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【IOF_83.log】奇跡はパラメーター

 こんにちは。

 天界空間省創生部管理二課のリリヤ・コノエです。

 私を崇めなさい。


 ジュリちゃんと王都で娼館の感染症対策に行っていたソノコちゃんが署に帰ってきてびっくりしたわ。

 なによ、あの手は。

 あかぎれだらけで血まで滲んでるじゃない。痛いでしょ、あれは。

 ソノコちゃんは「解決したからよし」と言ってるけど、そういう問題じゃないから。

 私はソノコちゃんの背中に手を添える。


「痛いの痛いの飛んでいけーっ」


 これでよし。みんな、口外無用だからねー

「え? どういうこと?」

 ふっふっふ、ソノコちゃんが手を見て戸惑ってるわね。

「正村さん、手がきれいになっていますね」

「はい。リリヤさん、なにしたの?」

 ソノコちゃんの体の状態を一週間前に戻しただけだけど?

「神様ってそんなこともアリなの?」

 まあね。空間省だからさ。時空の操作も主管業務のひとつだし。対象をソノコちゃんに限定して、ソノコちゃん自身の時間が遡行しないように固定した上で体の状態をリロードしただけの簡単なお仕事よ? ほら、パソコンなんかでよくやる「やり直し」みたいなものよ。操作の履歴を追って行けるみたいな?

「リリヤさんが言ってた『痛いの痛いの飛んでけ』は呪文ですか?」

 ジュリちゃんは純情なままでいてね。

 あれは演出上の効果音だから。

「今のは時空の操作ってことっすけど、神宮の神官が治癒魔法とかを使うことはできるっすか?」

 あー、よくある異世界ファンタジーね。


 ないわよ。


 そんなもの人間に使わせるわけないじゃない。絶対、神に近づこうとしたり神殺しの称号を手に入れようとするもん。危なくてしょうがないわ。


 私たち神だって魔法は使えないからね。


 世界のパラメーターをいじったり、時空を操作したりすることがあるから、それが魔法みたいに見えるかもしれませんわ。だけど、それだって役所のシステムを使ってやってるだけのこと。

「身もふたもない話だな」

 男! 相変わらず顔が怖いわね。慣れたけど。

 あ、そうだ。今度みんなで神宮に行こう!

 そうしたら、そこでちょちょっとパラメーターをいじって、こっちの世界でいう「奇跡」っぽいことを見せてあげるわよ。

「それ、面白そう」

 あなたも相変わらずね。メガネ女子。


 というわけでやってきました。オーメ領の神宮です。

 石造りの小ぶりな神殿は、村外れの丘の上に佇んでいる。田舎ね。

 尖った屋根と色褪せたステンドグラス。古いわね。

 壁の大理石はところどころ欠けており、蝋燭の炎が揺れるたび、ひび割れに影が走る。修繕は?

 祭壇には磨かれた黒曜石の石板が置かれ、その背後の窓からは朝独特の色味を帯びた光が射し込み、床一面を染めていた。なんか神様でも出てきそうな雰囲気ね。

 参列するのは村人たち十数人。みんな跪き、息を潜めるように祈りを捧げている。

 この者たちに祝福を。

 祭壇の前に立つのは、年老いた田舎の神官。白衣はほころび、お世辞にも立派な身なりとは言えない感じ。

 彼は目を閉じ、羊皮紙を恭しく掲げて朗々と唱え始める。

 ちょっといい雰囲気。


「この件に関し 放擲(ほうてき)せずに……」


 村人たちは一斉に頭を垂れる。

 祭壇に置かれた蝋燭が揺れるたび、神代文字を刻んだ石柱が神秘の光を帯びる。

 祝詞の奏上を始めた神官がジュリちゃんの姿を見つけてギョッとした顔をしてたわね。まあ、そりゃそうでしょうとも。ミセラニアス教の主神ともいうべきテンテルに瓜二つなんだから。正直なことを言うと私も初めてジュリちゃんを見たときは驚いたわ。とっくの昔に死んじゃったはずのテンテルがまた姿を現したのかと思ったもん。それくらい似てるのよ。

