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【IOF_76.log】ビデオレター

 お疲れさまです。

 警視庁異世界警察署臨時職員見習い幽霊の郡司蓉子です。

 勤務中異常なし。


「通行証よし!」

「ビデオレターのメモリーカードよし!」

 福原さんと持ち物の最終チェックをしています。

 今日は、日本で警視庁の代表と会います。警視庁の代表は、なんと警視総監! 本物の代表です。今から緊張しています。

 今日の面会がうまくいったら、異世界警察署と警視庁の連絡手段がひとつ増えることになります。今のところこちらと警視庁とで連絡が取れるのは文書管理システムを使った書類のやり取りだけ。それが、これからは私の仮想体重の範囲内で物のやり取りができるようになります。

 そのためには、私が警視庁の中に移動できるようになる必要があります。その場所として警務部別室、通称B四零号室が指定されています。福原さんは、この部屋が適当だと思っていたようで、警視庁から通知があったときは満足そうに頷いていました。

 私は、警視庁の中に入ったことがないので楽しみです。どんなところなんでしょう。

「では行ってきます!」

「行ってらっしゃい!」

「五月によろしく!」

 みんなに見送られて世界間移動を始めます。


「移動目標、冥魂府聴聞室前室!」

「移動目標、日本国警視庁奥多摩警察署鷹の巣駐在所!」


 なるほど、慣れれば一瞬ですね。

「奥さま、こんにちは!」

「蓉子さん! 待ってたわ」

 奥さまと熱い抱擁を、と思ったんですけど幽霊だからすり抜けちゃう。

 移動した先は、駐在所の居宅内です。

「総監がお待ちですよ」

「ひゃい!」

 噛みました。

 奥さまに連れられて見張所に出ます。

 わっ、すっごいたくさん人がいるんですけど!

 カメラの砲列!

 ストロボやめてください! 浄化されちゃいます!

 嘘です。浄化は耐性があるから平気です。でも、眩しいですよ。幽霊だって眩しさは感じるんですからね。

 今日の面会ってマル秘だったんじゃなかったんですか?

「漏れるのよ。どこかから」

 奥さまが耳打ちしてくれました。

 私は全然構いませんよ。でも、警視庁的にいいんですか、それで? 情報セキュリティ大丈夫?


「進行させていただいても?」

 一人の男性が声をかけてきました。

 少しイラついているみたいです。なんでよ?

 どうぞ進めてください。

「異世界からいらっしゃった郡司蓉子様、ようこそ日本国へ。本日の案内を務めます警視庁企画課の前島と申します。本日はよろしくお願いします」

 前島さんですね。よろしくお願いします。

「早速ですが、警視庁側の代表者をご紹介いたします。警視総監です」

「警視総監の三条です」

 警視総監、かっこいいおじ様!

「はじめまして。日本で溺死体、異世界に転移して幽霊、天界で神格をもらった郡司蓉子です。よろしくお願いします! あ、握手はできないのでごめんなさい」

 警視総監が手を差し出そうとしたので握手ができない非礼を詫びました。

「なるほど。幽霊は実体がないというのは本当なのですね」

 警視総監は特に警戒した様子もありません。

「指定の通行証を確認しても?」

 前島さんに促されて、事前に番号を知らせておいた異世界警察署にあった通行証を見せます。

「確認しました。番号は間違いありません」

 そりゃそうですよ。出発前に何度も確認したんだから。


「そうだ。奥山さんの奥さまに奥山さんからビデオレターを預かってきています。この場で奥さまにカードをお渡ししてもいいですか?」

「異世界で録画された動画ですか?」

 警視総監が食いついてきました。

 異世界にいる人からのビデオレターですからね。異世界で録画してますよ?

「それは興味深い。ご迷惑でなければ再生にご一緒させていただけますか?」

 奥さま、どうします?

「私は構いません。ただ、泣いちゃうと思いますから、少し恥ずかしいです」

 奥さまは、もうハンカチの用意ができています。ハンカチじゃないですね。吸水性が良さそうなタオルです。

「ノートパソコンしかありません。画面が小さくて恐縮です」

 警視総監を居宅のリビングに案内した奥さまがパソコンを起動させ、カードスロットにメモリーカードを挿入します。

 テーブルに着いた全員がモニターを凝視しています。

 メモリーカードの中には3つの動画ファイルがあります。「奥山さんから奥さまに向けたメッセージ」、「異世界転移した全員が集合して福原代理が挨拶したもの」、「ローレンシアお嬢様が異世界のオヤシーマ王国代表として挨拶しているもの」この3つです。

「夫のものから再生してもいいですか」

 奥さまの声が震えます。

「もちろんです」

 警視総監が頷きます。

 奥さまがファイルをダブルクリックしました。

 ビューワーが立ち上がります。

 広大な山々を背景にした異世界警察署の全景が映ります。署の玄関前に制服姿の奥山さんがいます。

 カメラは、徐々に奥山さんに迫ります。


「あなた……」


 奥さまはもう号泣です。


「五月、(もみじ)、元気か? 俺は今、地球ではない異世界にいる。もう聞いていると思うが、異世界に転移したんだ。ここはオヤシーマ王国のオーメ領。その中のカーベ村の郊外だ。なんか聞いたことがあるような地名だろ? こっちには、日本語の名残りのようなものがたくさんあるんだ。日本語そのものが聖なる紋様として崇拝の対象になってもいる。だから、割と親しみやすくて生活には困っていない。その点は心配無用だ。こちらに来て、こっちの世界を作った創造神と会う機会があった。いや、今じゃ署長室を自分の部屋のように使っているフランクな神様だ。その神様の言うことには、異世界から日本に帰ることは不可能ではないらしい。帰還には転移ゲートという世界の間をつなぐトンネルのようなものが必要だそうだ。ただ、今のところ、それを人為的に作ることができない。俺たちの転移は自然現象による転移ゲートの出現に巻き込まれた結果だ。だから、転移ゲートを人為的に作ることができれば帰還の可能性が出てくる……」

「あ、どうもー、ご紹介にあずかりました創造神です」


 いきなりリリヤさんが映り込んできました。

「ちょっと、リリヤさんやめてくださいよ。私のビデオレターなんですから」

 なんか二人で漫才を始めましたよ。

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