【IOF_42.log】地図端末復活
ウマコさんを山に送ろうとして腰を上げたと当時にリモコン室から奥山係長の叫び声が事務所に轟きました。木村係長もそうですが、どうして警察官は無駄に声が大きいのでしょう。
ウマコさんとの話を一旦打ち切って、リモコン室に飛び込みます。
「地図が更新されてます! しかも、オヤシーマ王国の地図に! 電源が復活したので地図システムの端末を起動してみたんです。そうしたら東京の地図じゃなくオヤシーマ王国の地図になっていて驚いてしまいました。署のアイコンもあります。ここです」
奥山係長がモニターを指さします。
えっと、どれどれ……
「異世界警察署……なんですかこれは? 自署を中心に表示したらこれなんですよね? 奥多摩警察署でなくなっています」
絶句とはこのことです。
いえ、東京湾岸警察署というドラマと同じ名前の警察署があるくらいですから、異世界にある警察署が異世界警察署であってはいけない理由もないわけです。気になるのは、なぜ署の名前が勝手に変わってしまったのか。
今回、私たちは署の庁舎ごと転移しました。しかし、転移したとき署の1階以外にも人はいました。署の上には寮だってあります。寮には必ず寮直という人の出入りを管理したり電話を受けたりする当番がいます。そういった人たちは転移していません。
そこから導き出せる推測としては、奥多摩警察署は、今も元の場所にあって通常に業務を行っている。私たちは庁舎、それと塀で囲まれた敷地内の物のコピーとともに転移したのではないかということです。
この仮説が正しいとしたら、奥多摩警察署が二つ存在していることになります。それは、世界の理として許容できないこと。だから、転移してきた方の名前を変える必要があったのではないでしょうか。
そして、名前の重複が許されないのだとすると、私たちの存在は、まだ日本がある世界との繋がりが完全に途切れていないことも意味するのではないかと考えられます。完全に繋がりが切れているなら、わざわざ名前を変える必要はないはずです。
だから、異世界から日本に繋がれる可能性、そして帰還できる可能性、さらには人や物が行き来できる可能性すら考えられるのです! この地図は、それを教えてくれる重要な証拠になりえます。
私は地図端末のモニターに目を戻します。
「署の場所から少しはずれたところに街道がります。それをずーっと東に向かって進むとオーメ領という表示があります。ひとつ気になることは、署のアイコンから西に直線距離で15キロくらい行ったところにある湖です。この形って、奥多摩湖じゃないですか?」
「本当ですね。この山の谷に沿ってうねうねと曲がった感じなんかも奥多摩湖にそっくりです。ただ、名前が違います。こっちは『オゴーチ湖』になっています」
山奥係長が画面上の湖をとんとんとつつきます。
「山奥ではなく奥山です」
「それ、ダムの名前ですよ。小河内ダム」
なんですかこれは? 地形はほとんど元の場所と同じって……
「そうすると、聖なる紋様がある神の塔っていうのも御岳山の通信所かもしれないね」
私は現物を見たことがないんですけど、確かにありますね。通信所が。
さすが公安係、目の付け所が鋭(シャ〇プ)いです。
通信所だったら「塔」に見えなくもありませんし、重要防護対象だから周りは鉄柵でがっちり囲われています。誰も入れないのも納得です。
重要防護対象ということは、そこに入るための鍵も警備課にあったりしないでしょうか。
「あったりするんだよねえ」
須田主任がニヤリと笑います。
「それでは、ウマコさんの送りは私と須田主任で行きます。須田主任は通信所の鍵と部隊活動用のUWを用意してください。正村さんは、この前と同じように保護簿を作ってください。向こうで族長さんに署名をもらいます。幽霊さんは、不可視で来ますよね? リリヤさんはどうしますか? 神の塔というくらいなのでリリヤさんが何かやらかしている可能性を感じるんですが……」
「神の塔ねえ……ずいぶん昔の遺跡よ。神代っていわれてる頃の人間がなんかやってたのは知ってるけど、あれが何の目的で作られたとかは存じ上げませんわ。だから『神の塔』じゃなくて『神になりたかった人間が頑張った跡ぅ』なんじゃない? 略せば『神のとぅ』だから中らずといえども遠からず的な? だからわたくしが行くまでもないでしょ。まあ、異世界の転移ゲートが開くトリガーが電波らしいから、神の塔が通信所っていうならそこから電波がずばーっと出て天界にどかーんと穴でも開けたら面白いことになるかもねー」
今回、リリヤさんは、まったくやる気がないことが分かりました。署長室のソファに寝そべって天界から持ち込んだ薄い本を読んでいます。小路さんの食いつきようがすごいです。そういうのが好きなのかしら?
おや、南畝主任の顔色が優れませんね。具合でも悪いのでしょうか? ここのところ大活躍でしたから、少し疲れが溜まっているのかもしれません。
神の塔のお話でしたね。あのリリヤさんのことです。何か知っていれば間違いなく教えてくれるはずなのに、無関心を決め込むということは、本当に知らないのでしょう。だらしない態度は別として、神としてのプライドは信頼しています。
「大丈夫よ。向こうでなんか面白そうなことになったら顔出しに行くから」
たぶん気にしています。ツンデレってやつを演出しているのだと思います。
「ではウマコさん、こちらに乗ってください」
「うむ、心得た」
ウマコさんを車の後部席に乗せてシートベルトを締めてあげます。
一瞬、拘束されたと思ったらしく、表情がこわばっていましたが、きちんと説明したら納得してくれました。
賊が出るらしいので、本当であれば大勢で向かいたかったところです。ですが、車で山道を登ることを考えると、あまり重量を増やしたくありません。
私と須田主任が二人とも拳銃を携行していくので賊が出ても威嚇射撃で撃退できるでしょう。それでもひるまなかったときは警職法7条の基準に従って相手に向けて撃つことも辞さない覚悟です。私が撃つのをためらうことで部下に危険が及ぶようなことがあってはなりません。撃つべきときは躊躇なく撃ちます。本当に人に向けて撃てるかどうかは……ちょっと怖いです……




