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【IOF_51.log】異世界警察署誕生

 お疲れさまです。

 警視庁総務部文書課文書管理係主任警部補山野辰彦です。

 勤務中異常なし。


 先ほどから電話が鳴りやみません。

「この異世界警察署ってなんですか?」

「新しい警察署ができたとは聞いていません」

 今朝、私が出勤したときは文書管理システムに異常はありませんでした。

 ところが、お昼前になって急に電話での問い合わせが殺到し始めたのです。

 しかも、まったく心当たりのない内容で。


 新しい警察署なんてできていませんし、異世界警察署なんていうのも初耳です。新しい警察署ができたり、警察署名が変更になったら必ず通達が出ますし、そもそも組織に関することは総務部の主管なので私たちが一番早く情報をキャッチします。

 当然、文書管理システムに警察署を追加したようなこともありません。

 ただ、思い当たることがないわけではありません。

 2週間くらい前、九方面の奥多摩警察署で当番員が集団で行方不明になるという事件がありました。

 その事件があってから、今でも奥多摩方面で山狩りが続いています。しかし、行方不明者の発見はおろか、その証拠となるような物の発見や目撃証言も一切得られていません。

 ここまで何も見つからないということは異世界転移ではないかという噂も聞こえてきています。そういうテーマを扱った創作物があるということは承知しています。ですが、それはあくまでも創作であって、現実に異世界転移があるとは信じられません。


 信じてはいませんが、目の前のモニターに「異世界警察署」という文字列が並んでいるのを見ると、ひょっとして、という思いが頭をよぎります。

「この異世界警察署ってやつを設定したの誰だ?」

 管理官が苛立っています。そんなことをいたずらでやる人はいませんよ。

 イライラしたままの管理官が課長室に入ってすぐに出てきました。

「異世界警察署を削除しろ」

 まあ、そうなりますよね。


 係長に自分がやることを伝えて文書管理システムの管理画面で異世界警察署を削除しようとしました……できませんでした。

 警察署名を選択して「削除」のボタンをクリックしようとしたのですが、ボタンがグレーアウトしてクリックできません。管理画面で削除できないはずがないのですが……

 その旨を係長に復命すると「そんなわけないだろう」と言って、自分の資格でログインして同じように試していました。結果は、同じだったようです。そんなわけあるんです。

 その結果を管理官に報告した係長が怒鳴られています。

「気合が足りないんじゃないのか?!」

 気合でどうにかなるものではありません。

 警察官の悪い癖で、なんでも気合とか覇気でどうにかしようとするところがあります。無茶言わないでください。


 組織構成は企画課の主管です。同じ部内なので横のつながりで係長とは話しやすい関係ができています。企画課の係長に電話で聞いてみたところ、異世界警察署というのはまったく承知していないことらしく、企画課でも総監秘書室を巻き込んだ大騒ぎになっているそうです。

 大騒ぎが絶賛継続中の昼過ぎ、企画課から一本の電話が入りました。

「異世界警察署から報告が一件到達した」

 存在しない警察署からどうやって報告が到達するっていうんですか?

 文書管理システムの管理者権限で企画課に届いた文書を確認しました。


 到達日時:令和6年4月26日午後1時30分

 発信者:異世界警察署警務課長代理

 件名:いわゆる異世界と思われる場所への集団転移現象の発生について

 添付ファイル:いわゆる異世界と思われる場所への集団転移現象の発生について.docx


 本当に来ています。

 しかも、噂を裏付けるように文書の件名が異世界転移の発生となっています。

 えらいこっちゃ。

 おっと、失礼しました。言葉が乱れました。

 私は、添付ファイルを恐る恐る開くことにしました。ウィルスとか大丈夫でしょうか。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

 ちょっと意味が分からない。ちょっとどころか突っ込みどころが多すぎて突っ込む気にもなりません。

 これを送ってきた警務課長代理さんの精神状態が心配です。大丈夫ですか?

 それよりも驚いたのが添付されていた写真です。

 別添写真1は、転移したとされる署員の集合写真に私服の女性が映り込んでいます。署員は当番員の腕章を着けていますが、女性は着けていません。そして、その女性は少し透けていて背景が見えている感じがします。あとで分かったことですが、この女性は自宅の浴室で溺死していたもので、発見時はひどい腐乱状態だったとのこと。そして、この写真を見せた遺族が本人に間違いないと証言したそうです。

 写真2は、同じく署員とともに緑色の髪にローマ風の服を着た女性が映っているものでした。これがコスプレでないとしたら、見たこともない髪の色です。写真の説明には「自称神」と書いてあります。ちょっと信じられませんが、嘘をついてウケを狙う理由も考えられません。訳が分からなくなってきました。

 写真3は、中世ヨーロッパのような風景です。中世ヨーロッパ風のお屋敷の前に警視庁の四輪駆動車があって、そこにいかにも中世ヨーロッパ貴族ですといった身なりの男女が、福原警部と並んで写真に収まっています。どこかのテーマパークにでも行けば撮影できそうな写真のように思えます。


 写真の注釈に、撮影にはワームカードを使用しているので編集は一切ないと記されています。「加工だろう」と思われることを想定してのことでしょう。なかなか周到です。

 これを上に上げる人は気の毒です。警視総監宛てに送られてきているから企画課で処理するんでしょう。まったくもってご愁傷様です。

 報告書が届いたこともさることながら、文書管理システムで異世界警察署の存在が全庁的に知れ渡ってしまったことの方が重大事です。

 これ、絶対報道にリークする人がいますよ。そうしたらどうなるかはお分かりですよね。異世界ブーム到来です。


 あと、企画課としては、異世界警察署をどの方面に属させるかを決めないといけません。警察署は、一から十まである方面本部のどれかに属します。さて、異世界はどの方面ですか? 一番妥当なのは一方面にしてしまうことです。第一方面本部長は、他の本部長とは別格で、キャリアの警視長が就任して警務部参事官も兼務します。そんな特別な地位なので、異世界警察署も一方面でいいんじゃないでしょうか。

 あと、署長はどうするんですかね。

 そもそも、東京都でも日本の領土でもない異世界にある警察署が警視庁を冠していていのかという疑問も生まれます。管轄区域があるわけでもありませんし。

 問題が山積みです。



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