【IOF_48.log】冥魂府通行証
「お嬢ちゃん、日本に帰りたくはないか?」
「帰りたくはないですね。一時滞在ならいいですけど、今の私はオヤシーマ王国が居場所なので」
お嬢ちゃんが胸を張って宣言しおった。
そのお胸、サイズもちょうどいいわい。
「よし、分かった。それでは冥魂府の通行証を貸与して進ぜよう」
「通行証ですか?」
「めったに貸与せんのじゃぞ。レアものじゃ。これを持っていれば、指定された世界と冥魂府の間を自由に行き来できるのじゃ。お嬢ちゃんには、日本とオヤシーマの資格を付けてやろう。他に行きたい世界はあるかの?」
「他の世界は存在自体知らないから資格はいりません」
「欲がないのお。その清らかな心に感じ入った。おまけとしてお嬢ちゃんの魂を安定させるコードも通行証のICチップに記録してやろう。お前さんの魂は、強制的に肉体から分離させられて不安定な状態じゃ。なにかの拍子で消失する可能性がある。だから、魂を安定させてやろう。魂が安定すれば浄化されようがお祓いされようが、まったく動じることはない。お嬢ちゃんが幽霊としての生涯を終えたいと思うときまで魂は保護される。天界公認幽霊じゃぞ。誇れ」
本人には言わんが、行ける世界のポリシーには「allow all」を付けといたぞ。何かの役に立つかもしれんからの。これでほぼ高位神じゃ。管理部にばれたら「お主らの開けたバグじゃろ?」ととぼけておくとしよう。それでもダメだったら「そういうことができる仕様にしている方が悪い」と逆切れじゃな。そんな高い資格があっても、あちこちの世界を飛び回って面白いのは最初のうちだけじゃ。そのうち気に入った世界にしか行かなくなるもんじゃ。儂もそうじゃった。
「ありがとうございます! これってリリヤさんのお友達特典ですよね?」
ぐ……鋭いのお、この子は。
「ま、まあ、そういう面もないこともないが……とにかく、これからはいつでも儂のところに遊びに来てよい。茶と茶菓子くらいは出そう。たまにはリリヤも連れて来い。よいな」
その半目をやめんか。孫に会いたいからというわけではない……
儂は金庫の中から未使用の冥魂府通行証を出して、お嬢ちゃんのコードをICチップに登録した。おまけの魂安定化も忘れとらんぞ。
ほれ、この通行証があれば冥魂府と日本とオヤシーマは自由に動ける。
「えっと、私は幽霊で質量がないです。どうやってこれを持っていれば?」
なんじゃ、そんな基礎も知らんのか。
「確かに幽霊は質量を持っとらん。しかし、仮想質量というものを属性として持っておる。これは、死ぬ直前の体重が反映される。お嬢ちゃん、死んだときの体重は何キロじゃった?」
「いくら冥魂府の偉い人だからって、女子に体重を聞くのはマナー違反だと思います!」
あ、これはマジで怒ってるやつじゃな。謝ったほうがよさそうじゃ。
「む、申し訳ない。何キロかは知らんが、死ぬ直前の体重がお嬢ちゃんの仮想質量じゃ。その質量の範囲でなら質量のある物を魂とともに移動させることができる。持つことはできんが、それらしい動作を伴わせれば、持っているように見せることもできる」
「そんな便利機能があったんですね。すごい! ところで、今更な質問していいですか?」
「よいぞ」
「おじいさんが所属する冥魂府とリリヤさんの空間省って同じ天界の役所なんですよね? 府と省は何か違いがあるんですか?」
「ほほー、お嬢さん、役所に興味があるのかの? それなら儂の秘書にならんか? 役所の仕事ができるぞ」
「いえ、役所に興味はありません。私は警察官になりたかったんです」
警察も役所だと思うんじゃが……
「そうか、役所には興味なしか。仕方ないの。天界には選挙で選ばれる最高責任者『内閣総理大神』という神がおる。そして、天界の行政を行うのが『省』じゃ。『府』は内閣総理大神直轄の組織でどこの省にも属さん。人の魂の扱いは少々特殊でな。あちこちの省にまたがることがあるんじゃ。だから内閣総理大神の直轄組織として冥魂府を作ったというわけじゃ。儂は、冥魂府に籍を置きながら内閣官房も兼ねておるがの」
「うわあ、天界もなにかと面倒そうですね」
「権力を持った神が暴走した歴史から学んだ結果じゃよ。権力を集中させずにうまいことバランスを取ろうとしているんじゃ。神とて精神体のようなものじゃ。精神があれば欲も生まれる。その辺は人間となんも変わらんよ。お、そろそろ戻らなくてよいのか? 仲間が帰りを待っておるじゃろ」
「あ、そうですね。心配しているかも。この通行証は、どうやって使うんですか? 冥魂府と日本とオヤシーマ王国を行ったり来たりできるのは分かったんですけど、通行証を使ったとき、私はどこに飛ばされるんですか?」
「これはじゃな、お嬢ちゃんが行きたいと頭に思い浮かべたところに飛べる仕様になっとる。ただし、それは実際に行ったことがある場所に限られる。だから、日本に行きたいと思ったのに行ったことがない地球の裏側、ブラジルとかいったかの、そんなところに飛ばされるようなことはない」
「へー、便利なんですね。でも、冥魂府で私が知ってる場所は、この部屋だけですよ? 次、冥魂府に来るときも、この部屋でいいんですか?」
「いや、それはセキュリティを確保する上で問題がある。これでも儂は政府高官じゃからな。それに、毎度天現界壁をぶち破られでもしたら修繕費がかさんで会計監査と決算で突き上げを食らってたまらん。よし、お嬢ちゃんが飛んでくるのに適当な場所を案内してやろう」
秘書課のお姉さんを呼んでお茶してるところに飛んでこられたらまずいからの。リリヤに伝わったらどやされるわい。
「ふーん……」
おい、そのジト目はやめんか。疚しいところなぞ少ししかないぞ。
聡いのかバカなのか分からん子じゃな。
儂は、お嬢ちゃんを聴聞室の前室に連れて行った。
「今度から冥魂府に来るときはこの部屋に飛んでくるといい。ここは聴聞室の前室で、聴聞を受ける魂の待合室みたいなものじゃ。たまーに封印行きにするか救済するか際どい魂から直接話を聞くことがあっての。そのための部屋じゃ。だから、幽霊のお前さんがおっても咎められん」
「分かりました! ここを使わせてもらいますね。今日は色々と教えてくれてありがとうございます。今度はリリヤさんを連れてきます。じゃあオヤシーマ王国に帰ります!」
うむ。息災でな。
幽霊が手を振りながら消えていきおった。
陽気な幽霊じゃ。儂の秘書に……




