【IOF_84.log】チンダル現象からの東照宮
お疲れさまです。
警視庁異世界警察署長警視福原珠梨です。
勤務中異常なし。
リリヤさんに連れられて皆さんとオーメ領の神宮に行きました。どんなところなのか様子を見るだけのつもりでした。だから、礼拝堂の一番後ろで静かにしていたのですが、神官に気づかれてしまいました。
まあ、この形ですから神官が気づかないはずもありません。
というわけで、礼拝後、神官とお話しする機会ができました。できたというより、あちらからダッシュで近寄られたので逃げられなかったというのが本当のところです。
神官からは、代々口伝されてきた「始まりの日光」というテンテル様降臨の様子を聞くことができました。だいたい、他の方から聞いていた内容と同じでしたが、こちらはかなり具体的です。初代国王との関係も語られていて、国の史料としても重要な内容だと感じました。
あと、祭壇の後ろにあった石板に刻まれていたのは「警察主眼」の一節です。テンテル様が誦じたものを当時の人が記録したのでしょう。もしかしたら当時の人は日本語が読めていたのかもしれませんね。それが時代とともに日本語を解せる人が減り、いつの間にか「聖なる紋様」になってしまったのでは、なんて考えていました。
他に興味深かったのは、テンテル様がリリヤさんのことを陰で「クズ」と言い残していたことです。善処の件に連なる神様ですからね、仕方ないと思います。建国当時は、ただのクズだったかもしれません。今は、クールビスならぬビールクズになっているので、時代が変わっても別の形でクズを堅持しているあたりは、さすが神様だと感じます。
今日聞いた話で気になったことがあります。伝承の代名詞にある通り、お話の随所に「日光」が登場しています。
「あれはチンダル現象っすね。雲の隙間から日光が差し込んで空気中のホコリなんかと反射して光が筋のように見えることっす」
ああ、天使の梯子とか言われるやつですね。ということは、テンテル様降臨のときの光の柱は自然現象だったということですか。
「そうとも限らないっすね。テンテルさんが降り立ったところだけ光の性質が違ったりみたいですし、他はまだ天使の梯子が残ってるのにテンテルさんのところだけ消えてなくなってるっす。他とは違う光だった可能性があるっす」
なるほど。確かに。
「あと、やたら『日光』と繰り返すところに、なんか意図的なものを感じるっす」
そういえば、日光がずいぶん出てきていました。栃木の日光と何か関係があるのでしょうか?
「日光といえば東照宮です。東照宮といえば徳川家康です。家康も異世界人で帰りたがっていたということで、なにか関係があってもおかしくはない」
小路さんがメガネを中指でくいっと押し上げながら考察します。
なんか説得力のあるお話が飛び出してきました。
東照宮ですか。謎の多いところですよね。陽明門、眠り猫、三猿とか示唆に富んだ建造物や彫刻などがたくさんあります。
「ちょっと待ってくださいっす」
可愛さんが何かに思い付いたようです。
「陽明門、眠り猫、三猿……Yomeimon、Nemurineko、Sanzaru……頭文字を取るとY/N/Sっす。ここからは想像っす。Y/N/SはYes/No/Select……つまり、排他的論理和っす。イエスかノー、どちらかの場合だけを選ぶ、両方ともイエスかるいはノーの場合は選べない。これは『XOR』とも書くっす」
あれっ? XORって割と最近、どこかで見ませんでしたか?
「神符っす」
あー、そうでした! 神符に書いてありましたね。なんか繋がってきた感じがしませんか?
世界間の転移には転移ゲートの出現が必要。
転移ゲートを人工的に作る技術は未完成。
家康も帰還技術を完成させていない。
無線中継所のスロットに神符を挿入させたら天現界壁を破れた。
神符と日光東照宮に排他的論理和を思わせる記号がある。
テンテル降臨に繰り返し「日光」の記述が現れる。
「日光と排他的論理和がキーになりそうっす。それと無線中継所から発射される波長2メートルの電波っす。これも神符に書いてあることっす。あと、神符に書いてあることは位相っす。このあたりを総合したら、なにか分かるかもしれないっす」
可愛さんすごい! 私が忘れていたことまで掘り起こしてくれました。
「リリヤさんのおじいちゃんも昔の人が電波で天現界壁を破ろうとしていたとか言ってましたね。電波で天現界壁を破れるなら世界を隔ててる壁だって破れるかもしれませんよね」
おお、幽霊さんからは実体験を通じた補足がありました。これも強いです。
さて、なんとなくヒントが揃ってきたような気がしてきたところで新しい疑問が生じました。
何と何とで排他的論理和を取ればいいのでしょう? 日光東照宮に排他的論理和を示す痕跡があります。なので、日光東照宮の何かと他の何かを排他的論理和にかけるのだろうと想像できます。
「他の東照宮とかどうっすかね」
他の東照宮ですか?
