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【IOF_62.log】見つけた

「またあんたたちか。今度はなんだ?」


 あれがセドリか。セドリという名前にはいいイメージがない。勝手なイメージだとは承知している。本来、瀬取りに悪どい商売という意味はない。それが、転売ヤーといわれる人たちの行き過ぎた買い占めや、著しく相場を無視した高値での転売行為が目に余り、それがもとで、あたかも瀬取りが転売ヤーと同義であるかのような理解が広まってしまった。私もそのイメージを抱いてしまった一人だ。そして、今回の事件で私の中でのセドリは完全に悪者に成り下がった。


 セドリは、商売人としては態度が太々しい。福原代理の捜査で脱税の疑いが明るみになる前は、商売人らしい低姿勢で応対していたそうだ。脱税の疑いが出てからというもの、あからさまに態度が悪くなったと可愛さんも嫌悪感を隠していない。


「セドリ。脱税の疑いで聞きたいことがあって来た」

 バルボアさんが用件を告げる。

「セドリさん。この前お邪魔したときはお部屋の中をじっくり拝見することができませんでした。改めてこうして見ると実に立派なお部屋ですね。飾られている宝飾品もみな一流品に見えます」

 福原代理が雑談を始めた。いや、これは雑談ではない。かならず意図がある会話のはずだ。神にも等しい福原代理がセドリのような卑しい男と目的もない雑談をするはずなどないのだから。


「ふん。前に来たときは、気づかなかったくらいだ。ろくに宝石類の価値も分からんのだろう」

「いや、耳が痛いです。まったくその通りです。勉強不足の私に宝飾品の価値を教えていただけますか? セドリさんは長らく商人をなさっているお方。目利きは確かなはず」

「うむうむ、そうだな。商人は目利きが命だ。物の価値が分からなければ商売をすることはできん。そうだな、ここにあるものは王都のオークションで手に入れた貴重なものばかりだ」

「ほう、王都のオークションですか! いかにも高価な掘り出し物が出品されそうですね」

「王都だからな。当然だ」

「王都のオークションは、どれくらいの頻度で開催されているんですか?」

「2か月に1回だな」

「そうですか。一度行ってみたいものです」

「なんなら案内するぞ。初めてのときは、すでに参加している者の紹介が必要だ」

 セドリが下品な笑いを浮かべる。下心が見え見えで、むしろ清々しいくらいの下衆だ。

「ええ、機会があったら是非ご一緒したいですね」

 セドリの顔が輝いた。いや、あなた、いま捜索受けてるって分かってるか? ナンパしてる場合じゃないだろうに。


「そうそう、セドリさん。最後にオークションに参加なさったのっていつですか?」

「最後か? そうだな、先月のオークションに参加したな。そのとき競り落としたのがこれだ」

 得体の知れない短剣を指さして得意満面のセドリ。

「すごそうな短剣ですね! きっと高価なんでしょう。オークションには、一体いくらくらいの資金を用意して臨まれるのですか?」

「大金貨100枚くらいは持ち込むな。それくらい用意できんような奴は王都のオークションに参加する資格すらない」

「すごいですね! そんな大金を用意するんですか! そうなるとお店のお金が一時的に足りなくなるようなことはないのですか?」

「店か? それは大丈夫だ。オークションに持っていく金は店とは関係ないように……いや、店にも蓄えがあるから大丈夫だ」


 セドリの額に脂汗がにじむ。どうした?

「小路さん。お店から押収した帳簿で、先月、大金貨100枚の支出はありましたか?」

 ありません。断言できます。そんな大きな支出を見逃すはずかない。

「先月の帳簿には、大金貨100枚の支出がありません。先ほどセドリさんは、お店の蓄えから持ち出したとおっしゃいました。そうであれば帳簿に記載があるはずで。ですが、押収した帳簿にはその記載がありません。そのお金はどちらの帳簿に記載してあるのですか?」

「いや、勘違いした。先月はオークションに行ってなかった」

「誰でも勘違いはありますからね。では、そちらの短剣がいつのオークションに出品されたものか、主催者に問い合わせてみることにします。セドリさんに余計なお手間をかけさせるわけにはいきませんから」

「いや、それは……」


 セドリ、詰んだな。

(ソファ。何度も視線が向いてるね)

 セドリの行動観察をしていた須田主任が福原代理に耳打ちした。

「郡司さんお願いします」

 今度は福原代理が独りごちた。

 わずかな間をおいて福原代理が無言で頷く。


「バルボアさん。そのソファのクッションを剥がしてください」

「え、これですか? 了解」

 バルボアさんがクッションを取り除くと、下から持ち手のような物が付いた板が姿を現した。

「その持ち手を引くと蓋になっている板が外れたりしませんか?」

「外れました! あ、帳簿みたいな羊皮紙の束が出てきました!」

「ここからは小路さんの仕事です」


 任された。頑張る。

 私は、羊皮紙を何枚か繰って帳簿の記載を読み込む。

 見つけた。

 思わずニヤリと悪い顔になった。

「先月、大金貨100枚の支出があります。摘要にオークションとあります」

「ということですが?」

 福原代理がこてんと首を傾げる。これはチェックメイトの合図だ。

「なんなんだ、お前たちは! 化け物か?! 今までどんな収税役人が来てもばれなかったんだ!」

 セドリが膝から崩れ落ちた。

 この脱税でセドリは、領主の裁きを受けて全財産没収のうえ、領内から追放の処罰を受けることとなる。


 そういえば、商会で福原代理は郡司さんに何をやらせたのだろう?

「須田さんがセドリの視線で裏帳簿の隠し場所らしいところを教えてくれたら、私がその場所に潜り込んで裏帳簿の存在を確認したんです。最初から私が商会中を探し回ってもよかったんですけど、それだと適正手続きに反するからダメと福原さんに止められました」

 なるほど。福原代理の独り言には、そういうやり取りの背景があったわけだ。

「人はね、見つかってはいけない物を隠しているとき、無意識にその場所を見てしまうものなんだよ。ガサに入るとき、よくやっていたことだね」

 公安が言うとちょっと怖い。

 脱税の裏付けとして、日を改めて領主の帳簿でセドリの納税額を確認することになった。


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