【IOF_91.log】異世界にたなびく国旗(1)
お疲れさまです。
駐オヤシーマ王国日本国臨時代理大使兼ねて臨時代理領事兼ねて警察庁長官官房付兼ねて警視庁異世界警察署長警視正福原珠梨です。
勤務中異常なし。
「ここに日本国天皇の御名を拝し、貴国との友誼を永く望む」
一瞬、口上が抜けて真っ白になりかけた陛下の厳かな声が謁見の間に響きます。
異世界に初めて天皇陛下の名が響いた瞬間です。これは、もはや神話と言っても過言ではありません。
この瞬間をもって、私は、駐オヤシーマ王国日本国臨時代理大使となり、異世界警察署が日本国大使館として機能することとなりました。
この後は、日本国の在外公館がこの地に成立したことを内外に示すため、日本大使館で国旗の掲揚式を行います。都合のいいことに、異世界警察署は屋上に掲揚柱があります。
「わたくしも日本国大使館の開設をこの目で拝見しとうございますわ。ご迷惑でなければご同行をお願いしても?」
国交交渉を共に行ってきたローレンシア第四王女殿下のありがたいお申し出がありました。
もちろんです。ぜひ、この地に日の丸が舞う光景を共にご覧ください。
ローレルさんとマーガレットさんを乗せた車は、六人が乗っているため多少手狭になってしまいました。それでも、馬車による長旅よりはずっと楽な道中で、当日の昼前には署に着くことができました。
ローレルさんとマーガレットさんには、署の前に椅子を出して待機していただきます。
「全員署長室に集合してください」
あっという間に全員が集まります。
リリヤさんと幽霊さんもいます。
「皆様にご報告します。本日、ここ異世界警察署は駐オヤシーマ王国日本国大使館としての機能を有しました。そして、不肖わたくし福原は、日本国臨時代理大使兼領事としてオヤシーマ王国国王から信任されました」
「おおっ!」
一斉に大きな拍手が起こります。
「そこで、これから大使館が開設されたことを内外に示すため、玄関に看板を掲示するとともに、屋上で国旗の掲揚式を執り行います」
神格2柱を除いた全員の目が輝いています。2柱は、いつも通りマイペースです。
「ちなみにですが、私以外の皆さんは、大使館員として本日付けで警部補の方は外務省二等書記官、巡査部長以下の方は外務省三等書記官の兼務となります。追って辞令が届く予定です」
「なんと!」
皆さんが目を丸くしています。警察官で在外公館勤務に就けるのは、エリート中のエリートです。なりたくてなれるものではありません。
「城取主任は新品の国旗とラジカセで国家が流せるように用意を。新品の国旗は折り皺がついているから急いでアイロンがけをしてください」
「了解!」
城取主任が警務課の倉庫に走ります。
「国旗の掲揚は、木村係長と正村さん。係長に国旗掲揚を行わせるのは気が引けますが、いかんせん総員9名の大使館なので、階級にかかわらずお仕事をお願いします」
「了解だ!」
「了解」
「なお、全員制服制帽でお願いします。小路さんはスーツで参加してください。あと、可愛さんには動画とスチール撮影をお願いします」
「了解っす!」
「まず初めに、玄関前に大使館の看板を掲げます。制服に着替えたら全員玄関に集合してください。一旦、解散します」
私がひとりだけドレス風の制服で少し気恥ずかしいのですが、大使館開設初日ですから、これくらい浮かれていても怒られることはないでしょう。
署の玄関前には、様々な用途で看板を掲げられるようにいくつかの鉤が設けられています。
今は何も看板がかかっていません。そこで、一番目立つ場所に大使館の看板を掲げます。
看板は、木の板に墨で書くのが警察流です。おしゃれに気を遣う外務省流ではないと思いますけど、外務省出身者がいないので勘弁してください。筆耕は、城取主任の手によります。警務係は、表彰状や感謝状などで毛筆を使うことが多いので、達筆な人が在籍しています。
日本国大使館
これに、オヤシーマ語による表記を添えました。
ここでローレルさんにご登場願います。
私とローレルさんの二人で看板を掲げるシーンを撮影します。
皆さんも見たことがあると思います。選挙違反の取締本部や総会屋対策本部のような看板をいかつい私服警察官が二人で掲げている写真です。あのイメージを狙ってみました。いえ、狙ったのは顔ではありません。あくまでもシーンです。
「署長、屋上の準備ができました」
小路さんが知らせてくれました。
今日は、ドレス姿のローレルさんが一緒なので、いつもは使っていないエレベーターを動かします。私ですか? 私はスカートをたくし上げて階段でも構いません。ですが、王女様にそんなことをさせるなんてできません。
そういえば、エレベーターは定期点検が義務付けられています。この署のエレベーターの点検は、どうしたらいいでしょう? 一度、施設課に相談です。
ああ、どんどん色々な課を巻き込んでいます。なんか申し訳ないです。
「お姫様、どうぞっす」
エレベーターガールは可愛さんですね。
「な、なんなんですの、この小さい箱は?」
ローレルさんが二の足を踏みます。
初めてエレベーターを見たらそうなるのも無理からぬこと。
「これは、エレベーターといって、階段を使わずに高いところに上がったり、逆に下りたりできる機械です。どうぞお乗りください」
ローレルさんを促します。
「本当に大丈夫ですの?」
ローレルさんが恐る恐る足を進めます。
「ひゃっ! 閉じ込められましたわ!」
「ひっ、なぜか体が重く感じられますわ!」
「ふわっとなりましたわ!」
ローレルさんの悲鳴にも近い実況が続きます。
「到着っす」
最上階の6階でエレベーターが停止しました。
「不思議な感覚でしたわ……」
ローレルさん、少々顔色がよろしくありません。
屋上で外の空気を吸えば気分もよくなるでしょう。