「東照宮って日光の他にも何か所かあるっす。いくつかある東照宮と日光東照宮とで排他的論理和にかけられる共通するような記号なり数字があればいいっす」
共通する何か、ですか……
すべての東照宮が持っている属性みたいなものですよね?
「住所とか?」
南畝主任がぽそっと呟きました。
住所は、どこの東照宮にもありますね!
「でも、家康が生きていた時代と今では住居表示が変わってると思うぞ。なにより明治の廃藩置県で住所なんでガラッと変わってるだろ」
木村係長の冷静な突っ込み! 確かにそうです。
時代を経ても変わらないものなんてありますか? ちょっと分からなくなってきました。
「木村係長すごいヒントっす!」
可愛さんがぽんっと手を叩きました
「住所は表示が変わっても場所が変わるわけじゃないっす。つまり、東照宮がある場所の座標は変わらないんす!」
なるほど! 座標ということは緯度と経度ですね。でも、緯度経度だと、先頭の方はほとんど変わらない数字の並びになりそうです。そうなると、あまり違いが出ませんね? あと、複数ある東照宮の座標をどう並べるのかも不明です。
「署長もなかなか鋭いっすね。よし、じゃあ私と知恵比べっすよ」
可愛さんが袖捲りをしてコピー機から再生紙を引っ張り出してきました。なにやら図を描き始めましたが、私にはよく分かりません。はい、知恵比べは負けです。
「これならいけそうっす」
しばらく図を書いたり計算したりしていた可愛さんがペンを置いて顔を上げました。
「ここからは日光東照宮を基準にするっす。まず、日光東照宮から各東照宮までの方位角を求めるっす。次に、地球の真ん中を基準にした中心角を求めるっす。ここからがアイデアっす。はじめに方位角で各地の東照宮をソートするっす。その次に中心角でソートするっす。そうすると、日光東照宮を中心に日本中の東照宮が日光東照宮に近いところから時計回りに並ぶことになるっす。なんとなく美しくないっすか?」
すごい! なんとなくすごい! なんとなく美しく感じるところもすごい!
「各地の東照宮の方位角と中心角を結合させたものをソートした順番に並べていって全部をがっちゃんこするっす。がっちゃんこさせた数字を量子化するっす。それを日光東照宮の座標で排他的論理和にかけるっす。その後は、電波の話になるっす」
またさらに難しくなりそうな予感です。
「現行の警察無線はデジタル変調っす。こっちの無線中継所から飛んでいた電波は、何の変調もされていない搬送波だったのはオシロスコープで確認済みっす。なので、東照宮から求めたパルス列で搬送波を位相変調することができるっす。ただ、波長2メートルの電波を飛ばしている八木アンテナでは、世界の壁をぶち破れるほどのビーム幅が得られないっす。それを、例の神符が担ってると思うのが妥当っすね」
理解不能だけどすごいことは理解できました。搬送波に位相変調させるパルスは、どうやって乗せるのかしら?
「おそらくっすけど、中継所にあったパソコンにそのシステムが入ってるんじゃないかと思うっす。そうじゃなきゃ、あの中継所を古代人が後生大事に守らせるはずがないっす」
確かに。
その仮説を検証するには、全国にある東照宮の座標を集める必要があります。
うちの地図システムは、オヤシーマ王国版になってしまいましたから、日本の施設は座標が取れません。これは、本部にお願いして調べてもらうしかなさそうです。目的と理由を書くとまたお返事のメモで「正気を疑います」とか書かれるのでしょうか……極めて真面目で正気ですよ? 少し気が重いですが、調査依頼の上申を上げましょう。




