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【IOF_77.log】礼節ミサイル

「一旦止めてもらっていいですか。この女性が創造神ですか?」

 警視総監が興味深そうに画面に見入っています。

「はい、この人がビールクズの現人神です」

「ビールがお好きなんですか?」

「めちゃくちゃ好きです。署のストックを飲み尽くして、次はいつ飲めるのかと騒いでます」

「そうですか。では、本日の手土産として缶ビールをお持ち帰りいただくのはどうでしょう?」

「それは神様だけじゃなく署員の皆さんも喜ぶと思います!」

「結構な重さになると思いますが、持ち帰りは大丈夫ですか?」

「はい、私の仮想体重までは物を運ぶことができます」

「前島さん、500mlの缶ビールひと箱の重さは分かりますか?」

「少々お待ちを」

 前島さんとおっしゃる方がスマホで検索を始めました。

「約13キロです」

 4箱いけます! あ、違った。3箱にしてください!

 危ない。4箱運べると言ったら私の体重が52キロ以上だってバレるとこだった。

「えっと、ビールは神様への供物として定期便でお願いできますか? できればドライなやつで」

「ははは、いいでしょう。前島さん、2週間に1回、3箱ずつをお供えで提供してください」

「承知しました」

 よし、ビールの定期便ゲット! これは帰ったら褒めてもらってもいい仕事ですよね。

「すみませんでした。続きを再生してください」

 奥さまが一時停止を解除します。


「すまんな。いたずら好きな神様なんだ。ああ見えても神としての実力は確からしい。神の実力を測る術が人間にはないから聞いた話だけどな。今はまだ帰還の目途が立っていない。でも、必ず転移ゲートを発生させる条件を突き止める。そうすれば日本に帰ることができるはずだ。それまで二人には苦労をかけることになってすまない。五月、椛をよろしく頼む。椛、ちゃんと仕事しろよ。それとママを支えてやってくれ。ママはしっかりしているように見えて寂しがり屋だからな。じゃあまたな」


「奥さん見てるーっ?」


 奥山さんが笑顔で手を振ったところで動画は終わる手はずでしたが、割り込みがありました。

「せっかくの感動が神様のやらかしで漫才になっちゃいました」

 奥さまがだばだば涙を流しながら苦笑しています。

 次は福原さんからのメッセージです。これは、異世界警察署の署員全員が出演しています。撮影場所は、軽油の蒸留器を背景にしています。


「皆さんこんにちは。異世界警察署長の福原珠梨です。5月25日付で異世界警察署長に任ぜられました。重責に身が引き締まる思いです。さて、先般、わたくしどもは自然現象による転移ゲートの影響により、異世界であるここオヤシーマ王国に転移いたしました。転移当初、非常用発電機で電力を賄っておりましたが、間もなく燃料が尽きて稼働を停止いたしました。その後は、発発で必要最低限の電力を起こしておりました。そのような中、自力で軽油の精製に成功しました。詳しくは報告書をご覧ください。これにより最低限の文化的な生活を確保することができるようになりました。どうぞご安心ください。とはいえ、まだまだ環境は不十分です。日本からの継続的なご支援を期待いたします。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 福原さんのメッセージは簡潔なものです。主たる目的が全員の無事を知らせることなので、メッセージの内容は、ぶっちゃけどうでもよかったそうです。


 そして、最後が異世界人代表、我らがローレンシア・コリ・ヘキチお嬢様です。

 え? これってどこですか?

 打ち合わせでは領主邸で撮影っていうはずじゃ……

 ここ、王城ですよね?

 で、一緒に映ってるのはたぶん王家の皆様……

 ローレルさん、なにやってるんですか! いつの間に王城で撮影なんてしてたんですか。知りませんでしたよ!

 挨拶が始まりました。


「ごきげんよう、皆さま」


 ここで華麗なカーテシーーーーっ!! これは破壊力抜群だ! このカーテシーは優雅に撃ち込まれる礼節ミサイルかっ?! いや、見る者の心を一瞬で焼き尽くすマナー型核弾頭っ!! もはや国際条約違反レベル!


