【IOF_58.log】騎士バルボア
なんで俺が使徒様の手伝いを?
オーメ領ヘキチ辺境伯騎士団騎士バルボアだ。
オーメ領は俺が守る。
俺の名前はヴィクトリオ・バルボア。
オーメ領の北東の端の端。隣国との境にある山裾の村「バーディ村」を預かる田舎男爵家の三男だ。田舎男爵家の三男なんて領地にいても穀潰しでしかない。さっさと独り立ちして出ていけと追い出されるようにして辺境伯騎士団に入団した。
騎士としては、あまりできがよくなかったようで、新人訓練ではいつものされてばかりいた。それでも辞めずに食らいついてきたんだ。自分をほめてやりたい。
そんなヘタレなので、戦いの最前線に出してもらうようなこともなく、だいたいは町の見回りと治安の維持という、騎士団としては閑職と言われる仕事をさせられることが多い。みんな派手な仕事をやりたがるが、俺は町の治安を守る仕事を気に入っている。領民と近い所で仕事ができて楽しいし、仕事の成果が目に見えるのでやり甲斐がある。見回りで町の人と仲良くなると、買い物のときにおまけをしてくれたりするのも密かな理由のひとつだ。
ある日、俺は分隊長から泥棒の犯人として名指しされたクロードという男の捕り物に駆り出された。捕り物自体は簡単な任務だった。クロードの顔は知っていたし、市で見つけたときには、たいして逃げもしなかったのですぐに取り押さえることができた。
ずいぶん騒いでいたけど、大暴れするようなこともなくあっさりとお縄になった。
さて一件落着と思ったそのとき、俺の後ろから女性の声がした。
なにかと思って振り返ると、褐色の肌の女性が膝に手を当てた中腰の姿勢で俺を見ていた。
その瞬間、俺の心臓は早鐘のように鼓動を打ち鳴らした。
なんて美しい女性なんだろう。闇夜のように黒い髪。青緑色の大きな瞳は、吸い込まれそうな魅力をたたえている。そして、このあたりでは見たこともない不思議な服を着ている。
これが団長から指示のあった「フクハラ」というテンテル様の使徒様に違いない。褐色の肌の女性などこの領地にはいない。間違えるはずもない。
そして、なんかいい匂いがする。
ミツバチが花に導かれるときって、こんな感じなのかと思った。
フクハラ様は、俺たちに付き添って騎士団本部まで行きたいと言った。俺の一存では決められないことだ。俺は、監視にあたっていた分隊長に判断を仰いだ。
分隊長もフクハラ様のことは知っていて、領主様から便宜を図るように達しがあったとのことで同行が許された。
騎士団本部に着くと、クロードを地下の牢屋に収監して、早速取り調べに入ろうとした。
そうしたところ、フクハラ様が分隊長を連れて一階に上がっていった。何事かと思っていたら、しばらくして戻ってきた分隊長から、取り調べは一旦待つようにと命ぜられた。
どうやらこの事件のことで、フクハラ様が領主様と話があるらしく、その結果を待つことになったらしい。フクハラ様は、領主様と直接話ができる方なのか。しかも、先触れなしですぐに会ってもらえるとか、すごいな。
そのあとは、特になにもなかった。
翌日、俺は団長に呼び出された。俺、なんかやらかしたか?
団長に呼び出されるなんて、絶対ろくなことじゃない。
仲間の憐れむような視線に送られて控室を出て団長室に向かう。ああ、足も心も重い。
団長室の前で大きく深呼吸をしてドアをノックする。もう逃げられない。
すぐに室内から入室を許す声が返ってきた。留守でよかったのに。ちくしょう。
「騎士バルボア、お呼びにより参りました!」
いつもの5割増しくらいの声を張り上げる。
「うるせえ! そんなでかい声出さなくても聞こえてるぞ」
団長が怒鳴り返す。でも、顔が怒ってないぞ? どうした?
「休め」
団長の許しで気を付けの姿勢から休めの姿勢に移る。実際は、ちっとも休まりはしない。なんでこの姿勢が「休め」なのか分からない。これの名前を付けた奴はネーミングセンスが壊死しているに違いない。
団長は立ち上がり後ろで手を組み窓の外に目をやった。なんかわざとらしい動作だ。
「お前には少々厄介な仕事を頼みたい」
はあ、厄介じゃない仕事があった試しがございませんが?
あ、すみません。前言撤回します。
睨まれた。こわっ
「フクハラ様を知っているな」
「はい、存じております」
「クロードの事件をフクハラ様が捜査することになった」
「はあ……」
それでなぜ俺が? フクハラ様が捜査するなら俺の手を離れるだけのことだと思うのだが。
「フクハラ様が異世界から来たということも知っているだろう。異世界でケイサツという騎士団の中の治安維持活動を抜き出したような組織で仕事をしている方らしい」
それは知っている。騎士団の中の俺と似たような立場ってことか。閑職だったのかな?
「それがだ。どうやらフクハラ様がいた世界では、この世界よりずっと文明が進んでいて、事件の捜査についてもジンケンという、人が生まれながらに持っている権利を尊重した制度になっているらしい。我々には俄かには理解しがたい思想ではあるが、領主様がその思想にいたく感動したらしく、クロードの事件で、フクハラ様が異世界の事件捜査を実践してくださることとなった」
なるほど。で、なんで俺が呼び出されたわけ?
「ところが、フクハラ様は異世界人でオーメ領で事件を捜査する権限がない。そこで、権限を持っている騎士をご自身の指揮下に入れたいとのご要望があった」
ちょっと待て。いやな予感がしてきた。退室していいですか?
「お前に退室の自由はない」
ですよねー
「そこでお前だ」
どこで俺なんですかーっ?!
「お前にフクハラ様の補佐を命ずる。拒否権は認めない」
元々俺に拒否権なんてありましたっけ?
「お前は、フクハラ様の指揮下に入り、その捜査活動を補佐する。そして、異世界で行われている事件捜査がどんなものかをよく見て来い。そして、その手法が我々にとって有用なものであったらお前が責任者となって導入を図るのだ」
「はっ!」
なんかとんでもない役回りを押し付けられた気がする。
「領主様直々のご下命だ。お前にとってはチャンスだと思え」
「ありがたき光栄!」
有難迷惑とは言えないよなあ。
「ただひとつ問題がある……」
それを先に言いましょうよ、団長。
「フクハラ様には、領主様のご息女ローレンシア様が随伴なさる。くれぐれも失礼のないように。お前の対応に騎士団全員の命と職がかかっている。万一、お嬢様がケガでもされるようなことがあったら、お前の命だけでは償いきれん」
俺、大ピンチ……
「話は以上だ。下がってよい」
「はっ!」
一応敬礼をして部屋を下がる。
敬礼もしたくない気持ちだったが、礼式としてやらないわけにもいかない。くそっ




