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【IOF_35.log】ローレルの正体

 貨幣価値については、あとで考えましょう。セバスチャンさんを待たせてはいけません。

「すみません。ちょっと考え事をしてしまいました。鍛冶職人さんについて教えてください」

「かしこまりました。旦那様……閣下ですが、閣下ががおっしゃっていた職人は名を『ミノ』と申します。元々は王都でも名の通った腕のいい武器職人であったのですが、古文書に記載のある道具を再現することにはまってしまい、武器を作らなくなったという変わり者でございます」

「そうですか。そのミノさんの工房の場所も教えてください」

「ミノの工房は、街道をクソウズ池方向に進みまして、街から外れたあたりに建つ石造りの建物でございます」

「街道から見えますか?」

「はい、容易にみつけることができるかと」


「ありがとうございます。あと、閣下にお願いしていた書面がこちらです。この書面のこの部分に閣下のご署名をいただきたいのです」

 私は、鞄からクリアファイルにはさんだ保護簿3通を取り出しセバスチャンに差し出しました。

「かしこまりま……な、なんですか、この書面は?! 羊皮紙でもございません。この薄さ、白さ、滑らかさ。この世のものとは思えません。さらに、全面に聖なる紋様が描かれております。畏れ多くてわたくしが手にしてよいものではございません!」

 セバスチャンが青い顔をして後ずさります。

 あー、そうなっちゃいますよね。製紙技術がまだなんですね。

 紙をどうやって説明したらいいものか……

「これは『紙』です。神と同じ音ですけど、神とはまったくもって無関係の工業製品です。ですから、畏れ多くもなんともないのでどうぞお手に取ってください」

 ダジャレで押すことにしました。これで納得してもらえるといいんだけど……


「あと、この紙に描かれているのは、わたくしたちの母国語である日本語の文字です。これがたまたまミセラニアス教の聖なる紋様と似通っているらしいです。そして、ここに書かれているのは、ローレンシアお嬢様ほかお2人をわたくしたちが保護したという記録です。保護を解除してお3方を閣下に引き渡した際に確認の意味でご署名をいただくものです」

「聖なる紋様が文字として用いられている国があるとは……ニッポンコクとは紙も作れる神の国なのですかっ?! フクハラ様がテンテル様に生き写しなのも納得できようというものでございます。はっ、まさかテンテル様もニッポンコクから転移してこの地に降り立ったのでは……となれば、フクハラ様はテンテル様の再臨……ああ、こうしてはいられません。旦那様にご報告をしなければっ!」

 セバスチャンさんは、私の手から保護簿をひったくるようにして部屋を出ていってしまいました。冷静な執事さんでも興奮することがあるんですね。


 私は革袋から大金貨1枚を取り出します。

 貨幣価値の検討を再開しようと思ったのですが、署に戻れば電子はかりがあるじゃないですか。それで重さを量れば大金貨相当の金がどれほどの価値になるのか計算ができます。

 とりあえずやることもなくなったので、ベッドにもぐりこもうとしたとき、ドアがノックされました。

「わたくしです。ローレンシアです」

 おや、ローレルさんがご自分のお名前をフルでおっしゃいました。

「どうぞ」

 ローレル様を招き入れます。

 ローレル様は、すでに寝間着姿です。ローレル様の寝間着は、生成りの柔らかな生地でできた、ゆったりとしたワンピースのようなもの。ドレス姿も美しいですが、こちらは年齢相応のかわいらしさがマシマシです。

 ローレル様と私はベッドの縁に並んで座りました。

「今日は、危ないところを助けてくださりありがとうございました。改めて礼をさせていただくわ」

 いえいえ、たまたま通りかかったところでしたし、車だったのも幸いしました。

「実は、わたくし、フクハラ様に隠していることがございますの。命を助けていただいた方に秘密を持ち続けるのは心苦しく、こうしてお話をしに参りました」

「ああ、第四王女でいらっしゃることですね。存じております」

「えっ、なぜご存じですの? お父様からお聞きになりまして?」

 ローレル様が目を見開いて驚いています。

「いえ、閣下からは何も。私は鑑定のスキルを持っています。先ほど晩餐の際、ローレルお嬢様のお命の値段でローレル様と閣下がお話をしているのを聞いておりまして、あるところから出るお金という情報と、ローレル様がご自分の命の値段に自信をお持ちのご様子を拝見して、やんごとなきご身分の方ではないかと拝察いたしました。そこで、失礼とは思いましたが、その場で鑑定をいたしました。その結果です」

「そうでしたのね。フクハラ様がそのようなスキルをお持ちとは驚きましたわ。ところで、わたくしが第四王女、ローレンシア・メグロ・テンテルウスだとしても、変わらず辺境伯の娘として接していただけますか?」

「もちろんです。ローレル様がどのようなご身分であろうと、わたくしの気持ちには何ら変わるところはございません。ちなみに、テンテルウスのお名前から察するに、王族はテンテル様に連なるご家系ということなのでしょうか?」

「いいえ、お恥ずかしいことですが、王族はテンテル様の子孫ではございませんの。建国の祖であるテンテル様を敬い、その徳を受け継ぎたいと初代の国王がテンテルウスの名を戴いたという言い伝えがございます。ですから、血筋としては一貫しておりません」


 テンテル様、ダークエルフでしたものね。子孫がいれば私みたいな肌の人が少しくらい混ざってもよさそうです。それが、まったくいないということは、テンテル様は子をなさなかったのだろうと想像できます。初代の国王は血縁ではなかったと。

「あの、フクハラ様……今晩は、このままベッドをご一緒させていただいてもよろしいかしら。フクハラ様のおそばにいると、まるでテンテル様もそこにいらっしゃるような気がいたしまして、とても安らぎますの」

 ローレル様、耳が赤く染まっていらっしゃいますよ。

「ええ、もちろん構いません。こんなに広いベッドです。わたくし一人で寝るには広すぎて持て余しそうでしたから、願ったりかなったりです。さあ、どうぞ」

 私が先にベッドに入り、ローレル様を誘うと、恥ずかしそうに隣にもぐりこんでいらっしゃいました。

 ローレル様は、ひそと私に寄り添うとまたたく間に眠りに落ちました。なんて寝つきのいい子。

 私は、それが当たり前であるかのような自然な動作で、静かに寝息を立てるローレル様の頭を優しく撫でるのでした。テンテル様が生きていらっしゃったら、きっとこうしただろうという思いを抱きながら。


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