【IOF_63.log】移動実験
お疲れさまです。
警視庁異世界警察署警務警務課長代理警部福原珠梨です。
勤務中異常なし。
クロードさんの冤罪事件からセドリの脱税が発覚しました。
あとは領主の帳簿を点検するという作業が残っていますが、一応、事件は解決をみました。
異世界での警察活動は、逐一、警視庁に報告すべきでしょう。
軽油の精製や日々の買い出しに忙しい毎日ですが、隙を見て報告書を作成します。
捜査協力の報告が済んだところで、とても大事なことを上申しなければなりません。
それは、幽霊さんが日本のどこに移動して、誰と接触すればいいのかを決める必要があります。
まず、幽霊さんが移動できるのは、一度でも行ったことがある場所に限られます。だから、警視庁の中は無理です。警視庁関係で行ける可能性がある場所といえば、奥多摩警察署の霊安室だけです。しかし、奥多摩警察署の霊安室に安置されていたときは、幽霊さんの意識がありませんでした。意識がなければ「行ったことがある」と認識できません。奥多摩警察署の霊安室も却下です。
幽霊さんは、警察博物館に行ったことはあるでしょうか。あそこは一般公開されている警察施設です。
「行ったことあります!」
やっぱり。それでは、幽霊さんと警視庁の方の最初の接触場所は警察博物館がいいですね。閉館中の時間なら問題ないでしょう。
「こっちの時間と日本の時間て同じですか?」
幽霊さん、いいところに気付きました。
こちらと日本の時間が同じとは限りません。そうすると、警察博物館の閉館中を狙うのが安全とは言えなくなります。閉館中と思ったら一般公開中で、そんなところに異世界からの幽霊が現れたら大変です。いい案だと思いましたが、警察博物館も難しそうです。
他を探しましょう。
「御岳山の無線中継所は行けませんか?」
城取主任が面白いことを言いました。
「こっちの世界の中継所も地図端末で見る限り日本の御岳山無線中継所と同じ場所にあります。であれば、蓉子さんが『御岳山の無線中継所』と念じれば行けるような気がします」
それは思いつきませんでした!
あそこなら、普段は無人ですし柵で囲われているので一般の人が入って来ることは考えられません。もし、そこに移動できるとしたら好都合です。建物の中に移動できてしまえば絶対に人目につくことはないでしょう。
「ということで、御岳山の無線中継所にひとっ飛びしてみてください。ちょっとした実験です。行くときは、デジタルカメラと金貨1枚を持っていってください。うまく移動できたら建物の中のどこかに金貨を置いてくるのと、現場の写真を何枚か撮ってきてください。金貨を置いたところの写真を撮るのも忘れずに。成功したら上申書の中に『御岳山無線中継所内に異世界の金貨1枚を置いてきた』と書きます。そうすれば、こちらの主張に信憑性が生まれます」
「わあ、面白そうですね! なんかワクワクしてきました」
幽霊さんだけではありません。全員が日本との繋がりに期待しています。
小路さんが金庫から金貨を1枚払い出してくれました。これもちゃんと帳簿に付けています。
デジタルカメラは生活安全課から出してもらいます。バッテリーとメモリーカードは大丈夫ですか? デジカメあるあるですけど、いざ撮影しようとしたらバッテリーやカードが入ってなかったなんてことがあり得ます。
「この袋に入れてけ」
木村係長が町で買った革袋を提供してくれました。ありがたいです。
「皆さん、ありがとうございます。では行ってきます!」
幽霊さんが革袋をふわふわと浮かせながら行き先を念じます。
「移動目標、日本国御岳山無線中継所!」
幽霊さんが革袋とともに姿を消しました。
どこかに移動できたのは間違いないようです。移動目標が分からないのが不安要素ですけれども……
ここで、「移動」と言っているのは、私たちの転移と混同しないためです。
「蓉子ちゃん、日本に着いたねー。よかった、よかった」
リリヤさん! 本当ですか?
「ほんと。今しがたイザナミちゃんからショートメッセージが飛んできたから間違いないよ。日本から消えた魂が一つ急に増えたって驚いてたよ。おじい様の仕業だと言ったら笑ってたから問題ナッシングだね」
天界はショートメッセージで連絡が取れるんですか!
「それくらいできないと情報が過疎っちゃうからね」
情報は大事です。ところで、幽霊さんは日本のどこに移動したのでしょう?
「ちゃんと御岳山の無線中継所にいるよ」
初の移動実験大成功です!
これで日本と異世界が繋がりました。
幽霊さんを介しての繋がりではあるけれど、間違いなく大きな一歩です。
あとは、署員の皆さんを日本に送り還すことができれば……




