【IOF_64.log】幽霊さんの帰還
日本に帰ってきました。
警視庁異世界警察署臨時職員見習いの幽霊郡司蓉子です。
勤務中異常なし。
「移動目標、日本国御岳山無線中継所!」
異世界から日本への移動実験第1回目にチャレンジです。
一瞬視界が暗転して、すぐに光が目に飛び込んできました。
おや、見たことがある風景です。
ああ、ここは冥魂府の聴聞室前室ですね。
たしか私は日本の御岳山を目指していたはず。
なんで冥魂府?
ちょっとよく分からないので、リリヤさんのおじいさんに聞きに行ってみましょう。
「お邪魔しまーす」
上席管理官室と表示のある部屋を訪ねます。
「おお、ヨーコか。今日はどうしたんじゃ? リリヤは一緒じゃないんかの?」
おじいちゃん、元気そうです。
「ええ、今日は通行証の使い方を検証していたんです。初めてだったからリリヤさんとは一緒じゃありません」
「なんじゃ、残念じゃのお」
やっぱり通行証の目的は孫ですね。
「実はですね、私は日本のとある場所に移動したいと念じていたんです。でも、実際に移動してきたのは聴聞室でした。どうしてですか?」
「そうか、ちょっと説明が足りなかったの。通行証で世界間を移動するときは、必ず冥魂府を経由せにゃならんのじゃよ。毎回面倒なことじゃろうが、そういう仕様なんでな。勘弁してくれ」
そういうことだったんですね。直接世界の間を行き来できたら冥魂府として管理できなくなっちゃいますもんね。納得です。
それじゃあ、これからは、一旦聴聞室の前室を経由して日本とオヤシーマを往復すればいいんですね。
「そういうことじゃ。毎度、儂のところに顔を出さんでもよいぞ。時間ももったいないじゃろ。初めのうちは、ここを経由するのが鬱陶しく思えるかもしれんが、何度か往復して慣れれば一瞬で目的地に移動できるわい」
習うより慣れろってことですね。
「その通りじゃ。ああ、あとヨーコよ。お主を神にしておいたでな」
は? 今なんかとんでもないことを聞いたような気がします。
「いや、ほら、その通行証でどこの世界でも行けるわけじゃろ? そんなことができる資格を持っていながら幽霊のままっていうのもどうかと内閣総大神が言ってな。それじゃあ神格を付けちゃろとなったんじゃ。お主の神格は『擬制神』じゃ。天界としては、あくまでも幽霊、つまり魂という扱いは変わらん。それでも天界以外の世界に対しては神と名乗れる資格じゃ。リリヤは現人神じゃが、お主は実体がない。だから現人神というわけにはいかん。幻神と名乗るがいい。なんかかっこいいじゃろ?」
幻神? どこかのゲームにあったような気しますよ?
まあ、私は幽霊でいいです。神様っていう柄じゃないですし。
「相変わらず欲がないのお。おまけに儂の話をちっとも聞いてないところも前と同じじゃ。そういうところもお主の持ち味なんじゃろな。嫌いじゃないぞ」
え、なんか大事な話ってありましたっけ?
「なんもないぞ。ほれ、日本に行くんじゃろ。とっとと行け」
はーい、行ってきます!
「移動目標、日本国御岳山無線中継所!」
はい、着きました。
真っ暗です。
中継所の建物の中に移動できたみたいです。照明がないからなにも見えません。
これじゃあ写真も撮れないし、金貨を置くことも無理っぽいです。
かといって、外に金貨を置くのはさすがに不用心です。
どうしましょう……
真っ暗な部屋の中で私は思案しました。無い知恵を絞って。
絞れば出るもんですね。
一緒に転移した奥山さんは、奥多摩警察署の鷹の巣駐在所にいた人です。他の人の住所は知りません。奥山さんだけはどこに住んでいたのか分かります。駐在さんだから奥さんもいるはず。そうです。奥さんに会ってご主人の無事を伝えましょう。そして、金貨を預けて、その場で写真も撮らせてもらえばいいじゃない?
我ながらなかなかいいアイデアだと思います。
たしか、鷹の巣駐在所は山を下りたところの街道沿いにあるはず。奥山さんが言ってました。
では、下山して街道沿いを流します。
鷹の巣って、電車の駅があったはず。しかも、結構奥まった山の中に。
だから、御岳山に通じる山道との分岐より奥多摩湖寄りにあると予想します。予想が外れたら戻ってくればいいだけです。浮いてるから疲れるとかもないし、楽勝です。
姿を消したまま、ふわふわと街道沿いを飛びます。
しばらく飛んでいると駐在所のような建物が見えてきました。
大当たりです。「鷹の巣駐在所」と表示があります。
ここが奥山さんのお住まい兼仕事場なんですね。なんか感慨深いものがあります。
とりあえず私は、駐在所の全景をカメラに収めます。奥山さん、喜んでくれるといいな。
それで、この先どうするかです。
奥さまと接触したいけど、幽霊が姿を見せたら驚かれるかもしれません。いや、普通は驚くでしょう。
でもですよ、ここまで来て奥さまに奥山さんの無事を知らせないまま帰るのもどうかと思うんです。あまりにも薄情?
あ、駐在所に誰か来ましたよ。おばあちゃんのようです。ご近所さんでしょうか?
おっと、奥から女の人が現れました! あれは奥さまに違いない! 千載一遇のチャンス!
おばあちゃんは、奥さまと思われる女性とひとしきりお話をして帰っていきました。
奥さまらしき人は、駐在所の前でおばあちゃんを見送っています。つまり、今、奥さまらしき人は一人です。私は急いで駐在所の見張り所に飛んでいきます。
駐在所の見張り所に戻ってきた奥さまらしい人に声を掛けます。まだ姿は見せません。




