警察署分室のような位置づけになりつつあるこの頃です。

 署を領都や王都に移築できれば仕事もやりやすくなるのでしょうが、鉄筋コンクリート造り地上6階地下1階の建物をほいほい移築できるわけもなく……それに、今の場所から離れると軽油の供給に支障が出ます。異世界生活は、ままならないものです。


「こちらの領では、人頭税のようなものは課されていますか?」

 時候の挨拶を終えた私が本題に入る前提確認を行います。

「もちろん徴収している」

「人頭税の根拠になる領民の把握はどうやっているのですか?」

「収税を行う役人が全戸を回って人数を確認して、その人数に応じて徴収してるな」

「その人数の元になる戸籍のようなものはないのですか?」

「なんだ、そのコセキというのは?」

「戸籍というのは、家ごとに生まれた者、亡くなった者、嫁いだ者などを記録する帳簿です。先日ご紹介した紙を使えば帳簿を作ることができます。戸籍を作ることにはたくさんの利点があります」

「ほほう、どのような利点があるのだ?」

「この地をさらに豊かに治めるには、領民の名と家を正しく記す帳簿が欠かせません。誰がどこに住み、どれほどの田畑を持ち、何人が働けるかを把握できれば、税は正しく徴収でき、兵の数も即座に計算できます。その帳簿こそ、我が国で『戸籍』と呼ばれているものです。一度戸籍を整えてしまえば、戦の備えも、村ごとの争いの裁きも、すべてが明確になります」

「なるほど、コセキというものは有用だな。確かに今の徴税は口頭で聞き取るだけだ。これだといくらでもごまかしがきく。事実、それほど人の出入りがないような村の人数がおかしなほど増えたり減ったりしていることがある」

 それは税金をごまかしているかもしれませんね。

「そうなると、これは国家事業だな。一つの辺境伯領だけでやっても効果が限定的だ。先触れを出しておくから、フクハラ様とローレルでタイロンを説得してくれないか」

 承りました。

 そうだ、王城に参内するなら、前に頼まれていた国の会計帳簿の点検もやってしまいましょう。

 今回の登城でやることが全部で三つになりました。


 1 戸籍の整備を王国規模で行う

 2 その過程で異世界からの転移あるいは転生者を発見、保護する

 3 王国の帳簿点検で税収減少原因の特定


 そして、今、私はトラックで王都に向かっています。

 オーメ領では、すっかり「トラックの神様」として名を馳せています。

 神様じゃないんですけど……

 なんか、そんな題名の歌があったような気がします。

 今回トラックに乗っているのは、ローレル様と小路さん、そして私です。

 2トンのトラックは乗車定員が3名です。なので、3人で乗れなくはないものの、真ん中に座る人は両側から挟まれて少し気の毒です。気の毒な役は小路さんにお願いしました。もっとも、私以外のお2人は、どちらも小柄で華奢なので3人でもさほど苦になりません。

 両側の窓を開けて、気持ちのいい風を受けながらオーメ街道をひた走ります。街道沿いではトラックが走っていても驚かれなくなりました。ここでもいずれ「トラックの神様」とか言われるようになるのでしょうか。

 王都が近くなると人通りも増えてきます。交通事故を起こすと木村係長の仕事を増やすことになるので、速度を落として慎重に運転します。

 王城の門を難なく通過して中庭にトラックを停めます。ローレルさんの「わたくしですわ」の一言で門番さんの顔が引きつっていました。ローレンシア・メグロ・テンテルウス第四王女殿下の威力は絶大ですわね。

「門番の顔が引きつっていたのは、フクハラ様がいらしたからですわよ……」

 なぜ私が登城すると門番さんの顔が引きつるのでしょう? 解せません。

「フクハラ様は、日本国を代表するお方。その日本国は、わたくしどもでは足元にも及ばないほど高度な文明と統治体制をお持ちです。ですから、もはやフクハラ様はこの国おいては国王よりも畏怖される存在なのです」

 なぜかローレル様がドヤ顔でいらっしゃいます。

 そんな話をしながら歩いていると、国王の執務室前に着きました。どなたの案内もなしに勝手に歩いてきてしまいましたが、よかったのでしょうか。


「お父様、フクハラ様をお連れしましたわ!」

 ローレルさん、ノックもせずに勢いよく執務室のドアを開け放ちました。

「わっ、びっくりした! ノックくらいせんか。あと、城内では陛下と呼べと言っているだろう」

 タイロンさん、気苦労が絶えないようです。

「お父様、本日も国の行方を左右する重要なお話でしてよ」

 タイロンさんの許しもないままソファに座って腕組みをするローレルさん。大物です。

「ジュリが来たときで、国を左右する話がなったことがあるか?」

「んー……ございませんわね」

 ローレルさんがこてんと首をかしげます。

「ジュリと……たしかコウジさんだったな。2人とも座ってくれ。大まかなところはヘキチからの先触れで承知している。だが、その『コセキ』というものについて理解が及んでいない。すまないが詳しく聞かせてくれ」

