【IOF_67.log】警視庁、異世界を認める
お疲れさまです。
警視庁総務部企画課総監秘書係警部補前島龍雅です。
勤務中異常なし。
もう勘弁して欲しい。
異世界警察署なんていう所属が勝手にできただけでも大事なのに、そこから送られてくる報告や上申がクレイジーすぎます。
きちんとした体裁の書類で真面目に作成されていることは伝わってきます。しかし、その内容は、一字一句クレイジーです。狂気です。もはや凶器です。
異世界で領主の娘を助けて謝礼に大金貨100枚? ははは……
異世界で軽油を精製して発電? 何やってるんですか?
異世界で天然ガスを採取してガスコンロ使用? 軽油ほどは驚きませんよ。
異世界で捜査協力? は?
異世界で指紋採取で冤罪回避? すごいことやってますね。
異世界で伝聞法則を使って偽の証言看破? もはや言葉もない。
異世界と日本を往復? 嘘でしょ?
しかも神が?
その神は、幽霊ですと?
その幽霊は、溺死体で霊安室にあったもの? もはや理解不能です。
やっていることがクレイジーなら報告もクレイジーです。
警察の公文書に「幽霊」だとか「神」といった単語が真面目に使われると誰が想像し得ましょう。いや、想像できまい。
警視庁内、いや、警察庁や各省庁まで巻き込んで連日会議と検討会です。
異世界が存在することは、もはや否定しようがないでしょう。
現地の写真をワームカードで撮影してきている以上、加工だといって闇に葬るわけにもいきません。
会議での議題は、異世界の存在を国として正式に認めて公表するのか、ということです。
多数意見は否定的です。役所の立場としては妥当な考えでしょう。新しいもの異質なものは認めたがらないのが役所というもの。
庁務係からの情報では、各大臣は、役所の口車で説き伏せて消極意見に持っていけているようです。
しかし、役人の力が弱い内閣は違います。
「異世界の存在を認めてもいいんじゃない? なんか不都合とかある?」
くらいのノリです。
不都合ですか……
特にないですね。
あ、総監出席の部長会議が終わったようです。
会議内容は係長からフィードバックがあるはずです。今回は重要な判断がなされる予定で、結果を聞くのが少し怖いです。
「会議の結果を伝達する」
来ました。
警視庁は、政府に先行して異世界の存在を認める。
異世界警察署を103番目の警察署とする。
異世界警察署は方面本部には属さず、当面は副総監の直轄とする。
これに伴って、現在不在となっている異世界警察署長は、同署警務課長代理福原警部をもって充てる。
福原警部は、5月25日付けで理事官職、警視に昇任。異世界警察署各課長職を兼務とする。
「ここまでが公式の議事録に載る会議結果だ」
ということは、非公式な決定事項があると。
「非公式決定事項がある。これは厳秘だ」
異世界からの使者「郡司蓉子」を警視庁として受け入れる。
警視庁又は日本政府と異世界警察署との間での物資は、郡司蓉子を介してやり取りが行われる。
郡司蓉子との初接触は、奥多摩警察署鷹の巣駐在所にて行う。
初接触を経た後の接触は、警務部別室、通称「B四零号室」において行う。
それからは大忙しの大騒ぎだ。
まず、異世界警察署を正式に警視庁の組織に組み込む必要があります。
組織に新しい所属を組み込むというのは、おそろしく手間のかかる仕事です。
関連する条例、規則、訓令、通達の改正。これらを改正したら警視庁報に掲載しなければなりません。
通知、事務連絡なども盛りだくさん発出します。
人事一課は、福原警部の承認手続きでてんやわんやしているようです。
署長、つまり所属長は理事官という職以上でなければなれません。そして、理事官職は警視以上の管理職である必要があります。福原警部が署長になるということは、管理職でない警部からいきなり警視に昇任して理事官職に任ぜられるということ。
署の課長代理の職にある非管理職の警部が署長になるまで、普通であればどれくらいのステップを踏むかご説明しましょう。
①警部→指定係長職警部(ここまで非管理職)→②管理職警部(署の課長)→③警視(署の課長)→④警視(本部管理官)→⑤指定管理官職警視(本部管理官)→⑥指定管理官職警視(署副署長)→⑦理事官職警視(本部理事官)→⑧理事官職警視(警察署長)
一口に警部や警視といっても内部的にかなり細かく階級分けされています。それぞれのステップをひとつずつ上がっていくのが普通なのですが、福原警部の場合は①の地位から⑧まで一気に昇りつめます。内部的には七階級飛ばしです。階級だけなら警部から警視の一階級にしか見えませんが……
異世界警察署に署長が不在。署長を置く必要がある。日本から異世界に人は送れない。現地の人間を署長にするしかない。こういう流れで必然的に現地で最高職にある福原警部が署長に推挙されることになりました。
こちらの人間を署長にして、福原警部を次長に据えた上で署長不在を理由に署長代行とする案もありました。次長というのは、島部の小さな警察署で副署長を置かずに管理職警部でその代わりを行わせるものです。この案なら非管理職警部から管理職警部にするだけで済むので人事的にも納得されやすいとして有力な案でした。
ところが、人事一課長が「着任の可能性もない署長を作ってどうする。異世界を認めておきながらそういう姑息なことをするな」と一蹴。ど正論に誰も異を唱えることができなかったとか。
そして、最終的に総監出席の部長会議で前掲のような決定がなされた次第です。
警察庁とはすったもんだがありました。当然です。警察庁としては、異世界の存在は認めたくない。だから、警視庁の方針には反対の立場です。とはいえ、警察庁が警視庁を直接指揮できるわけでもありません。東京都公安委員会がOKと言っている以上は、それが決定事項です。自治体警察の建前を堅持するならそうなります。
それにしても驚いたのが、幽霊が異世界から日本に戻ってきて、奥多摩警察署管内の駐在所で勤務員の奥さんと会い、異世界の金貨1枚を託していったことです。そのことが文書管理システムで異世界警察署から総監宛てに報告されました。その報告には、駐在の奥さんが異世界の金貨を手に持った写真が添付されていました。
それと時を同じくして、奥多摩警察署から異世界のものと思われる金貨1枚が本部に持ち込まれました。
その金貨は、今まで発行されている世界中のどの金貨とも異なるデザインで、政府発行によるものではないことが確認されています。
刑事部の科学捜査研究所で組成を分析したところ、純度の高い金でできているが不純物もあり、その中に地球上に存在しない元素が確認されました。新元素の発見は、2016年の「ニホニウム」以来です。114番目にあたる新元素の命名権を得た警視庁は、異世界から金貨をもたらした幽霊にちなんで「ObaQium」(オバキウム)と命名しました。心なしか既視感が……
そんなこんなで警視庁が大きく動きました。もう止められません。私としてもどこまで突っ走るのか心躍る毎日です。