 使いに出した私がそう思うんだから、毎日のように姿絵で拝んでる神官ならなおさらよね。ギョッとしても、すぐに平静に戻った神官を褒めてつかわしますわ。

 署員たちの肩が震えてるわ。


「善処かよ」

「善処だな」

「善処ですね」

「善処は永遠に不滅っす」


 昔の神宮関係者も苦労したのよ。テンテルが「ゼンショはいかん!」て八つ当たりするから、なんとかして他の表現で言い換えた結果があれよ。むしろ、役所のやりたくない感が増してない? テンテルも草葉の陰で苦笑いしてるんじゃ……違うわ、テンテルはこっちのでの命を全うして今はティラミスちゃんの世界にいるんだったわね。

 約束通り空間省は「善処」したって。今度は男だったらしいから、よかったわね。


 祝詞の奏上が済むと朝の礼拝は終わり。

 礼拝の終了を告げた神官がもの凄い勢いでジュリちゃんのところに駆け寄ってジャンピング土下座ばりに跪いたわ。

「ふ、フクハラ様でいらっしゃいますか?」

 神官の声が震えちゃってるわね。

「テンテル様が再臨なされたとの噂は聞き及んでおりました。まさか、テンテル様御自らこのような片田舎の神宮に足をお運びいただけるとは、末代まで語り継ぐ奇跡でございます」

 よし、それじゃここで本場の奇跡という演出を加えてあげようじゃないの。

 今回は、日光のパラメーターを変更して、この神宮内に聖なる光が差し込むような効果を作り出したいと思います。

 まずは、日光のパラメーター変更範囲をこの神宮の中に限定します。外で日光がおかしなことになると、天変地異だからね。

 変更範囲が限定できたら、窓からの射入角と照度、それとエッジのにじみ度合いをそれぞれ決めます。今回は、窓から日光がテンテル降臨のときのように拡散のないエッジの効いた光束を作るようにしてみようと思います。もちろん、光束は、ジュリちゃんに当てて彼女の神々しさをマシマシにします。

 そして、できあがった奇跡がこちら!

「おぉ! 窓から日光がフクハラ様を包み込むように降り注いだ! これは、まさにテンテル降臨の際に現れたといわれている光の柱を再現したもの! 奇跡が起こったのだ。これを奇跡と言わずしてなんと言う!」

 ジュリちゃん困惑。

 神官号泣。

 署員苦笑い。

 三者三様とはこのことね。


「えっと、私はテンテルではありません。まずは、そこをはっきりさせてください。皆さんの期待を否定するのは心苦しいのですが、事実でない話が一人歩きされると困りますので。ただ、テンテルの再臨とか、神の使徒のような呼び方であれば受け入れます。それであれば、テンテルとは別人ということですから」


 そこは妥協することにしたんだ。キリがないもんね。

「あと、さっきの光は奇跡ではありません。人工的に作られた演……」

「あー、今日はいいお天気ねー!」

 ストップ、ジュリちゃん!

 ネタばらしする気?

 ダメなんですか? って念話を送ってくるけど、ダメでしょーよ。ジュリちゃんは私の加護持ちで普段から神と暮らしてるから、神の奇跡なんて「所詮演出」ってわかってるでしょ? でも、こっちの世界の人たちは、神の奇跡は本当に奇跡だと思ってるの。だから、ネタばらしは神の権威を落とすことになって、私基準じゃなくて天界的にアウト。

「私、神宮の方とお話をするのは、今日が初めてです。私によく似ているというテンテル様がこの地に降臨したときのことがミセラニアス教ではどう伝わっていのか興味があります」