「わたくし、オヤシーマ王国第四王女、ローレンシア・メグロ・テンテルウスにございます」

「このたび異国の皆さまにご挨拶できますこと、身に余る光栄と存じますわ。わたくしと異世界警察署の皆さまとのご縁は、わたくしが森で行路を失い、絶望の淵にあった折……尊きフクハラ様にお救いいただいたことに始まりますの」

「そのとき目にしたお姿……わたくしは思わず息を呑みましたの。なぜならフクハラ様は、わが国の国教であるミセラニアス教にて建国の祖と崇められるテンテル様に、まさしく生き写しでいらしたからですの! この国では古くより、テンテル様は神の再来あるいは神の使徒として再び現れると伝えられております。そしていま、わたくしの目の前にその御方と寸分違わぬお姿で現れたのが、フクハラ様であったのですわ」

「以来、わたくしはフクハラ様のお導きに従い、日本国の皆さまの文明や思想、そして高き技術に触れるたび、驚きと憧れで胸をいっぱいにしておりますの。ふふ……少し浮き立ってしまいましたわね。けれど本当に、わたくしにとってフクハラ様は憧憬であり、信仰の証そのものなのです」

「オヤシーマ王国は、このご縁を大切にし、日本国との間に国交を樹立し、互いに栄えゆく未来を築きたいと願っております。日本国の皆さまにおかれましては、この願いをどうかお受けとめくださいますよう、心よりお願い申し上げますわ」

 完璧な王女様だった!

「これは……」

 警視総監絶句です。


「国交樹立の要求ですね……」


 前島さんも絶句。

「もはや警視庁だけの手には余る」

 警視総監が天を仰ぎました。

 ビデオメッセージの最後が破壊力MAXで全員をなぎ倒したところで、次回以降の出現スポットを案内してもらうことになりました。

「車で普通に走ってもらって大丈夫です。一緒に移動できますから」

「分かりました。それでは総監車に帯同してください」

「はい。姿は消していた方がいいですよね?」

「それはぜひお願いします」

 不可視状態で警視総監のストーカーになります。

 駐在所の中で不可視にはなりましたが、その前に死ぬほどカメラで撮影されているので今さらという気もします。これ以上死にませんけど。

 警視総監の車は、八王子インターから中央高速に乗ります。私がETCのセンサーに感知されるのではと心配しましたが、そういうこともなく難なく本線にも合流。

 警視総監の横を浮遊していたら警視総監に手招きをされ、なんと警視総監の隣に座ることになりました。畏れ多い! たぶんリリヤさんより畏れ多い! 福原さんとはいい勝負くらいに畏れ多い!

「郡司様は、確か溺死体で検視待ちだったとか」

「ええ、そうなんです。お風呂で寝ちゃったので、よく煮えちゃってぐっちゃぐちゃだったそうです」

「具体的に説明してもらってありがとうございます」

 警視総監が苦笑しています。

「あと、様付けはやめてもらっていいですか? 神格を持っているといっても所詮幽霊ですし、天界の都合でもらった肩書だけの神なので」

「そうですか。それでは郡司さんとお呼びすることをお許しください」

「いやいやいや、だからそんなに畏まらないでください。私、ただの変死体ですよ?」

「そうですが、普通、神になったらもっと尊大になるものではないのですか?」

「なる人もいるかもしれませんね。私も天界のことは全然分かっていないので偉そうなことは言えませんけど、少なくとも私は自分を偉いなんて思えません」

「分かりました。それではお友達ということでどうですか?」

「それは逆に私の方が畏れ多いんですが……」

「いえ、その辺りはお互い様ということで。むしろ私はお友達になってもらえると嬉しいんです。この地位に就いてしまうと、誰も友達付き合いをしてくれなくなります。結構孤独なんです。ですから、人間以外で友達ができるのは嬉しいんです」

「警視総監って大変なんですね」

「望んで得た地位なので仕方ありません」

「分かりました。お友達でお願いします!」

 こうして私は警視総監とお友達になってしまいました。

 警視総監室に来客がないときなら自由に移動してもいいとお許しももらえて少しビビってます。

「間もなく本部庁舎に入ります。地下1階の車寄せで降車します。そこからは、警務部別室の職員がご案内します」

 助手席の前島さんが声をかけてくれて気づきました。いつの間にか高速道路を出ていたようです。

 警視総監の車がスロープを下りて地下に入っていきます。

 地下の車寄せには若い女性が立っています。たぶん、あの人がお迎えですね。

 車が停まってすぐに助手席から前島さんが降りました。素早いです。

 そして、待っていた女性と一言二言交わしたあと、警視総監が座っている席のドアを開けます。警視総監はドアから降車しますが、私はするっと抜け出します。

 あ、出迎えの女性が目を丸くしています。

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