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【IOF_95.log】DNAの異変

 お疲れさまです。

 警視庁公安部公安総務課長警視正戸床(とどこ)公太郎(こうたろう)です。

 勤務中異常なし。


 俺は夢を見ているに違いない。

 そうでもなければこんな報告書を目にするはずがない。

 警視庁の警察官が一斉に異世界に転移したということは承知している。総監が異世界から派遣された幽霊と会って直々に確認したらしいから、それは間違いない事実なのだろう。

 警視庁が異世界や幽霊の存在を公式に認める時代が来るなんて、誰が想像できた?

 想像できた奴がいたら健康管理本部でカウンセリングを受けるべきだ。

 しかし、現実は我々の常識を軽々と凌駕する。

 異世界の存在を認めたあとは、政府が異世界の国を承認して国交まで樹立させてしまったのだ。

 これには同じ公安部内の外事課長が卒倒していたらしい。

 異世界の国を政府が承認したということは、外事課としてはその国の動向を把握する必要が生ずる。しかも、現地には警察署があり、そこが大使館として正式に機能を始めたというから驚きを通り越して笑いが込み上げてくる。

 大使館が置かれたのなら、警察庁からリエゾンを送り込むことも検討しなければならない。だが、今のところ日本から彼の国に渡る手段がないという。

 現地との情報は文書管理システムによる文書の交換と、幽霊による書面や物資のやり取りに限られる。なんなのだ「幽霊による書面や物資のやり取り」というのは……

 その幽霊はクーリエとして外交特権を有しているばかりか、神格まで付与されていると聞いた。外交特権を持っている神だぞ? いや、外交特権などなくても神は不可侵だろう。異世界最強かよ。


 もう、ちょっとやそっとのことでは驚かないと自信を持っていたところに強烈なボディーブローを食らった気分だ。

 マジで「ぐえっ」と言った。

 異世界で邦人が発見された。

 それも「特異行方不明者」に登録され、公安部としても関心を寄せている男性だった。失踪時の状況から、どこかの国に拉致された可能性が高いと見ていたのだ。

 ところがどうだ。

 その男性が9年前、つまり失踪当時、異世界に転移していて現地で結婚し、子までなしていたという。その男性を含む家族3人で異世界警察署に保護を求めて来たのだ。

 そして、男性らを保護した異世界警察署から送られてきた報告書が先ほどのものだ。

 正直に言おう。

「どうすんの、これ?」

 特異行方不明者を発見して保護したまではいい。

 しかし、保護された特異行方不明者を日本に帰還させる手立てはないし、こちらから本人確認や事情聴取のための人を派遣することもできない。

 写真や指紋、口腔内粘膜が幽霊便で届いたので、即日緊急鑑定に回した結果、異世界で発見された男性は、特異行方不明者の「土田良真」であることが特定された。

 ただ、ここで科学捜査研究所から気になる参考情報が提供された。

 男性のDNA型は、家族から提供された検体と異世界から送られてきた口腔内粘膜とで完全に一致して同一人物と鑑定された。しかし、DNA型鑑定は、すべてのDNA領域を対象としているわけではなく、特定の領域だけを見ている。今回は、異世界という特殊事情が絡んだことから、念のため、現在知られている著名な領域で同一性の鑑定が行われた。さすがに約30億あるといわれている塩基配列すべてを鑑定することは現実的ではないそうだ。

 その結果、異世界から送られてきた検体は、ミトコンドリアDNAに微小な変異が認められたという。この領域が一致しなくても人物の同定には影響しないので鑑定が覆ることはない。

 これに対する科学捜査研究所の説明では、ミトコンドリアDNAに変異が起こると、永続スタミナや自己発熱、光を纏うなどの変化が生ずる可能性があるとのことだった。

 ファンタジーだな。

 興味がわいたので他の領域でもそういった変化が出るものかを聞いた。「あくまでも空想の産物として」と断った上でのことだが、かなりの変化が出現するかもしれないという説明だった。聞いた話を列挙してみよう。


 筋肉制御遺伝子:失活すると筋肉量増大→筋力無双、超ジャンプ、重量無視

 神経伝達関連:記憶形成や学習速度に関与→戦闘中の瞬間学習、即時言語習得

 視覚受容体:波長感度の多様性→暗視、透視、魔力の可視化

 ミトコンドリアDNA:エネルギー生産効率→永続スタミナ、自己発熱、光を纏う

 DNA修復酵素:老化抑制→不老、超回復

 非コードRNAネットワーク:膨大な遺伝子群を一斉調整→形態変化、適応進化、環境即応


 これを教えてくれた技官は、きっとファンタジーの世界に生きているのだろう。すごい想像力だと思う。

 面白そうな話なので異世界にフィードバックして、このような変化がなかったかを確認させてみるか。


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