【IOF_90.log】駐オヤシーマ王国特命全権大使
やはり緊張する……
オヤシーマ王国国王タイロン・エド・テンテルウスである。
面を上げよ。
俺はいま王城の謁見の間で何度も深呼吸を繰り返している。
玉座に座る尻は落ち着きなく動き回る。静まれ、俺の尻。
謁見のときも緊張したが、今日はそれ以上だ。
ニッポンコクとオヤシーマ王国の国交がなり、その立役者であるジュリがニッポンコクの特命全権大使に就任するための儀式があるのだ。
もちろん、このような行事が行われるのは、我が国では初めてだ。おそらく諸外国であっても未経験であろう。
「なあ、妃よ。ここ、代わらんか?」
「あらあら、まあまあ、そのようなことをおっしゃって。またそのケツを蹴り上げて差し上げねばなりませんわね」
「それは勘弁してくれ。おい、ローレルよ……」
「嫌ですわ」
「まだ何も言っとらんぞ。そうだヘキチだ! ヘキチはどうした? む、おらんではないか。参内するよう申し伝えたはずだが……」
「ご案内を差し上げましたところ、『あいつは必ず俺を身代わりにしようとするから行かねえ。クロダは、あいつの退路を断て』と言付かっております故、本日は欠席にございます」
クロダとヘキチはグルだな。
くそっ、逃げ場がないではないか。
そうこう言っている間にフクハラ様が謁見の間に到着したようだ。
よし、俺はやるぞ。
謁見の間に姿を現したジュリは、今まで見たことのないドレスを身に纏っている。
俺は、思わず玉座から身を乗り出して見入ってしまった。
黒曜石のように艶やかな黒のロングドレス。
その上半身は軍服を思わせる仕立てで、肩章には金糸の房飾りが光を受けて煌めく。
胸元には白いシャツ。そして、見たことのないリボンのような黒い装飾が首元を飾る。
その飾りが清冽な印象を添え、金色のボタンが規則正しく並ぶ。
袖口には3本の金線が走り、権威を静かに示す。
足元にまで届く裾は歩くたびにふわりと揺らめき、周囲の空気をも静かに揺らすようであった。
玉座の真下まで歩み出たジュリがぴたりと足を止める。
謁見の間に、紙の擦れる音だけが響いた。
ジュリは封じられた漆黒の封筒を両手で掲げ、
「日本国天皇陛下の御名を奉じ、信任状を謹んで奉呈いたします」
と宣した。
えっと、この後、俺は何て言うんだっけ?
(ここに日本国天皇の御名を拝し、貴国との友誼を永く望む、でございます……)
ジュリが顔を伏せたまま小声で教えてくれた。ありがとう!




