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【IOF_07.log】幽霊さん

 え、あ、あの、お疲れさまです。

 警視庁奥多摩警察署の霊安室にいた溺死体の郡司蓉子(ようこ)です。

 き、勤務中異常なし!


 はぁはぁ、一度言ってみたかったんです。

 あ、なんか溺死体のくせに調子に乗ってすみません。

 私、大学を卒業したら警察官になりたかったんです。

 私は、都下の大学に通う女子大生です。あ、もう死んじゃったから女子大生「でした」が正しいのかな?

 実家から上京してワンルームマンションで一人住まいをしていました。

 なんで私が死んでしまったのかご説明します。

 ある日、夜遅くにアルバイト先から帰宅した私は、めちゃくちゃ疲れ果てていました。どんなアルバイトだったかは内緒です。仕送りもなく一人住まいで大学に通うんだからお金が必要なんですよ。察してください。

 ぐったり疲れていても、やっぱり一日の終わりにはお風呂に入りたいじゃないですか。

「かぽーん」

 なんて、アニメとかでよくあるような音はしませんよ。狭いユニットバスなんですから。それでも、トイレと一体になった三点ユニットは断固回避! バスとトイレが別のお部屋を選びました。ちょっとしたこだわりってやつ?


「ひゃー、極楽極楽」


 湯船に肩までつかった私は、思わず定番の歓声を上げてしまいます。

 あったかい湯につかっていると、だんだん眠くなってくるわけです。だって疲れていたんですから仕方ないですよね。

 瞼が重くなって、どんどん下がってきます。

 だめよ、蓉子。いま寝たら湯船に沈んで死んじゃうわよ!

 はい、死にました。極楽浄土です。言霊ってやつ?

 いいわよ、天国で言霊に会ったらどついてやるんだから。

 結論から言うと、言霊をどつくことはできませんでした。

 言霊に毒づきながら目が覚めると、そこは真っ暗な空間でした。


「なにこれ、やだ真っ暗じゃない」


 思わず私は声を上げてしまいました。

 私が発した声は、どうやら狭い空間で反響しているような感じがします。

 死んだはずなのに声が出たことに驚けよっていう話ですけど、そこまで考えが回りませんでした。

 どうやら私は仰向けに寝かされているようです。

 ゆっくりと手を動かしてみると、すぐに冷たい金属板に当たります。外周すべてが金属板で囲われているようです。

 つまりは箱? 金属製の棺桶かな?

 このままここにいたら意識があるのに火葬されたりするのでは?

 それはやだ。全力回避させてもらう。

 とはいえ、金属板は押してもびくともしません。

 うーん、どうしたものか。

 私が幽霊だったら壁とかを通り抜けできるんだろうけど。

 そう思った瞬間、それまで金属板に当たっていた手がするっと動きました。

 真っ暗なので何も見えませんが、距離感からして私の手は金属板を突き抜けているのは間違いないと感じます。

 もしかして、外に出られるのでは?

 そう思った私は、おもむろに上体を起こしてみました。

 箱から抜け出せました。上半身だけ。

 箱を抜け出すと、そこは真っ暗闇ではありませんでした。蠟燭が一本灯され、その前にお線香が小さなオレンジ色の光をまとってゆらゆらと煙を漂わせています。

 あ、やっぱり私死んだのね。


 ていうことは、ここは霊安室かなにかに違いありません。

「部屋の外にも出られるのかな?」

 そう思った直後、まったく力を入れていないのに、体が勝手に浮かび上がりふわふわと部屋の外に向かって移動を始めました。

「へー、念じただけで動けちゃうんだ。こりゃあエコロジーだね。それにしてもきれいな星空だなあ」

 夜空を見上げたのなんていつぶりだろう。

 生きているときは、ずっと下ばっかり見て歩いていたような気がする。

 死んで初めて夜空の美しさに気づくなんて、私の人生はなんだったんだろう。

 なんて感傷にひたることもなく、私は興奮していた。

「警察車両がいっぱい!」

 そう、目の前にはたくさんの警察車両があるんです。

「いや、ちょっと待って、これ白バイじゃない? あ、あっちには動くお巡りさんもいる!」

 私が鼻息を荒くしながらそこらじゅうの警察車両を見て回っていると、一人のお巡りさんが建物の中に入っていく後ろ姿をみつけました。

「これはひょっとして警察署なのでは?」

 警察官志望だった死亡者としては、幽霊となったであろうこの体を無駄にするなんてできません。


 私は、するーっとそのお巡りさんのあとについて建物の中に入っていきました。

「あ、宿責、外が、外が変なんです!」

 柱の陰に隠れて気配を消しながら様子を窺っていると、そのお巡りさんが女性警察官と話を始めました。幽霊なので気配を消すとかありなのかは不明。

 話の内容からして、もしかして私のこと気づかれた?

 それにしても、あの女性警察官、すごいきれいな人です。褐色の肌で堀の深いお顔がまるで外人さんみたい。私もあんな容姿に生まれていたら人生変わっていたかな。

 その後の会話を聞いていると、どうやら私のことは気づかれていない模様。月がなくなったとか、山奥じゃなくて奥山だとか意味の分からないことを言っている。

 あの二人、大丈夫なのだろうか?

 あ、なんか階段から降りてきた人がいます。あっちの部屋からは女性が出てきました。

 おやおや、さっきの外人さんみたいな女性警察官の前に集まり出しました。

「しゅくせき」とか呼ばれています。なんでしょう、しゅくせきって。


 よし、私も話を聞きに行ってみましょう。


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