 私は、戸籍制度とはどういうものか、これを整備するとどれだけのメリットがあるのかを辺境伯邸のときのように具体的に説明しました。

「なるほど。興味深い制度だな。ヘキチが国家事業だと言うのもうなずける」

「現在、平民は家名を持ちません。戸籍を作るには家名が必要です。そこで、この際、全国民に家名を持たせます。つまり『○○さん』から『どこそこ家の○○さん』にするのです」

「ううむ、そうなると貴族連中が反対しそうだな。今は家名を持てるのが貴族としての地位を裏付けているようなところがある……」

「わたくしどもの世界にも貴族制度を持つ国があります。しかし、そこでも国民が家名を持つことに貴族が反対はしていません。貴族の権威は、家名を持つという形式的なことに求めるのではなく、いかに貴族としての義務を果たしているかではないでしょうか」

「貴族の義務は、領民の親として庇護し養うことです。徴税は、そのためのコストであって、貴族がいい暮らしをしたり着飾ったり社交の場を楽しむためのものではありません」

「わたくしどもの国の言葉に『爾俸爾禄 民膏民脂 下民易虐 上天難欺』というものがあります。『お前が、お上からいただく給料は、民のあせとあぶらのつみ重ねで作られたものある。下々の民はしいたげやすいけれども、上天をあざむくことはできない』という意味です」

「これは、役人の心得を説いたものですが、そっくりそのまま貴族にも当てはまると思いませんか? 実は、建国の祖テンテル様もこの言葉を引用して民を率いる者の心得を説いているんです」

「いや、まったく恐れ入った。ジュリの見識には驚くばかりだ。ところで、最後に言っていたテンテル様のお言葉だが、それは我が国のミセラニアス教にも、そして王家にも伝わっていないものだ。ジュリは、どこでその言葉を?」

 やらかしました!

 調子に乗って余計なことを口走りました。

 あれは川路大警視が好んで使っていたものです。まさか、この場でテンテル様が川路大警視の転生だったとは言えません。

「あ、いえ、すみません。ちょっと記憶が定かではないので勘違いだったかもしれません……」

「まあいいだろう。これでジュリがテンテル様の再臨であるとする理由がひとつ明らかになったわけだ。そうだろう? この国の誰も知らないテンテル様のお言葉をジュリが知っているのだぞ」

 すみません。もう帰っていいですか?

「逃しませんわよ」

 ダメでした。


「と、とにかく……戸籍を整備するには家名が必要です。そして、戸籍の基礎となる全国民に対する調査を行う際に、併せて行っていただきたいことがあります」

「ほう、それは?」

「先日、オヤシーマ王国内で日本国から転移してきた男性を発見しました。もちろん、署にいるわたくしたち以外の男性です。わたくしたち以外にも転移者がいることが明らかになったことで、さらに他にも転移又は転生した人がいる可能性が浮上しました。それを確認したいのです。これは、日本国政府にも承認された日本国として依頼したい調査でもあります。ですから、日本国としては、今回の調査に要する費用の半額を金塊としてお支払する用意があります」

「お互いに利がある話ということか……」

「はい。しかも、異世界人は、こちらにはない知識や技能を持っている可能性があります。それらを発掘して国の発展に役立てることも可能かと……さらに、これもつい最近明らかになったことなのですが、今回、日本国から転移してきたわたくしども9名は、全員が何らかの能力に変化をきたしています。ある者は、思考が非常に速くなり一度に複数の思考を行うことが可能になりました。またある者は、不老あるいは超越した回復能力に近いものを得ることができています。先日、発見した異世界人は疲れにくくなるという変異を体感しています。このように、異世界から転移してきた者は、何らかの特異な変化が生じている可能性が非常に高いです。全国民に対する調査で、これらの能力を生かすこともできましょう」

「分かった。その提案に乗ろう。ところで、どうやって異世界人であることを確かめるのだ?」

「それについては、すでに案がございます。戸籍調査の元になる原紙はこちらで印刷してご用意いたします。その原紙の枠外に次のような一文を追記いたします」


 Are you someone who has been transported or reincarnated from another world ?

 □ Yes


「なるほど……」

 ローレルさんの肩越しから覗き込んだマーガレットさんが頷きます。

「見たこともない文字だな」

 タイロンさんは腕組みをして文字を眺めています。

「はい。これは『英語』といいまして、わたくしどもの世界ではどこの国でも通じる共通語となっています。異世界人がこれを見れば、もしその人が日本国民でなかったとしても、この一文の意味は理解することができます。そして、『□ Yes』にチェックを入れたら、その人は異世界人です」

「よし、その計画でいこう」

 こうしてオヤシーマ王国の戸籍整備事業が開始されました。

 この事業で整備された戸籍が、後のオヤシーマ王国発展に大きく寄与したことは言うまでもありません。


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