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【IOF_40.log】文明の光、再び

 全員で地下に降り発電機室に入ります。

 燃料タンクに、携行缶2個分の淡い黄色の液体が注がれます。

 可愛さんの指示通り、400ミリリットルのエンジンオイルを混ぜてかき回します。

 見慣れたはずの燃料が、ここでは宝石のように尊い輝きに見えます。

 エンジンのスタートボタンを押し込む。皆さんは、私にやらせようとしましたが、ここは一番の功労者である可愛さんにやってもらうべきです。可愛さん、お願いします。


「了解っす!」


 ――きゅるるるる……ぐっ、ぐっ……ぶおおおんっ!


 ディーゼルエンジンが息を吹き返しました。今頃、外の煙突からは黒煙が吐き出されていることでしょう。また辺境伯に異変で報告が行くかもしれません。ごめんなさい。

 始め、エンジンは低く不安定な唸りを上げていました。しかし、突然その音は一定のリズムを刻み始めます。

 眠っていた発電機が、ついに目を覚ましました!

 署員たちは思わず息を呑み、耳を澄ましています。

 それは、ただの機械音などではありません。

 この異世界に来て以来、ずっと閉ざされていた文明の鼓動が、もう一度ここに蘇った音に他なりません。


 次の瞬間、廊下の天井に取り付けられたLED照明にぱっ、と眩しい光が走り、署の中が一気に白く照らし出されたではありませんか!


 誰かが「……点いた」と呟きます。


「電気だーっ! 俺たちが電気を作ったんだ!」


 木村係長の雄叫びが発電機室に響き渡ります。ちょっとうるさいです。正確には発電機を再稼働させたのですが、そこはあえて触れないでおきましょう。

 その声を合図にしたかのように、歓声と拍手がどっと広がります。

 笑い声も、泣き声も混じっています。

 数日ぶりに戻ってきた人工の光の下で、みんなの顔が輝いて見えます。

 電気があるだけで、こんなにも世界は変わる。

 暗闇に押しつぶされそうになっていた心に、文明の光はまっすぐ差し込んでいきます。

 照明ひとつで、こんなにも安心できる。

 こんなにも力が湧いてくる。

 私は、灯りに照らされた署内を見回しながら、胸の奥がじんと熱くなるのを感じていました。

 これで通信が戻せる。

 これで日本と再びつながれる。

 かもしれない……


 この瞬間は、ただ明かりが点いたという以上の意味を持っています。

 それは、異世界にあっても諦めず、工夫し、知恵を集めれば、人はもう一度文明を築けるのだという、揺るぎない証です。

 モーターや発電機の原理が発見されてからまだ200年くらいしか経っていません。この異世界で産業革命を起こして現代のレベルに追いつくことだって可能なはずです。いえ、必ずそうします。だって、もっと豊かで便利な暮らしがしたいし、オヤシーマ王国の皆さんにも貢献したいです。

 あ、どなたか写真を撮ってくれていたでしょうか。これは間違いなく本部報告事案です。


「うんうん、よかったねえ。神様ルーブ加えといたからこの先も焼き付きはないよ」

 署長室でリリヤがそっと涙をぬぐった。


 発電が再開されたらボイラーも再稼働できるはずなのですが、ボイラーは消費電力が大きいため、継続的に発電できるようになるまで待とうということになりました。

 少し残念ですが、仕方ありません。


 さて、発電に成功したあとは、クソウズ池からメタンを署まで送ることに着手しました。

 必要な弁やバルブは、可愛さんの指示に従ってミノさんが製作してくれています。

 池から署までは鉄管を継いでゆきます。

 当初、鉄管はミノさんの鍛冶技術で繋ぐことを考えました。しかし、この国の鍛冶技術では、ガスの漏出を完全に抑えることはできず、どうしても途中でガスが漏れてしまうことが分かりました。

 そこで、木村係長がアーク溶接で鉄管を継いだところ、漏れは完全に止まり、安全にガスを通せるようになりました。

 2人の努力で、ガスを引くことに成功。


 署は、もともと都市ガスだったので、署にあるガス器具がメタンと相性がいいこともあって、大きな問題もなく給湯器が使えるようになりました。

 このとき、木村係長は、ミノさんにアーク溶接の技術を伝授したそうです。

 のちに「鉄継ぎ」という二つ名を歴史に残した偉大な溶接工誕生の瞬間でした。

 元々新しい技術や知識に触れることが大好きだったミノさんは、工房を引き払い、署の上にある寮に住み込み、署の脇に工房を移してしまいました。そして、原油採取と蒸留装置の面倒をみてくれることになったのです。

 寮費、いただいてもいいですよね?


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