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【IOF_86.log】警視正

 いつの間にか肩書が増えました。

 日本国政府特別代表(政府全権)兼ねて警察庁長官官房付兼ねて警視庁異世界警察署長警視正福原珠梨です。

 勤務中異常なし。


 警視正になってしまいました。


 警察庁採用のキャリア組ですら、警視正に昇任するのは順調に行って37歳以降だといわれています。私、まだ32歳なのですが……

 警察署長が本来の任務なのに、兼務する肩書の方が重すぎて背負いきれる自信がありません。そんなことを酒盛りの席で愚痴ったところ、幽霊さんから励まされました。

「私だって神様になっちゃったんですから、福原さんもどこまで上り詰めるか楽しんでみたらどうですか?」

 上り詰める? この先、私がなれる上なんてありませんよ?

「現人神までだったら余裕でいけますわよ?」

 酔っぱらった現人神があたりめをかじりながら(のたま)います。「威厳」とは……

「テンテルの再臨だったら、署長が『そうです』と言えば即時ですね」

 城取主任、そうなんですけど……そうなんですけど……ぶちぶち……

 ぶちぶち言っても、結局はなるようにしかならないと、半ばあきらめの境地で日々の業務を行っています。


 その境地に至った原因が、警視庁に全国の東照宮の座標を提供してくれるよう上申した一週間後、文書管理システムで届いた「至急」「重要」のマークが付いた文書です。

 文書のタイトルを見てぎょっとしました。

 こちらの世界に来てからというもの、びっくりしたり、ぎょっとしたり、目をむいたり、口をあんぐりとさせたりすることばかりです。そんな中でも今回のタイトルは、かなりインパクトが強めです。

「日本国政府によるオヤシーマ王国の国家承認とこれに伴う国交樹立交渉開始の閣議決定並びに日本国政府特別代表就任発令について」

 前半はいいです。単なる事実の通知にすぎませんから。

 問題は後半、つまり「並びに」から後。

 日本国政府特別代表就任「発令」です。

 誰に?

 文書管理システムで送られてきていますから、異世界警察署員の誰かなのは確かです。

 でも、その中で政府特別代表に任命される可能性がある人物なんていたかしら?

「ジュリちゃんしかないんじゃない?」

 私が現実逃避をしているのに、現実に引き戻さないでください。

 だからテンテル様に「クズ」と言われるんです。

 まあ、分かっていたことですが……私しかいませんよね。

 国王とも「タイロン=ジュリ」の間柄ですし、おそらく交渉の窓口になるローレルさんとも話しやすい関係は築けています。

 条件のすり合わせ以外のところで揉めるようなことはないでしょう。

 ローレルさんに手渡す「口上書」と「全権委任状」は、幽霊さんに受け取りに行ってもらいます。そのことは、警視庁から送られてきた文書にも書いてありました。わざわざ書かなくても、それしかないのですから仕方ありません。

 その直後、もう1通の文書が届きました。

「発令通知(6月30日付)」

 もう嫌な予感しかしませんし、予感ではなく確信です。


 発令通知(6月30日付)

【昇任】

 警視正 福原珠梨(異世界警察署長)


 はぁ……

 ついこの前警視に昇任したばかりです。「なぜ?」と思いますよね?


 日本政府特別代表が地方公務員では外聞が悪いと思った警察庁が無理やり警視庁にねじ込んで地方警務官にしたのでしょう。警視正が署長になるは、大規模警察署です。署員が署長以下9名の警察署は、間違っても大規模ではありません。警察署としての体すらなしていません。そもそも管轄区域がないのです。領主から土地の利用を許されているとはいえ、ほぼ侵略者なので……


 文書管理システムで衝撃的な通知が届いた翌日、幽霊さんにクーリエとなってもらい、警視庁まで口上書と全権委任状を取りに行ってもらいました。帰りには、しっかり臨時で缶ビール3箱をもらってきてくれました。自分でも飲めることが分かってからというもの、幽霊さんがビールを持ち帰る頻度が明らかに半月に1度を超えています。直接、総監室を訪ねておねだりしてくるのだそうです。私もお酒は嫌いな方ではないので嬉しいのですが、リリヤさんのビールクズ具合が進みそうで少し心配です。


