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【IOF_57.log】協力の申し出

 ローレル様もお連れして急ぎ領主邸まで戻り、荷物を車に積み込んで執事のセバスチャンにヘキチ閣下への面会を求めました。

 最近は、先触れなしで面会を求めても待たされることがなくなりました。もちろん、閣下の手が空いていればという条件付きです。

 私たちが待つ応接室に閣下がお見えになりました。ローレル様も当然といった顔で同席しています。閣下も特になにもおっしゃらないので同席で問題なさそうです。

「フクハラ様、今日はどうなさった?」

 特段かしこまった挨拶もなく、すぐに本題に入れるのはありがたいです。貴族のご挨拶は、どうにも肩が凝ってしまいます。

 私は、今日、市であった捕り物のこと、その後の身柄拘束のこと、取り調べが牢屋内で拷問を前提としていると説明を受けたことをお話ししました。

「なるほど。まあ、よくある話だな」

 やっぱり普通に行われていることでした。

 さて、どうやって改めてもらえるように持って行きましょう。こういう交渉事は苦手です。

「今回、私とここの可愛は、市での捕り物から拝見していました。そして、犯人とされる男性が騎士団に連行されるまで付き添い、男性が牢屋に入れられるまでの一部始終を見聞きしています」


 一呼吸おいて続けます。

「私が日本国で警察という騎士団の治安維持任務に特化したような組織に属していることはご存じかと思います。当然、事件の捜査にも従事しています。その経験を通じて、今回の、と申しますかこの世界で行われている犯罪捜査、そして処罰の決め方といったことについて、僭越ながらいくつか問題点をご指摘差し上げたいと存じます。もちろん、閣下がご不要ということであれば、あえてお耳に入れるつもりはございません。なにしろ、これまでのやり方を全否定するようなお話になってしまいますので……」

 現代日本で行われている制度の押し付けにならないよう配慮した言い方で閣下に具申しました。誰でもそれまで当たり前と思ってやってきたことを「それは間違いです。どーん!」と指摘、それもほぼ無関係の異世界人に言われたら反発するのが普通です。

「何か耳の痛い話のようだな。フクハラ様の世界の制度というものに興味がある。不敬には問わん。すべて申してくれ」

 貴族の「不敬」は万能なので、不敬に問わないという保証は安心材料です。

「それでは」

 私は居住まいを正して閣下と向き直ります。

 そして、今回の事件を通じて感じた問題点を列挙します。


 目撃者の証言のみで男性の身柄を拘束していること。

 目撃者の証言を吟味していないこと。

 身柄拘束後、何の手続きもなしに牢屋での身柄拘束を続けていること。

 取り調べが牢屋内で行われること。

 取り調べでは自白を得ることが優先され拷問が行われていること。

 自白があれば有罪と断ぜられること。

 身柄を拘束する以外の捜査手続きがないこと。

 どのような罪がどれくらいの罰になるのか事前に決められていないこと。

 犯人の処罰は領主が行っていること。

 捜査機関である騎士団は領主の直接指揮下にあり捜査する者と裁く者が同じであること。


「うむ、色々と指摘されたが、これらはすべて当然のことではないのか?」

 今の制度が当たり前の世界で生きていれば、この感覚は驚くに値しません。私でもそう思うはずです。

 この感覚から現代の人権感覚を人類が獲得するために、たくさんの血が流され、冤罪で苦しむ人々の無念があり、多くの犠牲を払ってきました。

 私は、その過程で流される血や、冤罪での苦しみをできるだけ少なくしたい。

 その上で、この国の刑事司法をもっといい方向に導きたい。そう思います。だから、あえて耳の痛い問題提起をしました。


 こうして問題点を挙げてみると、思いのほか数が多くて自分でも頭が痛くなってきました。これだけのことをいっぺんに変えるのは混乱が大きくなり過ぎます。

 一旦は問題点を指摘しておいて、手を付けやすいところ、それか人権を保障するために重要なところから始めるのがいいでしょう。

 私は、それぞれの問題点で何がよくなくて、改善するにはどうしたらいいのかを順を追って説明しました。かなり長い説明になってしまったので、聞く方も大変だったと思います。ローレルさんがすごく真剣に聞いていたのが印象的でした。

「いや、ニッポンコクというのはすさまじいな。そこまで人に配慮しているのか。我々が野蛮人のように思えてくる」

 閣下が大きなため息をつきます。

「そんなことはありません。これは歴史の通過点です。わたくしたちの国でもこの国と同じようなことを行っていた時代がありました。しかし、『これじゃダメだ』と気づいた人たちが少しずつ制度を変えていった結果が現代の日本国です。今から改革に乗り出せば、オヤシーマ王国が人権に配慮した刑事司法を確立した最初の国として歴史に名を刻みますし、その原動力がここオーメ領となれば、閣下の名も同様に人々の記憶に刻まれることでしょう」

「そ、そうだな……うむ」

 閣下の頬が上気しています。琴線に触れることができたようです。


 これなら次の段階、提案に入っても聞いてもらえそうです。

「騎士団が国を守り、人々を安心させていることは理解しています。ですが、目撃だけで罪を決めてしまうのは危ういです。人は時に見間違えるものです。そして、時間とともに記憶は薄れ、変わっていきもします。そのように脆弱な証拠だけを拠り所として、本当に無実の人を処罰してしまったら……それは騎士団の威信にも傷がつきます。だからこそ、証言を裏付ける手段を探してみませんか? たとえば現場に残った痕跡です。そこに犯人がいた痕跡を見つけることができれば、裁きはより揺るぎないものになるはずです」

 閣下が大きく頷くのを確認して、次の提案に入ります。

「そして、わたくしどもなら現場に残った痕跡を見つけ出し、犯人とのつながりを明らかにすることができます。いかがですか。この事件、わたくしどもに任せていただけませんか?」

 多少大げさなくらい自信たっぷりに言い切りました。内心ドキドキしていても、こういうときははったりが重要です。頑張るのよ私。

「私の出番っすね」

 隣の可愛さんが私の意図を理解してくれたようです。私は無言で小さく頷きます。


「分かった。任せよう」

 少しの間、手元に目を落として考えていた閣下がおもむろに顔を上げて力強く返事をくださいました。

「ありがとうございます。わたくしどもには、この国での捜査活動に権限がありません。ですから、この事件の捜査に限って、騎士の方を何名かを一時的にわたくしの指揮下に置きたく存じます。そのお許しをいただけますでしょうか」

「承った。ローレル、騎士団長に通達してくれ。人数はフクハラ様の指示に従い、人選は団長に任せると。それと、この件はお前にとってもいい機会だ。迷惑にならない限りフクハラ様にへばりついて細大漏らさず自分のものとせよ。マーガレットは、ローレルの絶対安全を確保せよ。そしてお前も学べ」

「かしこまりましたわ。お父様」

「仰せのままに」


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