 うまいこと話題を変えたわね。


「それであれば、この神宮に代々口伝される『始まりの日光』と題するテンテル様降臨のご様子がございます」

 それは私も聞きたいわ。


「それは、ある雲の多い朝に起きたこと。一人の青年が畑仕事の合間に腰を伸ばして何気なく空を見上げました。すると、今まで見たこともないような光景が広がっており、青年は目を見張りました。なんと美しい光景でしょう。青年の眼前には、雲の合間からいく筋もの日光の筋が地上目がけて降り注いでいたのです。ほとんどの日光の筋は遥か遠くのように見えました。ところが、一筋の光が1リーほどしか離れていない場所に現れました。しかも、その光は、まるで雷のように青みを帯びた眩しさを放っており、明らかに他の光とは異なっていました。しかし、雷のような光でありながら雷鳴は聞こえません。ただ眩しい光がそこにあるのみ。雷のような眩しい光は間もなく消えてなくなりました。他の日光の筋はまだ雲間から差し込んでいるというのに。青年は、消えてしまった光に導かれるように1リー先まで走ります。普段の自分からは考えられないような速さで走り続けることができました。光は消えてしまったのに、自分がどこに向かえばいいのか、はっきりと分かりました。『あー、ちょっとずれちゃった。そうそう、そっち』まるで友に話しかけるような女性の声が頭に直接聞こえてきたのです」


「リリヤさんですね」

 ジュリちゃんが念話を飛ばしてきた。そんな昔のことは分かんないなー。

 ささ、神官、続けて。


「謎の声に導かれながら走り続けた青年は、やがて一人の女性を見つけます。青年は息を飲みました。なんと美しく気高いお姿だろう。褐色の肌に長い耳。闇夜のように黒く長い髪。あらゆる物を飲み込みそうな深い黒でありながら、艶やかな光沢を放ってさらさらと風に靡く様は、まさに幽玄。青年は、とっさに跪きました。青年の本能が教えたのです。このお方は尊い存在だと。その女性は、青年の到着を待っていたかのように慈愛に満ちた微笑みで彼を見下ろし、ゆっくりと、しかし力強く天を指差しこう宣いました」


『人を(いま)しむる者は自らを警しむ』


「青年の体を衝撃が走り抜けました。そして確信したのです。そのお方は神の化身であると。自分は、身命を賭してこのお方にお仕えするのだと。そのお方は名乗ります……」


『私の名はテンテル。神より遣わされたダークエルフである』


「青年は涙を流して平伏しました。それから青年は、常にテンテル様の傍にあり、テンテル様の建国を影に日向に支えたのです。建国がなり、平和と秩序を旨とする素晴らしい国ができあがりました。務めを果たされたテンテル様は、満足そうに頷くと静かに息を引き取りました。その亡骸は、光の粒となり天に召されました。今際(いまわ)(きわ)、テンテル様は青年に名を授けました。その名が『テンテルウス』オヤシーマ王国初代国王にございます。テンテル様は、建国の祖ではあらせられますが、王の座に就くことを頑なに拒み、統治は人の手により行うべしと初代国王にオヤシーマ王国を委ねられたのです」


 この神官、よくしゃべるわねえ。しかも、建国の経緯を神宮本庁より正確に語れるじゃない。だいたい口伝って途中で話が変わっちゃうのよね。そのときの支配者に都合のいいように。それがないのは新鮮な驚きだわ。


「私の家系は、代々この地で神官を務めております。そして、この『始まりの日光』は、一字一句違えてはならぬと教えられて参りました。ところで、こちらの緑色の髪をなさった女性は? いえ、この国では見ない髪の色でいらしたので」

 あら、私に気づいちゃった? なかなか鋭いわね、この神官。


「私は、たまたま居合わせた旅のちりめん問屋です」


「左様でございましたか。当神宮に伝わるテンテル様語録に『青髪の創造神はクズかっこ原文ママかっことじる』というものがございますもので念のためお聞きした次第です」

 あの野郎、密かにとんでもないことを遺してくれたわね。

「ほほほ。それでしたらわたくしは違いますわね。わたくしの髪は翡翠のような緑色でございますもの」


「日本では古来から緑色を青と表現」


 そこのメガネ女! 黙って!

 もー、私の威厳が台無しじゃないのよ。これはあれね、お祖父様にお願いして魂を封印送りにしてもらうしかないわ。

「そんなくだらない理由で封印できるわけなかろう。権限濫用で懲戒もんじゃぞ」

 あ、やっぱり? ちぇっ。


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