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【IOF_45.log】神符

 これ以上は、ここで得られる情報がないと判断した私は、スマホのカメラでそれを撮影し、中継所を後にしました。

 集落まで下り、神の塔を見てきたことを族長に報告しました。

 まず、神の塔に立ち入ることができたことに驚かれました。

 そして、室内の状況として「神符専用」と印字されたスロットの写真をスマホの画面に映して族長に示しまた。

「これは『かみふせんよう』と読みます。わたくしどもの国の公用語です」

 写真を見て私の説明を聞いた族長は、はっと息を呑み、目を見開きました。

 私、またなにかやってしまったようです。

「……その紋様を、読みうるか?」

 私が頷くと、族長の表情に驚愕と同時に深い安堵が広がっていくのが感じられます。


「神符……これぞ、我らが一族にのみ口伝され、代々の族長ひとりが守り継ぎし秘なり。その名を正しく読み、声に出だす者こそ、まことの継承者と伝わる。我は、ただ意味も知らずに守りきたりしのみ。されど、そなたは読みたり。ならば、この神符は、もはや我が手を離れ、そなたに託すほかあるまい」

「神の使徒よ。これを受け取り、どうか正しき道にお導きくだされ」

 族長は胸元から布に包まれた板を取り出し、私の目の前に両手で差し出しました。

「基板ですよね」

「基板だね」

 私と須田主任が顔を見合わせます。

「ぱっと見、ICやLSIも乗っています。結構現代の技術っぽいです」

 須田主任が基板をひっくり返しながら吟味しています。

「なんか文字がプリントされてるね」

 基板にプリントされている文字がちらっと眼に入りました。


「PHASE-XOR/2m」


 なんでしょう、これ?


 PHASEは位相?

 XORは……排他的論理和?

 2mは長さでしょうね。


 この世界の単位系が尺貫法に近いことを考えると、「2m」という表記は明らかに異質です。神代の技術なのか現代技術なのか分かりませんね。

 この神符を中継所の神符専用スロットに挿せば、なにかしらのことが起こるのは間違いなさそうです。ただ、そのためには軽油を中継所まで運び上げて発電機を稼働させる必要があります。みごとにフラグ回収ですね。

 私は、近々また神の塔を訪ねることを族長とウマコさんに伝えて下山することにしました。神符は、一旦お返ししようとしたのですが固辞されてしまいました。


「あの中継所、動かせると思いますか?」

 帰りの道中、運転席の須田主任に問いかけます。

「あの中継所がいつから放置されていたのか分からないからなあ。機械ものって使わないでおくとどんどん劣化するっているじゃないですか。正直難しいんじゃないかと思うよ」

 やっぱりそうですよね。

「あー、大丈夫。ちゃんと動くよ」

 リリヤさんの念話が飛んできました。

 また、そうやって無責任なことを……

「無責任とは失礼しちゃうわね。あの中継所、大事っぽいんでしょ? だから命じておいたから。ジュリちゃんの言うことをきくようにって」

 え、そんなことできるんですか?

「できるといえばできるかな。いや、ほら、私一応管理者なわけでしょ。ジュリちゃんが使ってるパソコンだって管理者権限を持ってたらなんでもできるじゃん? ほぼ神なわけよ。で、私はこの世界の管理者権限を持ってるから、ほぼ神といっても過言じゃない!」

 いや、過言もなにもリアル神様ですよね?

「うん、まあそういうことだから、やろうと思えばなんでもできるのよ。人の生き死に以外のことだったらね」

 だったら、署の発電機もさらっと動かしてくれてもよかったんじゃないですか。

「んー、権限があることと実際にその権限を発動することって別なのよ。天界じゃ。神は、なんでもできる権限を持ってるんだけど、表向きは人の世界に干渉しないことになっていますの」

 つまり必要最低限のことしかやらないと……

「そういう言い方をしたら身もふたもないじゃない」

 リリヤさんがいつになくしんみりと語ります。


「空間省としては、管理している世界がコントロール下にありさえすればそれでいい。人間が何をしようと管理に影響がない限り放置する。そういうスタンスなのよ。管理に影響を及ぼす可能性があるのは時空を操作するような行為。空間省でコントロールしている時空操作ならいいんだけど、人間が時空を操作するのは制御不能になる危険があるから抑制する方向に干渉することになるわけ」


 事なかれ主義ってことね。


「なので、空間省管理下の世界では、人間による異世界人召喚なんてことは起こり得ない」


 異世界召喚はなかった!


「だけどさ。私は、自分の管理下にある世界の人間が不幸になるのは嫌なのよ。だから、不幸に見舞われそうな人をみつけると、ほんの少しだけその人の人生がいい方に向くように手を差し伸べることがございますの」

 なんか神様みたいなことを言い出しました。

「神だからね」

 そうでした。

「まあ、そんなことしていると、下界には干渉しないっていう空間省の方針に逆らってることになるわけで、それが監査でばれるとペナルティがねえ。あ、でも、中継所の件は、山頂に何度も足を運ばせるのは忍びないと思って特別にそこの神に命じといたから。八百万の神というシステムを作ったのは、こういうときのためよ。一応『自分ではやってませーん』とシラを切るため」


 八百万の神は天界の規制逃れだった!


「八百万の神は、神といってるけど実際は精霊のようなもの。普段は、ただそこに存在しているだけで何もしないわ。私の指示があったときだけ能力を発揮できるように作ったもんね。私とイザナミちゃんが飲み会の席で盛り上がって作ったシステムなのよ。だから、今のところ日本とオヤシーマ王国にだけ実装されている先駆的取り組み!」


 きっかけが飲み会だった!


 天界というか空間省が思ったより割り切ったお役所仕事だったことと、リリヤさんがそれに従わないレジスタンス側だったことに驚きました。家柄に胡坐をかいてのんべんだらりんとしているダメ神ではなかったんですね。見方を改めます。

「ジュリちゃんの中での私の評価がどうなっていたのか小一時間ほどお伺いしたいわね」

 あ、私忙しいんで。

「ちっ」

 そういうところです。


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