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【IOF_50.log】映えと善処

「大正解! 私が呼び寄せたわけじゃなくて、おじい様にお願いして日本から組織運営に長けた人の魂を融通してもらったのよ。実務面はイザナミちゃんがやってくれたんだけど」


 やっぱりそうでした。「自警」が特別な紋様だと聞いたときから薄々感じてはいました。

 ところで、転生にはゲートを開いたりする手続きが必要にならないのでしょうか。

「転生にゲートは不要よ。ゲートは、イレギュラーな現象だし。天界のシステムを使えばわざわざゲートを開く必要もないわ。そのやり取りは冥魂府の所掌事務になるね」

 なるほど。なんとなく納得できました。転生は魂だけのやり取りで天界のシステムで対応可能。転移は、質量を伴うから天界のシステムでは対応できず、ゲートというイレギュラーな現象が介在する、と。

 質量の有無が現世と天界を隔てる要素だとすると、天現界壁は、一種の物理障壁みたいなもので、現世からどんな物理攻撃をぶつけても破ることはできないというわけですか。でも、電波のような質量を伴わないエネルギーなら破れる可能性がありますね。だから古代の人類は電波で壁を破ろうとしていたと考えれば筋が通ります。そして、今回は神符で操作された電波が天現界壁を破ったケースだったのかもしれません。

 後で分かることですが、この推論は間違いでした。


「テンテルが転生しときの笑い話があるんだけど聞きたい?」

 あ、これは聞きたいかじゃなくて話したくてウズウズしているやつですね。

「ぜひ聞きたいです」

「そっかー、どうしてもっていうなら仕方ないなあ」

 面倒な神様ですね。

「私が魂の融通をお願いしたとき、ちょうど日本で川路利良が病死したらしくて、イザナミちゃんがその魂をダークエルフにして下してくれたわけ。そのときにダークエルフが言った言葉が『人を(いま)しむる者は自らを警しむ』だったんだけど、これが聖句として残って『自警』は聖なる紋様になりましたとさ」

 ここまでは、衝撃的ではあるものの笑い話の要素は少ないです。でも、なんで川路大警視が転生して「テンテル」という名前になったんでしょう?


 川路大警視について説明が必要ですか?

 警察官なら誰でもご存知なほどメジャーな偉人なのであえて説明しなくてもいいですよね。

 ダメ?

 そうですか。人口比率からいっても警察官の方が圧倒的に少ないですから、やはり説明が必要ですね。

 川路大警視は、明治時代に日本の警察制度を作った偉い人です。

 著書に「警察主眼(しゅげん)」があって、警察官の間で長らく読まれています。もちろん、私も読みました。

 実績はすごいものがあったのですが、実は46歳の若さで亡くなっています。欧州の警察事情を視察中、病に倒れて急遽帰国しますが、帰国後間もなく亡くなりました。

 神が転生候補として挙げるのも納得です。


 余談が過ぎました。

「そこは広報課が広報戦略として決めたことね」

 広報課がそんなところまで介入してくるんですか!

「まあ分かると思うけど、テンテルは天照大神から取っていますの。もっとも川路君は、その名前にかなり抵抗したらしいけど、広報課が『ダークエルフ姿なのに川路は硬すぎます。神話演出としてはテンテルの方が響きがいいんです!』と譲らなかったのよ。川路君は『私は川路でいい。名前より何を成すかだ』と抵抗したらしいよ。そりゃそうよね。それに対して広報課は『いやいや、ダークエルフ姿で川路は()えません! 神話にするならテンテルくらいカッコよくないと!』って畳みかけたとか」

 理由のひとつが「映え」でした。天界でも映えが重視されているんですね。

「で、結局管理職の仲裁が入ったわけなんだけど、管理職もいい加減よね。なんて言ったと思う?」

 管理職が映えを押すことはないと思います。

「こう言ったのよ。『まぁ、広報の言うとおりにしとけ。どうせ民間には響きでしか伝わらん』て。バカじゃねえの? おっと、ごめんあそばせ。下品でしたわ。この裁定で決着をみたという流れね」

 管理職まで映えに浸食されてる天界って……

「笑い話はここで終わらないのよ」

 まだ乾いた笑いを呼び起こしますか。

「このあと、こんな会話が続いたらしいよ」


「……分かった、テンテルを名乗ろう。だが条件がある。次の異動では川路で通すと約束しろ」


「川路様、あなたも組織のトップを張っておられたのだからお分かりでしょう。人事の確約はできません。我々も善処はいたしますが……」


「うわっ、出たな、妖怪ゼンショ!」

 正村さんが大仰な演技で驚いて見せます。

「このときの広報官は、めちゃくちゃ笑顔だったらしいわ。役人ってやつは……」

 リリヤさんが眉間(みけん)を押さえます。

 笑うに笑えない笑い話でした。

「これがトラウマになった川路君、もといテンテルは後世にこんな逸話を残してるから、神宮に行ったときにでも聞いてみるといいよ」


『テンテルは秩序と自警の神であったが、ただ一つ善処という言葉だけは嫌った。善処とは、処することを先送りするもの。真に自らを警しむる者は決して善処せぬ』


 よほど「善処します」って言われたのがトラウマになったんですね。

「役所の逃げ口上が神話になってるとか笑えるっす!」

 可愛さんの突っ込みには同意です。

「善処禁止って、むしろ一番役所改革に効く戒律かもしれません……」

 小路さん、ド正論で返す言葉もありません。

「まぁ本人はただ拗ねてただけなんで、そこまで重くしなくてもよかったんだけど、勝手に伝承になっちゃったのよ」

 伝承なんてそんなものなのかもしれないと思えてきました。

「神宮の祝詞にこんな一節があるから、一度礼拝に参加するのをオススメするわ」


『この件に関しましては、我ら誠心誠意、その遂行に向けて真摯の姿勢を堅持し、ただしその処置の及ぶところは、時の移ろいと諸般の情勢とに照らし合わせ、重々の審議と熟慮とを経た後に、然るべき時機を得て、速やかに執り行うことをここに厳かに誓い奉る』


「ああ、善処だ……」

 全員が項垂れました。


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