 余談ですが、幽霊さんが外交文書を運搬することでクーリエになりました。クーリエには外交特権があります。クーリエが幽霊の場合はどうなんだという議論が日本国内でありました。

 そもそもパスポートもありませんし、出入国記録もありません。

 そこのところは「まあ、幽霊だし、しょうがないんじゃない?」で解決させてしまったそうです。現行の法体系では幽霊の存在を想定していないため、検討するだけ無駄との判断に至ったとのこと。法改正するにしても、今後も幽霊さんと同じような幽霊が出現するかどうか不明な状況では、それも難しいというのが法務省の見解です。

 それにしても、幽霊さんはどこまでパワーアップするのでしょうか。幽霊という属性のほか、幻神という神格、そしてクーリエという外交特権を有する身分まで手に入れてしまいました。


 幽霊さんの働きにより、口上書などが届いたことを受けて、先触れに木村係長を王城へと派遣しました。口上書「など」には6月30日付警視正昇任の辞令も入っています。はぁ……

 派遣には、スーパーカブを使います。1人しか乗らないのであれば、燃費のいいスーパーカブが適しています。二種原付でトコトコ走っても馬車よりはずっと早く移動することができます。元白バイ乗りの木村係長にスーパーカブというのもどうかと思ったのですが、本人は大喜びでツーリングに出かけていきました。日本国内では絶対にできませんが、念のため携行缶にガソリンを入れて積んでもらっています。


 私は、オヤシーマ王国の国家承認日である7月1日に合わせて王城に参内する予定です。服装は、謁見時より少しグレードを落として略礼服にします。略礼服は、普段の制服に礼肩章と飾緒を後付けするものです。幽霊さんが警視庁とこちらを往復できるようになったので、礼服と略礼服用の礼肩章と飾緒を装備課から無期限で借りることができました。


 それと、装備課被服係と交渉を進めていることがあります。

 これから外交を進めるにあたり、異世界で社交の場に出ることが増えると予想されます。そうなると、礼服では周囲の参加者と比べてやや見劣りします。そこで、異世界用正装として、特別なデザインで制服を作ってもらうつもりです。特別の服装は、正式な手続きで承認されれば着用が認められます。音楽隊や騎馬隊の制服なども特別な服装です。警視庁警察官制服規程に「異世界服(第一種)」という項目でデザイン画が載る日も遠くないことでしょう。

 いま考えているのは、燕尾服の尻尾がないような丈の短いジャケットにロングスカートを合わせるスタイルです。制帽は、女性警察官用ではなく男性警察官用のもので凛々しさを演出します。

 社交の場は避けたいというのが本音です。ですが、やはり日本の威信を背負う訳ですから、苦手とか嫌いとか言っていられません。


 社交の場に出るのは、もう少し先のことです。今は、目先の口上書と全権委任状の奏上に集中しましょう。今回も謁見のときと同じように署長車で参内します。

 外交は、ある程度の格式を示すことが重要です。

 これは、相手国に対して「我が国は、相応の敬意をもって貴国を遇している」という意思の表れになるからです。つまり、格の劣る服装や態度は、相手国を見下していると思われたり、侮辱であるととらえられたりする行為です。豪華絢爛に飾って喜んでいるだけではありません。

 そのような訳で、公式日程にトラックで参内するのは少々というか、かなり場違いな行いであると言えます。

 もっとも、オヤシーマ王国の国王陛下や第四王女殿下であれば、私が作業服を着てトラックで参内してもなんとも思わないでしょう。ですが、外交というのはそういうものではありません。当事国だけでなく、諸外国の目も気にしなければなりません。


 色々考えていると胃が痛くなりそうです。

 そんなことを考えていると、先触れに派遣した木村係長がスーパーカブで署に帰ってきました。久しぶりのツーリングに満足したのか、いい笑顔です。

 木村係長が王城で宰相と面会して先触れの趣旨を説明したところ、「ヘキチ辺境伯邸に第四王女がいるので、わざわざの登城には及ばない。口上書の手交などは辺境伯邸で済ませてよい」との国王の意向を伝えられたそうです。ローレルさん、信用されているんですね。ご立派です。

 木村係長は、帰り道に辺境伯邸に立ち寄り、先触れの結果を閣下とローレル様にお伝えしてくれたそうです。閣下からは、7月1日であれば好きな時間に来てよいと言われてるとのこと。


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