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【IOF_79.log】献上品

 お疲れさまです。

 警視庁異世界警察署長警視福原珠梨です。

 勤務中異常なし。


 最近の移動手段は、もっぱら警備係のトラックです。

 トラックはディーゼルエンジンで燃料が軽油です。

 軽油は、署の蒸留器で安定して作ることができるようになりました。署の上にある寮に住み着いた鍛冶職人のミノさんが精度の高い蒸留器を作ってくれたお陰です。

 精製できるのが軽油だけだと、いずれガソリンがなくなります。そこで、一度ガソリンの精製に挑戦してみました。軽油より低い温度で蒸留できます。

 作れることは作れました。

 でも……

 署の車を1台ダメにしてしまいました。

 簡易な蒸留だけで作ったガソリンは、まあ粗悪品でした。

 試しに廃車目前の古いパトカーに給油して走ってみたところ、エンジンから「がっきん、がっきん」と音がして、まともに進めません。

「ひでえノッキングだな」

 とは、運転した整備士の資格を持つ木村係長の弁です。

 えっと、エンジンルームから白煙が出ていますけど……

 そして間もなく「ばきんっ!」と大きな音がしたと思ったら、それっきりエンジンが動かなくなりました。

「コンロッドが完全にいかれちまったな」

 これも木村係長の弁によるもの。

 どうやら、完全に壊れてしまったようです。

 これも装備課に報告ですかね。

 そのことがあって、ガソリン車は緊急用に温存して、日常の移動はトラックを使うことになりました。

 そして、今向かっているのは王城です。

 今日の同行者は、生活安全課の正村さん。

 署長が運転する横で口を開けて爆睡中です。うん、寝る子は育つ。

 現在地は、元の日本でいえば高井戸のあたり?

 王城は、まんま皇居の場所です。その外周に貴族の屋敷が立ち並ぶ貴族街があります。さらにその外側に商業地区と庶民の住宅街が広がっています。

 道路が舗装されていませんし、他の馬車が入っていたりするので、さほどスピードは出せません。それでも渋滞がないことでストレスなく移動することができます。


 私と正村さんの間には、缶ビールが1箱鎮座しています。王様への献上品です。

 謁見のときに献上したビールを氷室で冷やしてから飲んだ王様が飛び上がりそうな勢いで興奮したそうです。辺境伯閣下からは「甘露だっ!」と騒いでいたと聞きました。

 苦みが喉を通り過ぎて淡く消えていく様が「苦」が消えた状態の甘露に通じるということでしょうか。それとも悟りの入口が見えるくらいおいしかった?

 謁見のあと、ビールに感動した王様に一度呼び出されました。そのときは、謁見の間ではないごく普通の応接室のような部屋に通され、王様も普通の話し方で接してくれました。

 そのとき、こんな会話がありました。


「フクハラ様、あのビールというものは素晴らしいな。天にも昇る心地だったぞ。臣下のものたちにも分け与えたのだが、みんな感動して涙を流さんばかりだった。今日、参内してもらったのは他でもない。このビールをもう少し融通してもらうことはできないだろうか。もちろん金は払う」

「申し訳ありません。このビールは、日本国から天界を経由して持ち込んでいる特別なもの。しかも、一度に運べる数に制限があります。ですから、十分な量をご提供することは難しいかと……」

「ちょっと待て。今なんと言った? 天界を経由してと言わなかったか?」

「はい。天界を経由しないと日本国とこちらを行き来できませんのでやむなく」

「いや、異界とこちらを行き来できるというだけでも驚きなのだが……それに加えて、天界を経由してだと……フクハラ様たちの周りはどうなっているのだ」

「どうなっていると申されましても……創造神と幻神の二柱がいるくらいのものでして……さほど特別なことは何もないかと」

「この世界を統べることができるくらい特別なことではないのか?」

「まあ、字面だけ見ればそうかもしれませんが、あのふた柱ともただの友人みたいなものですから」

「神を友人と呼べるお前が普通ではないのだ。いや、お前などと呼んでは不敬だな。申し訳ない」

「あ、どうぞお気になさらず。お前で十分です。呼び捨てにしていただいても構いませんので。あまりかしこまらずにお話ができると私としてもありがたいです」

「そう言ってもらえると付き合いやすい。それでは親愛を込めて『ジュリ』と呼ばせていただこう。俺のことも『タイロン』で構わん」

「かしこまりました。ただ、陛下を呼び捨てはさすがに不敬です。さん付けでご容赦願います」


 そんな会話を経て、王様と私は「タイロン(さん)=ジュリ」の間柄となりました。

 道中、好奇の目に晒されながら王城に到着した私たちは、待たされることなくタイロンさんの執務室に通されました。もはや応接室でもありません。

「タイロンさん、こんにちは。お約束のビールをお持ちしました」

「おお! 待っていたぞ! ところでジュリよ、毎度ビールを献上させるのは申し訳ない。これからは取引として相応の金を払いたい。いくら欲しい? 言い値で出すぞ」

 いや、言い値で出したらいけないと思います。

「陛下、税収が減少しているいま、言い値はいかがなものかと……」

 ほら、クロダさんもそうおっしゃっている。

 え? 税収が減っているんですか?

「国全体の財政に影響を及ぼすほどのことではございません」

 それならいいんですけど。それでも税収が減るのは穏やかではありませんね。

「そうだクロダよ。ジュリなら税収が減っている原因を突き止めてくれるやもしれんぞ。ほら、ヘキチのところでも帳簿を見事に読み解いて脱税を見抜いたというではないか」

「ふむ……たしかに」


 これは完全に頼まれる流れですね。分かりました。お手伝いしましょう。

「帳簿ならうちに専門家がいます。お手伝いしましょうか?」

「おお! まさに天啓! ありがたい」

「陛下が言わせたのでございましょう。フクハラ様、陛下がご無体を働いてしまい申し訳ございません」

 クロダさんが頭を下げることはないです。

 ところで、税収の減少で分かっている原因はあるのでしょうか。

「それにつきましては、分かっているものが一つございます。しかし、その原因だけでは足りない減少額がございます。それについては原因が掴めず対応に苦慮しております」

 なるほど。その分かっているひとつとは?

「王都にある娼館からの税収が徐々に減っております。娼館からの税金は、国にとって重要な財源となっております。その納税が減るのは痛手なのです」

 なんで娼館からの納税が減っているかは分かっているんですか?

「正確なところは把握できておりません。噂として集めた情報では、なんでも娼館内で病気が流行っており、働ける女性の数が減っているのだとか」

 なんとなく分かりました。

「正村さん、あとでクロダさんから娼館営業の実態について、できるだけ詳しく聞いておいてください」


「了解。署長の頭にあるのは公娼制度の確立ですね」


 その通りです。さすが生活安全課。

「今ここにいる正村が風俗営業を取り締まる課の者で専門家です。正村を責任者に指名します。帳簿は、小路に調べさせますので、日を改めて連れてきます」

「それはそうとクロダよ」

「はっ、なに用でございますか」


「早くビールを氷室に納めて冷やすのだ!」


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