【IOF_68.log】発令通知
お疲れさまです。
警視庁異世界警察署警務課警務係城取洋輔です。
勤務中異常なし。
山の民が守っていた神の塔が警察の無線中継所、それも御岳山の無線中継所と強い関連性があることが分かりました。
因果関係は明らかではありませんが、一次的に山の民の無線中継所を再稼働させた直後に警視庁のイントラネットである「けいしWAN」が復活しました。これにより警視庁内で文書のやり取りを行う文書管理システムが使えるようになりました。
文書管理システムでは、こちらから報告や上申を上げることができ、本部からは通達や通知などを送ることができます。これで署の業務がぐっとやりやすくなります。
それに加えて、幽霊の郡司さんが天界を経由してこちらと日本を往復できることが実証されました。郡司さんは幽霊で質量がないのですが、亡くなる直前の体重相当の仮想質量という属性があって、その範囲で有体物を伴った移動が可能です。この属性を使って異世界と日本で物資のやりとりもできることが移動検証の際に確かめられています。
移動検証の結果と併せて、郡司さんと警視庁側との接触を上申しています。
上申に対する回答を待っているところで本部から文書管理システムに新着の文書が届きました。ようやく回答が来たかと思って文書の件名を見ました。
発令通知(5月25日付)
はい?
ああ、これは全所属に送られているやつですね。本部からの文書も通常に届くようになったわけか。
「代理、発令通知が届いています。ご自分で開きますか、それとも紙に出しますか?」
「そうですね、今のところ紙は有限なのでなるべく使わない方向で。私が自分で開いて確認します」
いつもながら堅実な方針を示す福原代理です。
では、私も確認することにします。
「ふぁっ?!」
思わず変な声が飛び出しました。
「代理、大変です! 代理が署長に!」
あ、福原代理の顔から表情が抜け落ちています。
「ある程度は予想というか覚悟はしていたつもりですが、いざ発令通知を見ると責任の重さを実感します」
そうでしょうね。異世界で初代の警察署長になるわけですから。異世界と日本、いや、世界との交流の歴史を作る人になってしまったわけです。間違いなく世界史に名前が残るやつです。私だったら失禁しているかもしれません。
よし、全力で支えよう!
決意を新たにしたところでもう一件、新着文書の通知がポップアップしました。今度は何ですかね。
(通知)異世界警察署からの使者である幽霊との接触日時等の指定について
ついに幽霊の存在まで認めてしまったようです。
これは警務係から福原代理に決裁を回す案件です。
「福原代理、総務部長通知をご覧になりましたか?」
「はい、今まさに見ているところです」
「別添のメモにあった『警務部別室』って分かりますか? 私には思い当たらないんですが」
「ああ、知らないのが普通ですからね。ここでいう警務部別室というのは、ちょっと訳ありな人が送り込まれるところで、本部の地下4階にある小部屋ことです。そこなら幽霊さんが現れても誰の目にも留まりません。警視庁もいい場所を選んでくれました」
はあ、そんなところがあるんですね。全然知りませんでした。そもそも、警視庁の地下に4階があることすら知りませんでした。地下3階の駐車場が一番深いところだと思っていました。きっと、まだまだ知らないことがたくさんあるのでしょう。
「郡司さん、警視庁との接触が決まりました。こちらに文書を出しておくので確認してください」
「あ、はーい」
署長室から郡司さんの呑気な声が聞こえてきます。
署長室では、2柱の神が薄い本を読みふけっています。まったく威厳はありません。天界的にはこれでいいのですか?
リリヤさん曰く「いいんじゃない?」という疑問形でのお返事でした。おそらくあまりよくはないんじゃないかと思います。監査が近いと言っていましたけど、それでいいのかこちらが心配になってきます。お手伝いできることがあればやりますよ?
「ほんと? じゃあ、当日の応問を私の代わりに……」
お断りします。
「えー、『できること』に含まれない?」
できることと、やっていいことは別です。
「ちっ」
そういうところですって。




